FAS(Financial Advisory Services)とは何か?役割やキャリアパスを解説

ここ数年、経営企画・経理財務などの専門性を活かしてキャリアアップを目指す方々の間で注目度が増しているキーワードの一つが「FAS(Financial Advisory Services)」です。

FASは、M&A(合併・買収)や事業再生、財務デューデリジェンスなど、企業が財務上の重要課題を解決するうえで欠かせないアドバイザリー業務を指します。従来は監査法人やコンサルティングファーム、投資銀行といった特定のフィールドでのみ認知されていましたが、近年は事業会社側が自社内に専門チームを設けるケースも増えており、その裾野は広がりを見せています。

そこで本記事では、FASとはそもそも何なのか、どのような役割を担い、具体的にどのような業務を行うのか、さらに転職やキャリアアップの観点から魅力とポイントを経理や財務など管理部門専門の転職エージェント「アガルートキャリア」が解説します。

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FASとは何か?

FAS(Financial Advisory Services)の直訳は「財務アドバイザリーサービス」。主にコンサルティングファーム、監査法人のFAS部門、投資銀行などで提供される専門サービスを指します。M&Aや企業再編、事業継承、資金調達、事業再生など、「企業価値や財務体質に直結する重要事項」にアドバイスを行うのが特徴です。

なぜFASが注目されるのか、背景

  • 日本企業の事業承継問題
    少子高齢化が進み、中小企業を中心に後継者不足が深刻化しています。オーナー経営者の高齢化に伴い、M&Aや企業再編による事業継承ニーズが高まっているため、FASの存在感も大きくなっています。
  • グローバルM&Aの活況
    国内企業が海外企業を買収したり、海外投資家が日本企業を買収したりする事例が増えています。クロスボーダーM&Aにおいては、より専門性が高く複雑な財務・税務の知識が求められ、FASの重要性がさらに増しています。
  • 事業環境の急速な変化
    デジタル化や新規事業創出などを目指す企業が、スピード感をもって買収や事業売却を進めるケースが増えています。こうした局面で、プロジェクトの立ち上げから完了までを横断的にサポートできるFAS人材は貴重です。

FASの主要業務とその具体例

FASの仕事は多岐にわたりますが、大きくは以下の5つに分類されます。それぞれ、実際の業務の流れや留意点を含めて具体的に見ていきましょう。

M&Aアドバイザリー

M&A(合併・買収)を成功に導くための戦略立案や実行支援を行います。

  • 買収戦略の策定: クライアント企業の成長戦略や市場動向を踏まえ、どのセクター・どの地域で買収するのが最適かを提案します。
  • ターゲット企業の選定・アプローチ: 候補となる企業リストを作成し、経営者や株主との初期交渉を手配します。
  • 交渉支援: 企業価値評価をベースに買収金額や条件を交渉し、最終的な取引スキームを固めるプロセスをリードします。

具体例:

あるIT企業が新規事業領域の拡大を狙い、SaaS(Software as a Service)関連のスタートアップ企業を買収しようとするケース。
FASの担当者は、まずマーケット分析や将来需要の予測を行い、買収候補企業の一覧を作成。その後、買収候補企業への初期コンタクトから企業価値評価(バリュエーション)、実際の契約書の条件提示・交渉までを支援します。

財務デューデリジェンス(FDD)

買収・投資判断の前に対象企業の財務状態を徹底的に洗い出す業務です。

  • 財務諸表の分析: 過去のPL(損益計算書)・BS(貸借対照表)の数字を精査し、経営に潜むリスクを特定します。
  • 資金繰りや債権・債務状況の確認: キャッシュフローの安定性や未払費用、偶発債務などの存在を調査します。
  • ビジネスモデルの検証: 単純な会計データのチェックだけでなく、収益構造や取引慣行など、ビジネスの持続性を検証することも重要です。

具体例:

ある製造業企業を買収する際、販売先が特定の大手企業1社に偏っていることがFDDで判明。しかもその大手企業との取引契約は短期契約で更新リスクが高い。これにより買収価格を再交渉し、ディスカウントを得た上でリスクヘッジ策を講じた、というようなケースがあります。

バリュエーション(企業価値評価)

