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「0次流通」マーケットで新たな価値創造を目指すマクアケ法務部
株式会社マクアケ
コーポレート本部 執行役員 企業法務部長 兼 人事部長/企業法務部
千葉 大吾/崔 英柱
ビジネスが劇的に変化する時代、企業法務には単なる「守り」だけではない新たな役割が求められています。株式会社マクアケの法務部は、まさにその最前線を走る存在です。
応援購入サービス「Makuake」を軸に、革新的なビジネスモデルを支え、企業の成長を促進する法務として活躍するのが同社の千葉様と崔様。彼らがどのようにして攻めの法務を実践し、企業の挑戦を支えているのでしょうか。
その戦略、組織体制、法務カルチャー、そして未来の法務像までを詳しく紐解いていきます。
千葉様・崔様のご経歴

株式会社マクアケ コーポレート本部 執行役員 企業法務部長 兼 人事部長 千葉 大吾様(左)・同 企業法務部 崔 英柱様(右)
お二人の自己紹介をお願いします。
千葉 千葉と申します。よろしくお願いします。株式会社マクアケで執行役員と企業法務部長及び人事部長を兼務しています。
以前は人材・教育・介護を手掛ける企業法務部に約10年ほど在籍していました。その後、2017年12月に株式会社マクアケに、いわゆる「一人目の法務」としてジョインしています。
これまでに法務の立ち上げやIPO、ABBによる資金調達などを実施しながら、企業法務全般や知財法務業務を遂行してきました。昨年の4月からは人事部長も兼務しています。よろしくお願いします。
崔 株式会社マクアケ企業法務部の崔と申します。当社には2022年4月に入社し、現在4年目です。
前職では小売企業の契約法務やコーポレートガバナンス・コード対応、会議体事務局などを中心に約8年ほど法務を行ってきました。
当社入社後は、主に契約法務や社内法律相談、臨床法務を中心に業務を行っています。本日はどうぞよろしくお願いします。
「アイデアを形にする」応援購入サービスの仕組み
貴社のビジネスがどのようなものか教えてください。
千葉 当社は2013年5月に設立した会社で、従業員規模は現在160人程度です。「生まれるべきものが生まれ 広がるべきものが広がり 残るべきものが残る世界の実現」というビジョンを掲げ、応援購入サービス「Makuake」を提供しています。
たとえば、実行者様がネクタイの生地が廃棄されてしまうことに問題意識を持っていて、何とか再利用したいという思いから立ち上がった名刺入れのプロジェクトがあります。
応援購入のプロジェクトには期間が設定されており、期間中に実行者と購入者との売買契約が成立します。期間終了後に生産がスタートし、「リターン」という形で商品が届けられる仕組みです。
事前にどれくらい売れるかが分かるため在庫リスクを抱えなくて済み、実行者様にとってはチャレンジしやすい環境が整います。
このようにマクアケは、まだ世の中に出回る前のアイデアを流通させたいという方々をサポートする事業を展開しています。
法務部には何名ほど所属しており、どのような組織体制なのかを教えてください。
千葉 当社の企業法務部は現在4名で運営しています。
役割としては、いわゆる予防法務・臨床法務・戦略法務・リスクマネジメント・知財、そして機関法務と、ざっくり6つの領域を担当しています。
バックグラウンドは多種多様で、企業法務経験者が2名、中国の弁護士資格を持っている者が1名、そして証券会社で営業をしていた法務未経験者が1名という構成です。年齢は30代から40代前半が中心になっています。
中国の弁護士資格をお持ちの方がいらっしゃるとのことですが、その点での優位性はありますか。
千葉 はい、当社の実行者様の中には中国の方も多数いらっしゃいます。そのため、中国の法律を理解していることは確実に強みになると思っています。
当社は新しい試みに挑戦することが多い事業です。日本法での考え方と海外法での考え方を比較する際に、「中国ではどうなのか」という別の視点を加えられることは、とても大きなアドバンテージだと考えています。
転職を決めたきっかけ 「ワクワク」を追いかけマクアケへ

千葉様は「家族に自慢できるサービスかもしれない」と思い、入社を決めたそう。
