
インハウスの実態
法律事務所からインハウスへ。QVCジャパンで広がる法務パーソンとしての経験
株式会社 QVCジャパン
シニアカウンセル/カウンセル
小嶋 潔/新沼 奏之介
弁護士や企業法務のプロフェッショナルにとって、インハウスローヤーとして働く魅力とは何でしょうか。株式会社 QVCジャパン(以下、QVCジャパン)の法務チームでは、キャリアを充実させながら家族やプライベートも大切にする働き方を実現し、さらにはビジネスの最前線で幅広い法務経験を積んでいます。
法律事務所からインハウスへの転身を成功させたお二人に、なぜQVCジャパンを選んだのか、その決め手や具体的な仕事内容、実際の働きやすさまで、リアルな声を伺いました。これからのキャリアを考える法務パーソン必読の内容です。
QVCジャパンで活躍するインハウスローヤーたちのキャリアと転機

株式会社 QVCジャパン シニアカウンセル 小嶋 潔 様
お二人の自己紹介をお願いします。
小嶋 QVCジャパンの小嶋です。よろしくお願いします。私は慶應義塾大学商学部を卒業後、旭硝子(現AGC株式会社)に就職し、約6年勤務しました。その後、会社を辞めて大阪大学高等司法研究科に進学し、司法試験に合格しました。
弁護士としては、3つの法律事務所で勤務しました。中でも一番長く在籍したのは石嵜・山中総合法律事務所で、使用者側で労働法を中心に取り扱っていました。QVCジャパンには2023年2月に入社し、現在で3年目になります。
新沼 QVCジャパンの新沼です。司法修習期は71期で、修習後に2つの法律事務所に計2年半ほど勤務しました。その後、前職のガスメーカーでインハウスローヤーとして2年半ほど勤務し、2024年3月にQVCジャパンに入社しました。よろしくお願いします。
小嶋様が法学部出身ではないというのは、ちょっと驚きでした。
小嶋 商学部出身ですから、ロースクールに入って初めて六法を買いました(笑)。
旭硝子でも6年の在籍期間のうち4年ほどは人事の仕事をしていて、残りの2年は広報IR室に所属していました。
人事にいたことで労働法には多少触れていたのですが、法律を体系的に勉強したことはなかったためロースクールに入ってから本格的に学んだんです。
弁護士になったあと、法律事務所からインハウスに転向したのはなぜですか?
小嶋 子どもが保育園に入り妻も働いているので、ワークライフバランスを考えるようになったことがきっかけです。法律事務所の弁護士の仕事は労働時間の波が大きく、バランスを取って働き続けるのは難しいと思いました。
新沼様も法律事務所に勤務されていたとのことですが、当時はどのような案件を担当されていたのですか?
新沼 最初に勤めた事務所は損害保険会社の顧問をしており、扱っていた案件の9割以上が交通事故に関するものでした。
その後、もう一つの事務所では内容が少し変わったのでしょうか?
新沼 はい。企業法務や相続といった一般民事を広く扱う、いわゆる「町弁」的な事務所に移りました。
そこからインハウスに転身された理由についても教えてください。
新沼 私も同様に、やはりワークライフバランスを考えたときに、インハウスの方がよいと感じました。
あとは交通事故を中心にやってきたことでキャリアが偏っていたので企業法務も含めて様々な分野に触れたいと思い、事務所と企業の両方で転職活動を進めていました。そんな中で、ご縁のあったQVCジャパンに入社したという形です。
QVCジャパン 法務組織としての業務内容

株式会社 QVCジャパン カウンセル 新沼 奏之介様
お二人ともさまざまな企業がある中で、なぜQVCジャパンを選ばれたのでしょうか。会社選びの決め手や魅力に感じた点を教えてください。
小嶋 転職エージェントから最初に紹介されたのがQVCジャパンでした。
実はゼネラルカウンセルの西岡のことをロースクール時代から知っていました。非常に優秀な先輩という印象があったので、「西岡さんがいるなら大丈夫だろう」と思えたことも大きかったです。ある意味でご縁を感じました。
もともと西岡様がいらっしゃることをご存じだったのですか?