DCF法や市場株価比較法、類似取引比較法などを駆使して企業価値を算定する業務です。

  • DCF(Discounted Cash Flow)法: 将来キャッシュフローを割り引いて現在価値を求める手法。事業計画の精度やリスクプレミアの設定がポイントになります。
  • マルチプル(類似会社比較)法: 同業他社の株価収益率(PER)やEBITDA倍率などを参考にしながら、妥当な評価額を算定します。
  • 特許・ブランドなど無形資産の評価: 技術力や知的財産権、ブランド力が主要な価値源となる場合、それらを定量化するノウハウが欠かせません。

具体例:

ある製薬企業の買収案件で、将来的なパイプライン(開発中の新薬)の価値をどう評価するかが焦点となった場合。DCF法に加えて特許の存続期間や市販化の成功確率を考慮し、開発中の薬剤1つひとつに試算を行い、企業全体の評価額を算出します。

事業再生・リストラクチャリング支援

経営難に陥った企業や部門の再建を支援する業務です。

  • 再生計画の策定: 財務諸表を分析して課題を抽出し、収益改善やコスト削減策を具体的に提案します。
  • 金融機関との交渉支援: 債権者や投資家と協議し、リスケジュール(返済猶予)や追加融資の条件を取りまとめることも重要な役割です。
  • 不採算事業の切り離し・売却: 必要に応じてMBO(マネジメント・バイアウト)や他社への事業譲渡など、抜本的な構造改革を進めます。

具体例:

外部環境の変化で売上が激減した老舗アパレル企業が、ブランドごとの採算性を分析したところ、いくつかのブランドが大きな赤字を生み出していることが判明。FASチームがリストラ策として不採算ブランドを売却し、銀行と返済条件を再交渉することで、コア事業に経営資源を集中できる体制を構築しました。

その他の財務関連アドバイザリー

  • 資金調達支援: エクイティ(株式発行)かデット(借入)か、最適な資金調達手段を選定し、実行をサポート。
  • IPO(新規上場)準備支援: 経営管理体制の整備や会計処理の高度化、開示資料作成などをトータルに支援。
  • ポスト・マージャー・インテグレーション(PMI): M&A成立後のシナジー創出を目的に、組織・人事・ITシステムの統合を推進。

参考:経理の転職市場の最新動向とSaaS・DXの影響

FASの重要な役割:経営判断を下支えする財務の目利き

FASの本質的な役割は、企業トップの意思決定を支えることにあります。特に以下の点で、FASは経営と密接に関わります。

経営戦略と財務戦略をつなぐ架け橋

M&Aや事業再生は、大きな経営戦略の一端です。買収や売却を通じてどの事業を伸ばすのか、どこにリソースを投じるのかといった意思決定は、企業の将来を大きく左右します。FASは財務・会計の観点から、戦略をより実効的にするためのシナリオを描き、具体的な数値シミュレーションを提示します。

リスクの可視化とコントロール

投資や企業再編には必ずリスクが伴います。将来キャッシュフローの予測ミス、見落とされた負債や偶発債務、想定外の経営環境変化など、リスク要因はさまざま。FASは財務デューデリジェンスや市場分析を通じて、リスクをいち早く顕在化させるとともに、リスク軽減策をクライアントに提案します。

FASに必要なスキルと知識

会計・財務の専門知識

公認会計士やUSCPA(米国公認会計士)、税理士などの資格が必須というわけではありませんが、多面的な会計・財務分析スキルは求められます(ポジションにより資格は必須です)。特にFDDやバリュエーションに携わる場合は、仕訳レベルの実務知識からIFRS(国際財務報告基準)などの国際会計基準まで幅広い理解があると強みになります。

論理的思考力・分析力

FASの業務では、短期間で大量の情報を整理し、リスク要因や成功要因を抽出することが求められます。数字やファクト(事実)を基にしたロジカルシンキングが苦手だと、プロジェクトを主導するのは難しくなります。

コミュニケーション力・調整力

案件によっては経営者だけでなく、金融機関、投資家、弁護士、税理士、IT部門など多彩なステークホルダーが関わります。彼らとのやり取りをスムーズに行い、ときには異なる利害を擦り合わせる必要があるため、コミュニケーション力とネゴシエーション能力は不可欠です。

プロジェクトマネジメント能力

FASは特定の期間内で成果を出す“プロジェクト型”の業務が中心。タイトなスケジュールでメンバーや外部専門家をコーディネートし、同時並行で複数のタスクを管理していくリーダーシップとマネジメント力が問われます。