千葉様がマクアケに入社をしたのはなぜでしょうか。
千葉 前職で約10年ほど法務をやっていたとき、長く在籍すると組織内での信頼を得られる一方、「このままで良いのかな」「自分の市場価値はどうなんだろう」という思いを抱くようになりました。そこで比較的軽い気持ちで、転職活動を始めたのがきっかけです。
当時36歳くらいでしたので、まだまだキャリアはこれから続いていくと思い、他社も少し見てみようかなと。シンプルに「ワクワクするにはどうしたらいいのか」という基準で企業を探していたんです。
数ある中で最終的にマクアケを選んだ決め手は何だったのでしょうか。
千葉 やはりビジネスモデルの魅力をすごく感じました。
ものが手元に届く前に売買契約が成立する仕組みはかなり特殊ですよね。これは、日本の産業を発展させるために必要な形なのではないかと思ったんです。
海外にはエンジェル投資家と呼ばれる人たちがいて、寄付や投資の文化が根付いていますが、日本はまだそういった文化が醸成されていない部分がある。産業が衰退していく可能性を感じるなかで、投資や寄付のハードルを下げるようなサービスはとても価値があると思いました。
実際に何社か転職先の候補はありましたが、その中でも「この会社しかない」と思ったんです。当時面接を受けた取締役の方がとても熱意を持っていて、目をキラキラさせながら「うちのビジネスモデルはどうだ」とプレゼンしてくださって(笑)。
それを聞いているうちに「こんなに素晴らしいサービスなら、チームや家族に自慢できるんじゃないか」と感じまして、そこから本気でマクアケを目指そうと思うようになりました。
まさにご縁という感じですね。
千葉 本当にそうだと思います。
崔様はいかがでしょうか。
崔 前職の法務として入社した頃、ちょうどコーポレートガバナンス・コードが始まったばかりだったんです。会社としてゼロの状態からその対応を構築していくという業務に携わって、5~6年積み重ねていく中で、ある程度やりきったという満足感が得られました。
またそこにコロナ禍が重なり、小売業のビジネス環境が激変してしまい、会社として事業を積極的に推進しづらくなってきました。
ガバナンス領域の仕事にひと区切りついたタイミングでもありましたので、「もっと新しい事業を推進していく法務をやりたい」という気持ちが強くなったんです。
そうした中で、まさに事業推進に積極的に関与できる法務を募集していたのが当社だったため、応募して入社したという流れです。
最近は「攻めの法務」という言葉もありますが、様々な企業を視野に入れる中、現職に決めた理由はどのようなものでしょうか。
崔 選考を通じてお会いする方々の表情が一番良く、「この会社なら新規ビジネス推進に楽しく携われそうだ」と感じたことが大きいですね。また最終面接で社長とお会いした際、別れ際に「よろしく」と握手をしてくださったのが印象に残っていて(笑)。
変化の激しい事業環境で法務が果たす役割
法務部が果たす役割や具体的な業務内容を教えていただけますか。
崔 当社の法務部は今、千葉を含め4名いるのですが、主に担当している業務が3つあります。
1名が会議体を中心としたコーポレート法務を担当して、残りの2名が契約法務と臨床法務を分担して対応している形です。
ありがとうございます。役割分担をしつつ、互いに協力し合う形でしょうか。
崔 そうですね。担当は分かれていますが、自分の業務だけで完結させるのではなく、毎週共有の時間を設けたりしています。
会議体担当が1名、契約法務担当が2名いるのですが、私自身が前職の経験もあって会議体の方もある程度サポートできるので、そこで協力し合う部分もあります。
日々のタスクや依頼事項についてはシステムを使って常に共有し、誰が休んでもカバーできるようにしています。
新しい事業をやる際のルールメイキングなども法務の担当になることが多いですよね。そういう業務もあるのでしょうか。
崔 はい。当社の基幹事業である「Makuake」の利用規約やサービス規約、それから新機能を追加するときのルールメイキングなどは企業法務で担当しています。
また、さまざまな企業との業務提携における契約書のドラフトなども当社法務部で行っています。
