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QVCジャパン法務トップが語る「優れた法律家であり続ける」ためのキャリア戦略

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QVCジャパン法務トップが語る「優れた法律家であり続ける」ためのキャリア戦略

株式会社 QVCジャパン
ジェネラル・カウンセル
西岡 志貴

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外資系のグローバル小売企業というフィールドで、ビジネスの成長に直結する法務を実現してきたのが、株式会社 QVCジャパン(以下、QVCジャパン)のジェネラル・カウンセル・西岡志貴様です。

法律事務所での経験、スタートアップでの挑戦、そして外資系企業への転身。そのキャリアの中で一貫して追求してきたのは、「優れた法律家」であり続けることだったといいます。

今回は、組織変革や業務改善を牽引し、法務部門をJILAインハウス・リーガル・アワード三冠獲得へとリードした西岡様に、キャリアの歩みと法務組織の未来像について伺いました。

QVCジャパン ジェネラル・カウンセル 西岡様のキャリア

株式会社QVCジャパン西岡 志貴様

株式会社QVCジャパン ジェネラル・カウンセル 西岡 志貴様

まずは簡単に自己紹介をお願いします。

QVCジャパンでジェネラル・カウンセルを務める西岡志貴です。

司法修習を終えた後、都内の法律事務所で約7年半勤務しました。その後、AIを開発するスタートアップ企業にて法務責任者として約2年間勤務し、2021年にQVCジャパンに入社しました。2022年から現職を務めております。

西岡様は、最初は法律事務所からキャリアをスタートされたのですね。

そうですね。都内のブティック型の事務所で、企業法務を幅広く取り扱っているところでした。

専門分野に特化するというよりは、企業活動に関連する法務を全般的にご担当されたということでしょうか。

はい。特定の分野に限定されることなく、企業活動全体にかかわるさまざまな法務業務を経験できたと思っています。

ちなみに修習期は何期になりますか?

私は新64期になります。

インハウスへのキャリアチェンジのきっかけは何だったのでしょうか?

弁護士として7年も勤務していると、やがてパートナーになります。そうなると、法律の仕事だけでなく顧客獲得などの営業活動にも携わるようになりますよね。

そうしているうちに引き続き法律に直接携わりながら人の役に立ちたいと考えるようになり、インハウスという働き方に関心を持ちました。

なぜ外資系企業であるQVCジャパンに関心を持たれたのですか?

私が弁護士になったのが30代半ばと遅めだったのですが、日本の企業では年齢でやや不利になることもありました。

その点、外資系企業であれば年齢にとらわれず実力で評価されるのではないかという期待もあって、挑戦することにしたのです。

転職活動を経て、最終的にQVCジャパンを選ばれた理由についてもお聞かせください。

QVCジャパンが自社でテレビ局を持っているという点が魅力的でした。規制の厳しい業界の中で法務に携われることは、貴重な経験になると思ったのです。

また小売業であるという点も決め手の一つです。弁護士時代の経験から、小売の法務は非常に大変だということは理解していましたが、自分の経験を広げるという意味で、あえて挑戦したいと考えました。

QVCジャパンの事業概要とビジネスの特徴

自社スタジオがあるQVCでは、24時間365日番組を放映。様々な商品をお客様に届けている。

貴社がどのような事業を展開されているのか、概要を教えてください。

QVCジャパンは、マルチプラットフォームで魅力的な商品をお客様にお届けするという事業を行っています。テレビだけでなく、インターネットやSNS、さらには今後登場するであろう新しいメディアを通じて、選び抜いた商品をお届けしています。

当社は米国のペンシルバニア州に本社を置く外資系企業です。アメリカ国内でのマルチプラットフォーム小売業をはじめ、ヨーロッパの3カ国および日本を含めた5ヶ国で事業を展開しています。

ヨーロッパではどの国で事業を行っているのでしょうか?

ヨーロッパではイギリス、イタリア、ドイツの3カ国で展開しています。

取り扱う商品の種類も多岐にわたるとお聞きしました。

はい、取り扱っているブランド数でいうと1,500を超えています。そうした商品を、テレビ通販やインターネットを通じて、24時間365日お買い物いただけるように提供しています。

本日は「QVCスクエア」に来ていますが、社内にスタジオがあるのが印象的でした。

そうですね。本社1階にある生放送スタジオから、リアルタイムで放送をお届けしています。

チームで動ける法務部を武器に、ビジネス成長を支える体制を構築

現在の法務部の概要や規模感について教えていただけますか?

私たちの法務部は「リーガル&コンプライアンスチーム」という名称で運営されており、チームには3つのファンクションに分かれています。

1つ目がいわゆる法務を担当する「リーガル」、2つ目が個人情報保護などを専門に扱う「データプライバシー」、そして3つ目が倫理や内部統制を扱う「エシックス&コンプライアンス」です。

具体的な人数構成はいかがですか?