FASのキャリアパス:多彩な選択肢

FASで身につく専門知識や経験は、コンサル・監査法人のみならず、多様なキャリアで活かせるのが魅力です。

FAS部門内での昇進

監査法人やコンサルファームのFAS部門では、アナリスト→シニアアナリスト(シニアコンサルタント)→マネージャー→パートナーといったキャリアパスがあります。案件の規模や複雑性が上がるに伴い、チーム管理や新規案件獲得(ビジネスデベロップメント)もミッションに含まれるようになります。

事業会社への転身(経営企画・財務部門)

事業会社側に移り、自社のM&A戦略立案や資金調達、再編をリードするポジションに就くケースも多いです。特に大手企業や上場企業では、M&A専任チームを持っていることもあり、FAS経験者が重宝される傾向にあります。事業会社が監査法人やコンサルファームのFAS部門を活用する際の窓口・担当はFAS経験者が担うことが多いです。

投資銀行やPEファンドへのキャリアチェンジ

投資銀行やプライベート・エクイティ(PE)ファンドは、M&Aや投資案件のプロです。FASで培った分析力やコンサルスキルは、投資銀行のアドバイザリー部門やPEファンドの投資担当として大いに活かされます。特にバリュエーションやデューデリジェンスの経験は高く評価されるポイントです。特にPEファンドへの転身は、成功報酬(キャリー)によって一般的な会社員では到底得られないような報酬を得られる可能性があり、人気です。

管理部門経験者がFASで活躍するためのポイント

経理・財務・経営企画など管理部門の経験は、FAS領域で強みとして活かせる要素がたくさんあります。

財務諸表・会計処理の実務知識

仕訳レベルから決算プロセス、税務対応まで網羅的に理解していると、財務デューデリジェンスでの異常値の発見や、実務的な提案に結びつけやすくなります。監査法人出身でなくとも、実務経験で得た現場感は大きな武器です。

経営層との折衝・調整の経験

管理部門は社内のさまざまな部署と連携し、経営者にレポーティングを行う機会が多いです。こうした経験は、FASにおけるクライアントとのコミュニケーションやプレゼンテーション、ときにトップ同士の交渉を橋渡しする役割でも非常に活きてきます。

業界知識・業務知識

特定の業界に深い知見がある場合、その業界特有の収益構造や会計処理のクセを理解しやすく、M&Aや再生案件の質を高めることができます。とりわけ製造業やIT・ソフトウェアなど、独自のビジネスモデルを持つ業界では専門性が求められます。

今後の展望と転職市場の動向

事業承継需要のさらなる拡大

日本国内では後継者不足が深刻化しており、小規模なM&Aの件数が拡大し続けています。大手監査法人やコンサルファームだけでなく、地域金融機関系のFAS部門やブティック型ファームなど、活躍の場が増えているのが現状です。

クロスボーダー案件の増加

経済のグローバル化が進む中、海外企業とのM&Aやジョイントベンチャー設立など、クロスボーダー案件も増え続けています。語学力や国際会計基準への対応ができるFAS人材の需要はますます高まるでしょう。

デジタル技術の活用

財務分析やデューデリジェンスの世界にもAIやデータ解析ツールが導入され、デジタルリテラシーのあるFAS人材が重宝されています。今後はITスキルも身につけることで、データを駆使した高度なアドバイザリーサービスを提供できるようになるでしょう。

まとめ

FAS(Financial Advisory Services)は、企業の財務戦略における最前線で活躍する専門領域です。M&Aや事業再生、バリュエーション、財務デューデリジェンスなど、企業の将来を左右する重要な課題に携わるため、責任が大きい分だけやりがいも非常に高い分野と言えます。

経理・財務の実務知識や社内調整の経験がFASでも大きな武器になります。さらに日頃の業務を通じて身につけた業界理解やビジネスモデルの知識は、クライアントへの具体的かつ実効的な提案へと結びつきやすいでしょう。FAS領域への転職を検討される方は、まず自分の強みや経験をどのようにFASの業務に活かせるかを整理しつつ、資格取得や英語力の向上を視野に入れるとより一層有利です。

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この記事の監修者

経理を主軸とした管理部門の方のキャリア支援を専門としており、特に伝統的な日系大手企業への転職に強みを持つ。その他にも国内外の会計事務所や、メーカー、商社、金融、IT、医薬ヘルスケア、消費財等々、多岐に渡る業界の企業との深いコネクションを有しており、会社規模もスタートアップから上場企業まで幅広く対応。

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