千葉 少し補足しますと、会社が意思決定するときに必要な権限規程などのルールメイクも法務部がやっています。
この契約の承認を取るのにどこまで決裁者が必要なのか、あるいは以前の段階では妥当だったルールが今は正しいのか、といったところを常に疑うようにしているんです。そういう社内ルールは頻繁に見直すようにしています。
やはり変化が激しいと、以前のルールが合わなくなってしまう場合も多いですか。
千葉 そうですね、結構あります。
企業は「生き物」ですから、環境が変わる中でルールもアップデートしなければいけません。そうしたときに、企業法務がどうやって強みを出していくかが試されるのかなと思っています。
マクアケ法務部が持つ「4つの強み」

自社のビジョン・ミッションを実現するために、法務も積極的に事業に関与していく。
貴社法務部の強みや独自性はどこにあるのでしょうか。
崔 単に法的な見解を示して終わりにするのではなく、常にビジネスを推進するという姿勢がミッションとしてあることです。
ビジネスを前に進めるために一番最適な解決策は何かを、近い距離感で一緒に考えられる環境があるところが当社法務部の強みだと思います。
千葉 そうですね。今の話に加えて、私からは3つほど挙げたいと思います。
1つ目は「組織力」です。当社では「9ホリデー」という形で9連休を取得する取り組みをしているのですが、そうすると必ず誰かが休むタイミングが生まれます。その際必ず引き継ぎを行うため、業務がブラックボックス化しづらいんです。
そのおかげで誰かが休んでも他のメンバーがフォローできる。そうした仕組みが組織としてのパワーにつながっていると思います。
また、半年に1回「振り返り」を行っています。法務部だけでなく、事業部や経営層にもアンケートを取り、私たちの弱みが何かを収集してブラッシュアップするということを、もう3~4年続けています。
2つ目は、先ほどの「事業と経営との距離感が近い」という話に近いのですが、何かが決まる際に法務があとから知るのではなく、かなり前の段階から相談に来るのが当たり前になっているんです。
相談件数が多く手が回らない部分もありますが、その分、早い段階から事業と連携できていると思います。
経営会議も企業法務が関与して運営しており、数字面や今後の方向性などを把握しやすいので、法務としてどう動くべきか見えやすいところが強みです。
3つ目は「挑戦力」です。これが一番の強みかもしれません。当社は「世界をつなぎ、アタラシイを創る」というミッションを掲げています。法務としても新しいことに挑戦しなければミッションを体現できません。
それを踏まえ、2018年の段階で電子契約を導入したり、CLMなどのリーガルテック系ツールを自主的に取り入れたりしています。
業務の効率化が図れると分かった時点で、自分たちで設計を進め、最近話題のAIも積極的に取り入れようという動きがあります。
さらに、人的資本経営が注目されていますが、その考え方を法務に活用できないかと思い、独自の指標「SK-2」を使っています。
SK-2は「Speed(スピード)」「Specialist(スペシャリスト)」「Knowledge(ナレッジ)」「Kind(カインド)」の頭文字を取ったものです。
たとえばスピードを1日縮めることで1日の日販が伸びる可能性があるように、法務の対応スピードが売上に貢献しうるという仮説を持っています。
私たちはバックオフィスではなく、無形資産として価値を提供しているという部分を定量化しながら、法務が会社の成長に貢献する形を目指しているんです。
アンケートを取るというお話もありましたが、これは経営層や他部署のビジネスサイドの方々からも法務への意見をもらうということでしょうか。
千葉 そうです。私たちの最も身近なお客さまは会社の従業員や部署だと思っているので、皆さんがどう感じているかを定期的に把握する必要があると考えています。その意味で、このアンケートは貴重な財産になっています。
個人の「属人化」を防ぎ、外部からの意見を積極的に取り入れるなど、オープンなコミュニケーションをかなり意識しているのですね。
崔 はい、意識的に取り組んでいます。実際、コミュニケーションは多いほうだと思います。キャラクターの面もありますが、私以外の2名が女性で、天真爛漫な感じのタイプなんです(笑)。