小嶋 いえ、エージェントから「西岡さんという方がいるけれど、知っていますか?」と聞かれて、そこで初めて知りました。「ああ、聞いたことがあるな」と。それで安心感があって。
あともう一つ大きかったのが、QVCジャパンの本社がある海浜幕張という場所です。実は私、中学高校時代を海浜幕張で過ごして土地勘があったんです。知らない土地ではないということが勤務地としての抵抗感のなさにつながりました。
ありがとうございます。新沼さんはいかがでしょうか。
新沼 私も最初のきっかけはエージェントからの紹介でした。私は千葉県在住なのですが、転職エージェントから「千葉でぴったりの企業がある」と言われて(笑)。
キャリアの幅を広げたいという思いもありましたし、「千葉の企業で、外資で、仕事の幅も広い」という点でQVCジャパンを紹介いただきました。
最終的な決め手は面接での印象です。西岡と小嶋と話したのですが「この二人となら安心して働けそうだ」と思えました。面接の時点でここなら大丈夫だと感じたのが入社の決め手です。
小嶋さんは面接のことは覚えていらっしゃいますか?
小嶋 はい。西岡と話して、「どうやって新沼さんを引きつけようか」とかなり意識して面接に臨みました。
実際に入社されてから、印象が変わりましたか?
新沼 入社前と後でギャップはまったくありませんでした。今でも「ここに決めて良かったな」と思っています。
法務チームが担う業務の幅と役割分担

小島様は「商品の数だけ法規制がある」と笑う。ビジネスが展開するほど、法務の責任範囲も広がっていく。
QVCジャパンの事業概要を教えてください。
小嶋 当社はいわゆるテレビショッピングを展開している会社です。法律的には「通信販売」に分類される業態で、オンエアで商品を紹介し、電話・ウェブサイト・アプリなどを通じて注文を受けるという形です。
取り扱っている商品は非常に幅広く、ヘルスケアグッズ、アパレル、ジュエリー、食品などさまざまです。私が関わった中では、旅行商品を扱ったこともあります。
商品ごとに法的な取り扱いが異なるので、法務としても重要なポイントです。まさに「商品の数だけ法規制がある」という世界ですね。
お二人はどのような業務を担当されているのでしょうか。
小嶋 商品のバリエーションが多いこともあって、B2C、B2Bの両方に関わっています。
通信販売なので特定商取引法や例えばOAでの表示で景品表示法が絡んできます。ベンダーとの関係では下請法や独占禁止法といったビジネス法務に関わる論点も多く出てきます。そうした幅広い法的課題に対応するのが、私たちの基本的な業務です。
新沼 基本的には業務内容は小嶋と同じですが、私は契約書の審査やレビュー業務の割合が比較的高いです。小嶋の方がやや難度の高い法律相談や、いわゆる「トラブルシューティング」的な対応をしていると思います。
ベンダーとの関係などで問題が発生したときに、ビジネスサイドと連携して解決策を検討するのも小嶋の担当分野の一つです。
ただ、最終的には「2人で対応した方がいい」という場面もあるので、今はお互いにカバーし合いながら、担当領域を柔軟に広げていく形をとっています。
明確に線引きするのではなく、その都度協力して進めていくという体制なのですね。
小嶋 はい。会社としてもその方が合理的だと思いますし、今後も徐々に「一緒に対応できる領域」を広げていきたいと思っています。
法務として実感できた貢献の瞬間
業務の中で「法務として貢献できたな」と感じられたエピソードがあれば、ぜひ教えてください。
小嶋 たとえば先ほども触れた旅行商品を新しく取り扱う際には旅行業法が関わってきます。オンエアでどのように表現するかという景表法の観点も重要になります。
そのような中で、コンプライアンスを守りつつビジネスに支障なく導入できたときは、「法務として貢献できた」と実感します。
もちろん日々の積み重ねの中で成果が見えてくる部分も多いです。そうした実感を得られるのはインハウスならではのやりがいだと思います。
新しい商品が世に出るときに、「自分がいなかったらうまくいかなかったかもしれない」と思うことはありますか?