全体で7名のチームになっており、そのうち4名が社内弁護士です。

半数以上が有資格者ということで、かなり専門性が高いチームですね。

そうですね。外資系企業の法務部としては、かなり割合が高いのではないかと思います。

西岡様が入社した2021年と比べ、チームの規模は変わっていますか?

人数としては当時と大きく変わっていませんが、社内弁護士の数はここ数年でかなり増えました。

他社の法務チームと比べて、どのような点に強みがあるとお考えですか。

外資系企業の日本法人の法務部では、法務責任者が1人で全体を見ている「一人法務」のケースが少なくありません。

そうした中で、当社のようにチームで動ける体制をとれていることは非常に大きな強みだと感じています。

法務部が担う“営利企業の一員”としての自覚と価値観

「優れた法律家」であるという自負と、企業の営利活動に貢献する責任感を兼ね備えるのがQVCジャパンの法務パーソンだそう。

QVCジャパンの法務部が大切にしている価値観やポリシーを教えてください。

私たちが大切にしている価値観は、主に2つあります。

まずひとつ目は、私たちは営利企業の一員であるということです。法務部門は間接部門ではありますが、会社の売上と利益を最大化し、事業の成長を実現するためのサポートをすることが最大の目標だと認識しています。

もうひとつ大切にしているのは、私たち一人ひとりが優れた法律家、法務のプロフェッショナルであるということです。ここが揺らいでしまうと、法務部門の存在意義そのものが揺らいでしまいます。

ですから、企業の一員であると同時に、法律の専門家としての自負と責任を常に持ち続けることが非常に重要だと考えています。

事業成長においても重要な視点ですね。法務の存在意義をどのようにとらえていらっしゃいますか?

私たちは「自分たちは何者か」という問いを常に持っている必要があると思っています。その答えはいくつかありますが。

例えば、私たちは「イネイブラー(可能にするもの)」であり、できなかったことをできるようにする存在です。

また「ソルバー(解決するもの)」として、問題を解決する存在でもあります。ビジネスのスピードを高めたり、阻害要因を取り除いたり、必要があれば注意喚起をする役割も担っています。

JILAインハウス・リーガル・アワード受賞の背景

2024年度、日本組織内弁護士協会(JILA)が主催するインハウス・リーガル・アワードで、貴社の法務部門が中規模法務部門の「総合賞」「パートナー機能賞」「イノベーション賞」の3部門を受賞されました。まずはこのアワードに応募された背景を教えてください。

ここ数年、リーガル&コンプライアンスチームでは業務や意識の改革を進めてきました。

たとえば、自前のシステムを開発して案件受付のスピードを上げたり、法令遵守の体制を強化して社内に浸透させる取り組みを行ってきました。

私たち自身では一定の手応えを感じていたのですが、それを客観的な立場からどう評価されるのか知りたくて、応募することにしました。

社内だけでは見えない評価を、外部に問う機会だったのですね。

仰る通りです。ですから3つの賞をいただけたことは本当にうれしかったです。

これまでの取り組みが間違っていなかったという自信にもつながりましたし、社内でも私たちに対する信頼がさらに高まったのではないかと思います。

特に評価につながった取り組みとして思い当たるものはありますか?

特に「イノベーション賞」につながった取り組みとして、業務の自動化があります。

リーガル&コンプライアンスチームにはプログラミングのスキルを持つメンバーもおり、彼のリードでIT部門の力を借りずに自前で業務フローを自動化しました。

コストもあまりかからず会社への負担も最小限でしたし、こうした点が評価につながったのだと思います。

受賞後、社内の反応や変化などはありましたか?

大きく変わった点はあまりないのではないかと思っています。というのも、ここ数年、私たちは法務部門としての存在意義を問い直し、業務改善や信頼関係の構築に努めてきました。

そうした土台があったので、賞の有無にかかわらず、経営層やビジネスチームとの信頼関係はすでにできていたと感じています。

では、社内からの反応はどのようなものでしたか?

「おめでとう」といった言葉が多かったですね。

特別な驚きというよりも、私たちの貢献が自然と理解されていたことを実感できました。受賞がその裏付けになったのであれば、うれしいことです。

メンバーの皆さんの反応はいかがでしたか?

私自身も含めて、みんなで喜ぶことができました。実は、そこが一番うれしかったところです。

日々、会社のために高い専門性をもって貢献してくれているメンバーたちが、正当に評価されたと感じ、自信を持ってくれたことが何よりの喜びです。

「優れた法律家」であることを軸に希少性を磨く

弁護士としての確かな能力を土台に、その他のスキルを掛け合わせることで人材としての希少価値を高められると語る。

西岡様のご経験の中で特にターニングポイントになった出来事は何でしたか?