日々の業務では必ず全員とコミュニケーションを取るようにしていて、困りごとや悩みはすぐに相談します。
タスクもシステム上で見える化しているので、万が一私が体調を崩しても、他のメンバーがすぐに対応できるようになっています。
生まれる前の商品の取引を支える「0次流通」
強みについてお話を伺いましたが、独自性やユニークな点についても教えてください。
千葉 当社の基幹事業は「0次流通」と呼ばれ、世の中に出回る前の商品を生み出すという点がポイントです。
さまざまなステークホルダーが関わる中で、法務としても各ステークホルダーの目線を大切にしながら取り組むところは、当社の大きな独自性だと思います。
またMakuakeでデビューしたプロダクトやサービス、実行者の想いをどう「1次流通」につなげていくかという部分では、さまざまな企業との提携を検討することが多いです。
その際に「新しい契約書」や「新しいルール」を1から一緒に考えていくのも、当社の法務の取り組みとしてオリジナリティのある部分かなと感じています。
「0次流通」とはどのようなことでしょうか。
千葉 0次流通の中心は当社サービスのMakuakeです。
Makuakeを運営するにあたって、まずは大元となる利用規約やルールの策定・改定に関わっています。実際に運営を続けていると、法令対応が必要になることや、見直すべき部分が出てきますので、そうしたタイミングで改定を行います。
また、組織も刻々と変わっていく中で「こういうふうにオペレーションを改善したいが可能か」といった相談を社内のクライアントから受けることが多いです。それに対し、今の組織やビジネス環境を踏まえながら「こういうリスクがあるが、これくらいは許容可能」といった解決策を提示します。
この繰り返しで、実行者が使いやすくサポーターも応援しやすい環境を整えることを常に考えています。そういった部分が当社ならではのオリジナリティではないでしょうか。
企業法務とプロジェクト法務の二刀流体制
プロジェクトを推進していくと、さまざまな審査やチェックが必要になるかと思います。これは法務部とは別に、そういった業務を専門で行う部署があるのでしょうか。
千葉 はい。当社には別の組織として「プロジェクト法務局」があります。もともと法務が立ち上がった当初は、企業法務部とプロジェクト法務局という2つの部門は分かれていませんでした。
しかし、成長に伴って案件数が数百件にまで増え、すべてを正しく処理するのが本当に難しくなってきたんです。このままでは会社が回らなくなるという危機感がありました。
そこで約5年前くらいから、プロジェクト法務局と企業法務部を分けて運営を始めたんです。プロジェクト法務局が立ち上がったことで、各プロジェクトの信頼性は格段に増したと感じています。
法務がビジネスを動かす瞬間に立ち会える
実際にマクアケさんの法務で、事業にしっかり貢献できたエピソードを教えてください。
崔 「貢献」という言葉が正しいかは分かりませんが、法務としていろいろなルールメイキングに携われているのは大きいと思います。
いくつか例を挙げると、まずMakuakeには昨年新しく「レビュー機能」ができたのですが、その規約を作成しました。レビュー投稿にはステマ規制の問題も関わるため、関連法令を踏まえたルール策定を行いました。
また、「良い実行者様」を会社として推薦していきたいという考えがあり、「グッドプロジェクトマーク」や「推奨実行者」という仕組みを設けています。
サポーターから高い評価を受けている実行者にマークを付与したり、多くのサポートを集めているプロジェクトをレコメンドしたりと、プロジェクトや実行者を推奨する制度です。こちらも、隣接する法令や規約を踏まえてルール作成をしました。
さらに有名ブランド企業とのコラボプロジェクトを当社のプラットフォームで実施する際には、IP(知的財産)を使用するための契約業務にも関わりました。
最近では「OC TOKYO -推しコマース東京-」というリアルイベントを原宿で開催し、出展する実行者様との間で法的に問題がないか、契約上どのように進めるかなどを、一緒に検討しています。
こうした形で事業に深く入り込むことができるのが、当社法務の特徴だと思います。
ビジネスそのもの、サービスそのものを理解していないと難しそうですね。