小嶋 そうですね。ビジネスサイドの方から「いてくれてよかった」と言っていただけることはあります。単に伴走するのではなく、ビジネス自体に入り込んでいくというのが、私にとっての面白さでもあります。
他にも法務として印象的だったプロジェクトなどがあれば、ぜひ教えてください。
小嶋 法務の仕事は大きく分けて2つあると思っていて、1つは予防的な対応、もう1つは火消し、つまりトラブル対応です。もちろん火消しの機会はないに越したことはないですが、予防法務の一環として、社内で研修を実施しています。
例えば昨年、独占禁止法と下請法についてマーチャンダイズ部門向けにトレーニングを行いました。すると、その内容をきちんと理解した上で「ここは法的に整理したけれど、この部分がよくわからない」と具体的な質問を持って相談に来てくれたんです。
前さばきをしてくれていたことがわかって、「これはすごいな」と感動しました。ビジネスサイドの法的なマインドセットが育ちつつあることを実感でき、会社としても大きなレベルアップだと思いました。
JILAインハウス・リーガル・アワードで3冠を達成した背景

インハウス・リーガル・アワード受賞を通じ、これまで行ってきたことに自信が持てたという。
2024年度、日本組織内弁護士協会(JILA)が主催する「JILA インハウス・リーガル・アワード」で、貴社の法務部は中規模法務部門においてパートナー機能賞、イノベーション賞、総合賞の3部門を受賞されました。この取り組みについて、どのように関わられたのか教えてください。
新沼 私は昨年の入社なので最初から携わっていたわけではありません。受賞につながった取り組みは、社内の各部門からの法務相談の窓口を一本化し、対応を自動化するためのシステムを構築したものでしたが、私は使用する契約書の約款の調整や社内向けのマニュアル作成といった、最終段階の仕上げに多く携わっていました。
受賞されたときの率直なお気持ちを教えてください。
新沼 素直にうれしかったです。そして何より驚きました。
我々としては社内業務を効率化する仕組みづくりをしたという自信はありましたが、他社はプロダクトベースで案件受付をしていたり、もっと洗練された仕組みを持っているのではと思っていたので、まさか3部門で受賞できるとは想像していませんでした。
小嶋さんはいかがでしたか?
小嶋 やはりうれしかったですね。賞をもらった記憶がほとんどなくて、小学校の書道の賞以来かもしれません(笑)。
表彰式で他社の受賞理由なども聞いたのですが、非常にレベルが高く、その中で選ばれたことに誇りを持ちました。「自分たちがやってきたことは間違っていなかったんだ」と、改めて自信につながりました。
ちなみに、応募のきっかけはどなたからだったのでしょうか?
小嶋 西岡です。「やってみよう」と声をかけてもらいました。私も西岡も自分たちのリーガルサービスに自信はありましたが、それが外部でどう評価されるかは未知数でした。だからこそ一度試してみようと考えて応募しました。
働きやすさを支える職場文化と柔軟な制度
QVCジャパンの法務部について、「一言で表すとどんな職場か」と聞かれたら、どう答えますか?
新沼 フラットなコミュニケーションができる職場だと思います。西岡や小嶋といった経験豊富な者と修習期や年次に関係なく相談や議論ができる風通しの良い環境です。
中途で入られたお二人ですが、外から入って驚いた点や印象的だったことはありましたか?
小嶋 私が入社したとき弁護士は西岡1人だったのですが、知見の深さと広さに驚きました。どんな法的論点でも返してくれるし、それが浅くない。何を投げても受け止めてもらえる安心感がありました。
新沼 私も先ほどの話と重なりますが、上下関係を気にせず話ができる職場だという点には驚きました。信頼関係があっても上下の差を気にしてしまう職場は少なくないですが、ここではそうした気遣いをあまりしなくていいという意味で、働きやすさを感じています。
働き方という点で、リモートと出社のバランスなどについて教えてください。
新沼 リモートワークの割合が高く、週2回は出社し残りの3日は在宅です。勤務時間もスーパーフレックスなので、プライベートの予定にも柔軟に対応できます。非常に自由度の高い働き方ができていると思います。
リモートと出社のバランスについて、法務組織の皆さんは共通しているのでしょうか?
新沼 そうですね。基本的には週2回出社していますが、用事があるときや体調が優れないときは無理に出社しなくてもよいという柔軟な運用になっています。とはいえ、基本的には皆さん週2で出社している印象です。
先ほどご家族のお話もありましたが、スーパーフレックスはやはりありがたいと感じますか?