やはり、外資系企業に入社したことが大きな転機だったと思います。当然ですが外資系企業に入るには、英語での採用面接を突破する必要があります。

それまでの私にとっては非常に高い壁でしたが、長い時間をかけて英語を勉強し、乗り越えることができました。その経験は今の自分をつくる上で大きな意味を持っていると思います。

法律事務所では英語を使う機会はどの程度あったのでしょうか?

所属していた事務所は渉外案件も多く取り扱っていたので、実はかなり英語を用いる機会がありました。

契約書を読む、メールを打つといった読み書き中心の業務ではありましたが、英語に触れる機会は多かったと思います。

しかし会話の中で法律の深い内容を英語で説明するとなると、かなりハードルは高かったですね。

企業法務としてキャリアを築く中で、どんなことを大切にしてきたのですか。

まず何よりも自分自身が「優れた法律家」であり続けたいという強い思いがありました。
そのための努力は惜しまないという姿勢を大切にしています。

インハウスローヤーであっても私たちの価値は「法律の専門家であること」に根ざしていますし、そこからしか発しない価値も少なくありません。

誰からも信頼され頼れる法律家であるという軸を常に中心に据えてきましたし、今後もそうありたいと思っています。

そのうえで、単に優れた法律家であることに加えて、何か別のスキルを組み合わせることで、より希少な存在として価値の高い人材になれるのではないでしょうか。

若手法務人材に伝えたい「戦略的思考」と「幸せの軸」

西岡様は「自分の幸せを実現するには実力を付ける必要がある」と語る。ビジョンを持つのは簡単ではないが、それでも考えてみるのは将来のためになるだろう。

もし20代〜30代の自分に「これをやっておけ」と伝えるとしたら、何を伝えたいですか?

英語ですね。特に英語は、本当にコストパフォーマンスが良いスキルだと思います。ただし、身につけるのに時間がかかりますから、若いうちから始めておいた方がいい。

加えて、自分のキャリアを戦略的に捉える視点も大切にした方がいいですね。

戦略的な視点とは、どのようなものでしょうか?

たとえば「5年後、10年後にどんな弁護士になっていたいか」というビジョンを持つことです。

そのビジョンに向かって一番実現可能性の高い道を選んで努力を重ねていく。若いころからそういう視点を持って行動できていればよかったなと、今は思います。

将来のビジョンがなかなか見えない方も多いのではないかと思います。

確かに、将来を見通すことは簡単ではないと思います。ですが、仕事や職業というのは、人生と切り離せないものです。

だからこそ、「自分が一番幸せになるためには、どんな働き方を選ぶのがよいか」といった視点で考えてみることをお勧めしたいですね。

「自分が幸せになるためにはどんな弁護士であるべきか」を考え続けていれば、人生の節目ごとに自ずとヒントが見えてくるのではないでしょうか。そして、それは状況に応じて変わってもよいと思っています。

とはいえどんなに良いビジョンを描いても実際には「選ばれる側」である以上、採用されなければ実現しないという難しさもあります。

だからこそ「選んでもらえる確率を高める」ために、今できることにしっかり取り組むべきなんです。チャンスが訪れたときにそれを掴み取れるかどうかは、そのときの実力次第ですから。

「テクノロジーに親しむこと」がこれからの法務には求められる

変化の激しい時代の中で、法務部として今後求められることは何でしょうか?

やはりAIやデータ活用といったテクノロジーの進化に対応することです。

今ではどんな業界でもテクノロジーが浸透しており、法律問題を適切に扱うためには、その技術的背景や仕組みを理解する必要があります。

そうした変化に対応する中で、QVCジャパンの法務部として、どのような人材に来ていただきたいとお考えでしょうか?

基本は、やはり「優れた法律家」であることです。

もう少し具体的に言うと、法令解釈、裁判実務や要件事実論、立証責任や立証活動、事実認定といった「法律家としての基礎の基礎」をしっかりと身につけた方に来ていただきたいと思っています。

これが法務としての土台であり、そこに新たなスキルを積み上げていくことは人生を通じてできることです。

求職者へのメッセージ

最後に、この記事をご覧になっている弁護士や企業法務の皆さんに向けてメッセージをお願いします。

弁護士や法務プロフェッショナルの皆さん、外資系企業で法務を務めるというのは非常に魅力的なキャリアの選択肢です。少しでも関心を持っていただけたなら、ぜひチャレンジしてみてください。

本記事の内容は動画でもご視聴いただけます
動画:外資の法務トップが考える評価される法務人材|JILAアワード3部門受賞企業
株式会社 QVCジャパン ジェネラル・カウンセル
司法修習後、都内の法律事務所で企業法務を中心に7年半勤務。その後、AI系スタートアップの法務責任者を経て、2021年にQVCジャパンに入社。2022年よりジェネラル・カウンセルとしてビジネス成長に直結する法務を推進し、法務部門としてJILAインハウス・リーガル・アワード三冠を受賞。弁護士、米国カリフォルニア州弁護士、英国イングランド及びウェールズ事務弁護士。
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