崔 そうですね。特に業務提携をよく行うビジネスディベロップメント部とは定例ミーティングを設けています。
そこでは「新しくこういう取り組みを予定しています」といった情報を初期の段階から共有してもらえますし、もし懸念点があれば早いうちに話し合うことも可能です。
そうすることで、私たち法務も営業サイドの意図やビジネスの内容を深く理解できます。
千葉さんはいかがでしょう。印象深い貢献事例があれば教えてください。
千葉 IPOやABBによる資金調達は大きな業務かなと思います。ただ、個人的に思い入れがあるのは、当社のビジョンである「生まれるべきものが生まれ 広がるべきものが広がり 残るべきものが残る世界の実現」をどう形にするか、という点です。
ビジョンを実現するには「実行者様が挑戦しやすい環境」をつくることが大事だと思っています。ただし、挑戦に100%の正解はないのではないかとも思います。
失敗してもある程度は許容される世界観を作ることができれば、より多くの挑戦が生まれ、結果的に当社のビジネスも伸びるのではないかと考えています。
そうした考え方のもとに制度を構築した事例が2つあります。1つは「PL保険制度」です。事業者様が個別にPL保険へ加入するのはコストや審査面でハードルが高いのですが、それを簡素化できるような制度を保険会社様とコラボして設けました。
もう1つは「返金制度」です。通常のECの返金制度とは少し違う形ですが、実行者様の挑戦を考慮しつつ、支援者の皆様にも安心してもらえる仕組みになったと思います。
それから昔、私が審査を担当していたころの話ですが、あるプロジェクトのネーミングを見たときに「これ、商標が取られていないのでは」と気になったことがありました。
そこで「商標を取ったほうがいいのではないですか」とお伝えしたら、実際に取得されて今も活用されているんです。それが当社に直接どれだけの利益をもたらしたかは別として、ビジョンの観点から考えると正しいサポートができたと感じています。
マクアケの法務パーソンとして得られるスキルと成長環境

前職では部署間の利害調整が難しかったという崔様。マクアケは自然と「全社最適」が保たれているという。
貴社法務部に入ることで培えるリーガルパーソンとしてのスキルや経験について、どのようにお考えですか。
崔 私が当社に入社したいと思った動機にも通じるのですが、ビジネスを推進するという視点での法務的アドバイスとは、単に法令や法律の解釈を伝えるだけではありません。
サービスやビジネスをもっと良くしていくという目線を持ちながら、一緒に悩みながら進める経験ができるのは大きいと思います。
千葉 法務の人数がそれほど多くないこともあって「ジェネラリストの法務」としての経験を積みやすい環境です。部署内で「これしか担当できない」というわけではなく、機会があれば幅広く挑戦できます。
また、当社はまだ成長期にありますので、その成長期の法務がどんなものかを体験できるのもポイントです。
会社には良いときもあれば悪いときもあります。その中でリスクテイクやリスクマネジメントを真剣に考え、どのようにしていくのが最適かを模索することが面白いです。
貴社法務部のカルチャーについて伺いたいです。抽象的な質問ですが、もし1つの言葉で表すとすれば、どんな言葉になるでしょうか。
千葉 「全社最適」だと思います。うちの法務メンバーは本当に素晴らしくて、部署単位のことだけでなく「会社として最適解は何か」を常に考えています。
「これって法務の自己満足になっていない?」「会社全体が満足できる形があるはずだよね」といったように、部署ではなく全社目線で物事を捉えようとしているのがカルチャーかなと思います。
崔 実際、私も前職が大きな企業だったこともあり、縦割り組織で各部署の主張がそれぞれ強いという環境を経験しました。そこで横串を刺すのは難しかったんです(笑)。
しかし当社に入ってみると、少なくとも法務に相談していただくときには全社目線を大切にしてくれます。
各部署の立場を踏まえながらも、最終的にみんなが幸せになるにはどうすればいいかを考える。この視点を常に持っている方々が多いのだと感じています。
「仕事 対 プライベート」ではなく「仕事もプライベートも」