小嶋 非常にありがたいです。時間に柔軟性があるというのは大きいですね。子どもが熱を出して保育園から呼び出されたときなど、会社に来ていてもすぐに帰ることができます。
会社全体として「家族と健康を大切にする」というスタンスがあり、休暇や柔軟な働き方に対して誰もためらうことがないというのは、非常に良いカルチャーだと思います。
残業は多いと感じますか?
小嶋 多いと感じたことはないです。これまでの法律事務所での働き方と比べると、明らかに異なるカルチャーです。
法務としての視野が広がる経験とやりがい
QVCジャパンでの法務の仕事で、やりがいを感じる瞬間はどのようなときでしょうか?
小嶋 私は旭硝子で人事労務を担当し、その後は弁護士として労働法を中心に扱ってきました。自分の専門分野としては労働法が一番長いです。
しかし当社では扱う法分野が一気に広がったという感覚があり、自分の中で大きな視界の変化を感じています。そこがとても面白いですね。
新沼 部署や部門を横断して問題解決に取り組める点は、当社に限らずインハウスならではのやりがいだと思います。
法律事務所では相談を受けて回答するという立場ですが、インハウスでは自らが決断する当事者になります。法務として気づける視点を活かして、部門横断的に課題解決できたときに大きなやりがいを感じます。
事務所経験が活きる、訴訟から逆算する予防法務

現在のキャリアを振り返ってみると、やはり「ファーストキャリアは法律事務所から始めたい」と語る。
事務所時代の経験がインハウスで役立っていると感じることはありますか?
新沼 私は法律事務所で訴訟案件を多く扱ってきたので、予防法務を行う際に「もし紛争になったらどうなるか」と逆算して対応することができています。事前に対策を講じる上で、この視点は非常に役立っています。
小嶋 私もまったく同じで、最悪のケースを想定して逆算しながらリスクを整理できるのは、事務所経験の大きな強みです。
仮に修習期に戻ってファーストキャリアを選べるとしたら、事務所とインハウス、どちらを選びますか?
小嶋 それは迷わず法律事務所を選びます。
新沼 難しいですが、私もどちらかと言えば事務所だと思います。
その理由を教えてください。
小嶋 インハウスから法律事務所に転職するケースはまだ少なく、インハウス歴が長くなると事務所側が採用しづらくなることがあります。
一方で、法律事務所からインハウスへは比較的スムーズに移行できる。そうしたキャリアの柔軟性を考えると、最初は事務所が良いのではないかと思います。
新沼 社内で事業部門と外部の法律事務所とをつなぐ役割を担うときにも、事務所経験があると「弁護士が何を欲しているか」「どう相談されると答えやすいか」がよく分かるので非常にやりやすいです。そうした観点からも、まずは事務所経験がある方が望ましいと思います。
ワークライフバランスが取りやすいことの他に、インハウスならではの魅力はありますか?
小嶋 会社にもよると思いますが、扱う法律の幅が広いというのはインハウスの大きな魅力です。またビジネスの一員として内部に入り込んで業務を進めていく経験は、インハウスでないと得られません。
今後、インハウスから法律事務所への転身も増えていくと思いますが、そのときに「ビジネスを進める視点」を持っているとより踏み込んだ実践的なアドバイスができるようになります。
外部の立場では見えないところに入っていけるという意味で、非常に面白い仕事です。
インハウスローヤーを目指す方へのメッセージ
最後に、この記事をご覧いただいている弁護士や企業法務部の方々に向けて、一言ずつメッセージをお願いします。
小嶋 インハウスローヤーの数は年々増えており、キャリアの可能性も広がっていると思います。最近ではCLOやCROといった新しい役職にもつながっており、キャリアパスの選択肢が多い働き方だと感じています。少しでも興味がある方は、ぜひ挑戦してみていただきたいです。
新沼 私は法律事務所を経てインハウスに転身して本当に良かったと思っています。もちろんワークライフバランスの面もありますが、それ以上にキャリアの幅が広がりました。
企業の中でどのように意思決定されているかを知る経験は、非常に貴重だと感じています。少しでもインハウスを検討している方には、ぜひおすすめしたい選択肢です。
動画:外資で働く企業内弁護士|JILAアワード3部門受賞


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