今の話にもつながるかと思うのですが、法務トップとして組織運営をされるうえで大事にしている点は何でしょうか。
千葉 大きく2点です。
1つは「ビジョン」で、素晴らしいビジョンを達成するために持続可能な成長をどう実現するかという目線を常に持っています。
もう1つは「働き方」の部分で、「ワークインライフ」を意識しています。一般的にワークライフバランスというと、仕事とプライベートが対立するようなイメージになるかもしれません。
しかし1日の3分の1を仕事に費やすわけですから、その時間が幸せでなければ人生を損しているのではないかと思うんです。どうしたら仕事が人生の中で豊かになっていくかを常に意識しながら組織運営をしています。
先ほどの「9ホリデー」などもその一環で、会社側としてナレッジが貯まっていくというメリットはあります。ただ一方で、たとえば「仕事が忙しいから海外旅行に行けません」という環境だとしたら、「プライベートを犠牲に仕事をしろ」と言っているようなものではないでしょうか。そこで社員の選択肢を狭めたくはないんです。
そういった意味で、ワークインライフと持続可能な成長は、かなり意識しています。
あとは、持続可能な成長のためには、当然個人のスキルを伸ばすというところはマストです。
私は個人を伸ばす上では、短所よりも長所を伸ばした方が絶対に効果的だと思っており、「この人の長所はなんだっけ」とか考えながら仕事を割り振ったりしています。
従業員の市場価値を高めてあげるというのは、マネジメントとして大切なことです。単純な基準としては「履歴書に書ける業務を増やしていくこと」なのかなと。
今日お話ししていて、非常に仲が良さそうだなという印象がありますが、実際、普段業務をしている時の雰囲気はどんな感じですか。
崔 今日のこの雰囲気は、めちゃくちゃ畏まっていると思います(笑)。普段はもっと砕けていますね。
もちろん真面目な話をする時は真面目に話しますが、通常の業務の時は何も気兼ねなくコミュニケーションしています。
しかも私たちはどちらかというと、意見を言われることが多い立場です。ほかのメンバーが自由に発言し、ストレートに思ったことをぶつけてくれます。
そのうえで、しっかりコミュニケーションをとる、という感じですかね。
今、働き方でいうとオフィスに皆さん来ていらっしゃることが多いのですか。
千葉 現在は「原則リモートワーク・隔週で1回出勤(2025年3月末時点)」という形態に全社的に移行しています。
会社や同僚へのリスペクトを持つメンバーが求められる
貴社の法務部にはどんな方がフィットしそうでしょうか。
崔 当社は会社としてビジョン・ミッションをすごく大事にしている企業ですので、法務部としても会社のビジョン・ミッションをしっかり体現しようという気持ちがある方が望ましいと思います。
ビジョン・ミッションの実現に真摯に取り組んでいる人たちを法務として応援しつつ、自分としても挑戦していけるような方と一緒に仕事ができれば良いなと思っています。
千葉 今の話はもちろんなのですが、私自身が大切にしているのは「他責にしない人」であることと、「過去の決定へのリスペクトができる人」です。この2点は結構大事なポイントだと考えています。
当社はこれからどんどん伸びていく会社で、限られたリソースの中でその時々の最適解だと思われる組織体制やルールを作ってきた経緯があります。
そのため、途中で入社した人からすると「なんでこんな組織になっているんだろう」「なんでこんなルールなんだろう」と疑問に思う部分は当然あると思います。
そこでルールを変えようとすること自体はいいんです。しかし、過去へのリスペクトがないと「これはダメなルールだから変えましょう」で終わってしまう。正しいかもしれませんが、気持ちよくはないですよね。
「このリソースの中でこれを作ってくれて、まずはありがとう。その上で、現状のフェーズに合っていないから変えていこう」というプロセスを踏むと、気持ちよくルールチェンジもできます。
サービスのルールメイクでもそうですが、規程を変えるにしても、そういった過去の背景も踏まえながらやっていける方が、今、成長期にある当社においては必要です。
やはり誰も攻撃されたくないですし、自分がやったことを否定されたくないという気持ちはあると思います。会社の意思決定となると、急にそれができてしまうことがあるかもしれませんが、実際は必ず誰か人が意思決定しているわけです。
否定することで傷つく方は少なからずいると思うので、「過去に決めてくれてありがとう。ただ今はこういう状態だからこう変えましょう」というプロセスを踏める方が多いと嬉しいですね。
これからの企業法務に求められる「人間の力」

「AIに取って代わられる」可能性は法務にもある。人間が携わる意義を追求することが重要だ。
これからの法務部の業務や役割は、どのように変化すると思いますか。
千葉 昨今、テクノロジーの進化、AIの台頭やグローバル化、日本国内では労働人口の低下など、いろいろな変化があります。そのような状況下で、企業法務としては「AIとどうやって共存していくか」が絶対に問われるでしょう。
ある意味、脅威としても考えなければいけない部分があります。最近の生成AIなどは本当に素晴らしい技術で、法務がそもそも必要なくなる世界というのも十分あり得ると感じているほどです。
契約書のひな形などはAIが作れるようになっていく一方で、人間がやらなければいけないことは意思決定ですね。
取引先に対してどうやって意思決定させていくか、あるいは社内の意思決定者にどうアプローチしていくか。人間が働いている以上、より効率的に相手に合わせた法務サービスを提供できるかどうかが、これからはより問われるのではないかと思います。
今までは定型的なことをやっていればよい、というようなバックオフィス的な業務が法務の仕事だと考えられてきた部分があると思いますが、それだけだとAIに取って代わられるでしょう。
そうではなく、「この人の仕事としてはこれをやらなければいけない」というところまで落とし込める、本当に人を見た仕事のカスタマイズ化が、これからの法務には求められるようになるのではないかと思います。
逆に変わってはいけない、しっかり守るべきところもあるのでしょうか。
千葉 法務というものが何のためにあるかというと、会社の成長のためにあると思っています。特に、法務は持続可能な成長のための組織のはずです。
ですので「法的な正しさ」は絶対に譲ってはいけません。AIが答えを出してくれる時代ですが、「本当にそれは正しいのか」「リソースの正しさはどうなのか」「根拠はどうなのか」を詰めていくところは、法務としてなくしてはいけない部分だと思います。
崔 私自身、法務で仕事をして10年ほどですが、10年前は定型的な契約審査などをこなして回答を出す業務が中心でした。
ところが今はAIの進化などもあって、単純に知っている知識をそのまま吐き出すような仕事の重要性はどんどん下がっているのかなと思います。
そうした中では、さまざまな状況下で法的な前提を踏まえつつ、最終的に会社としてどういう意思決定に導くのかをナビゲートする力が求められます。逆にそれができないと、法務としての市場価値もなかなか上げていけないのではないでしょうか。
周辺のビジネス判断まで見据えながらナビゲートできるような、吸収力や対応力も必要になるはずです。
求職者へのメッセージ
このインタビュー記事をご覧になっている方々は、法務でキャリアを築いていこうとか情報収集している方が中心かと思います。そういった方々に向けて、メッセージをお願いします。
千葉 AI化が当たり前になってきていますが、自分自身のキャリアをどうするかは自分で意思決定するしかないと思っています。情報はあふれていますが、自分で見て、聞いて、感じて、最終的に判断を下す。それに尽きると思います。
弁護士有資格者の企業法務部での活躍機会が増えていますが、有資格者でない方にとっても、AI化の波は逆にチャンスになると考えています。自分に合っている人生は何なのか、という目線でキャリアを選択していただければ幸いです。
崔 AIの進化など技術革新で、法務パーソンとしての環境も刻々と変化していると思います。そのような環境で、自分が法務パーソンとしてどういうキャリアを描きたいのか、そこをしっかりと持っていただきたいです。それに合う組織を探すことで、よい縁につながるよう願っています。
動画:企業成長を後押しするマクアケの法務戦略とは


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