法務部インサイド
“相談される法務”のつくり方
PHCホールディングスに学ぶ信頼構築と社内連携
						
							
								PHCホールディングス株式会社
								法務・コンプライアンス部 上席部長							
							虎山 茂政
糖尿病マネジメント、ヘルスケアソリューション、診断・ライフサイエンスの事業領域において世界125以上の国と地域で製品・サービスを展開し、東証プライム上場企業として傘下の事業会社を含めて約9,000人の従業員が働くPHCホールディングス株式会社(以下、PHCホールディングス)。同社の法務・コンプライアンス部はクロスボーダーM&Aやヘルスケア業界特有のコンプライアンス対応など、多岐にわたる領域で専門性を発揮しています。
法務・知財領域で30年以上の経験を持ち、ニューヨーク州弁護士資格も有する虎山様に、PHCホールディングスの事業の全貌と同社法務部門の組織文化、求める人材像、これからの法務に求められる力についてお話を伺いました。
グローバルに展開するヘルスケア企業・PHCホールディングス

PHCホールディングス 法務・コンプライアンス部 上席部長 虎山 茂政様
自己紹介をお願いします。
PHCホールディングスの虎山です。
私は1989年にキャリアをスタートし、法務と知的財産の分野で30年以上の経験を積んできました。1999年からはアメリカのロースクールに留学し、ニューヨーク州弁護士資格を取得しました。
PHCホールディングスには2020年6月に入社しました。約5年、法務・コンプライアンス部の部長を務め、現在は上席部長を務めています。
当社入社以前は電機機器メーカーで、法務と知財の仕事に長年携わっていました。
ありがとうございます。貴社事業の概要を教えてください。
PHCホールディングスの起源は1969年の松下寿電子工業株式会社の創業にさかのぼり、2014年にパナソニックヘルスケアホールディングス株式会社として事業を開始。2018年にはコーポレートブランドを「PHC」に変更しました。
長い歴史の中で、さまざまな企業との統合と発展を重ね、精緻な技術と幅広い知見を融合させ、ヘルスケアの未来を切り拓くソリューションを提供しています。
傘下にPHC株式会社やアセンシア ダイアベティスケアホールディングス、エプレディアホールディングス、株式会社LSIメディエンス、ウィーメックス株式会社、メディフォード株式会社などを持ちます。糖尿病マネジメント、ヘルスケアソリューション、診断・ライフサイエンスの領域で、開発、製造、販売、サービスを提供しています。
当社は現在世界125以上の国と地域に向けグローバルに事業を展開しており、2023年度の売上高は3,500億円強でした。連結ベースでは従業員が約9,000名という大きな規模の会社です。
ヘルスケア業界における貴社の特色や強みはどのような点にありますか。
当社は治療に直接携わる機器やサービスを提供しているわけではありませんが、例えば糖尿病マネジメント事業では血糖値を測る機器を提供し、患者さんの健康管理を支えています。
また、電子カルテやレセプトコンピューターのように、医療従事者の方々を支える事業を展開。COVID-19感染拡大時には、群馬工場が24時間稼働し、当社の超低温フリーザーが新型コロナワクチンの研究開発および保存に国内外で広く使用され、社会的使命を果たしました。
法務・コンプライアンス部の組織体制と役割

世界125以上の国と地域に向けヘルスケア事業を展開しているPHCホールディングス。法務・コンプライアンス部はグローバルな事業を支える屋台骨となる。
貴社の法務・コンプライアンス部はどのような構成の組織ですか?
国内の部員は全員で14名おり、その中にコーポレート企画課、法務課、コンプライアンス課という3つの課があります。
コーポレート企画課は、東証プライム上場企業として、取締役会の事務局サポート等、コーポレートガバナンス強化のための法務的機能を担当しています。
法務課は、訴訟や係争、日常の事業を支える契約書の審査などを担当しています。
コンプライアンス課は、コンプライアンス社員教育や内部通報の対応といった役割を担っています。
部員は総勢14名と人数が少ないため、課を超えて兼務するなど限られたリソースを有効活用し、全体として最大限の成果を発揮できるよう協力して仕事を進めています。
虎山様ご自身がニューヨーク州の弁護士資格をお持ちですが、部内にも弁護士資格をお持ちの方はいらっしゃいますか。
はい、日本の弁護士資格を持つ中堅社員が1名と、私と同じくニューヨーク州の資格を持つ法務課の課長が1名おります。
14名の方の年齢層や男女比はいかがですか。
50代の方が多く、30代は1名、その他は40代といった構成です。
今後は、若手を育てる上でも様々な年齢層の方にご活躍いただける組織にしていきたいと考えています。
男女比はだいたい3対2くらいで、どちらかに偏っているわけではありません。特に海外では女性が9割を占める法務組織もあります。
貴社はグローバルに事業展開していますが、海外出張の機会は多いのでしょうか。
コロナ禍で一度少なくなりましたが、現在は海外メンバーとの交流機会を増やして、グローバルで法務組織が一体となって運営できるような体制を目指しています。
グローバル連携が非常に多いため、英語力を生かしてキャリアを築きたい方には多くのチャンスがあると思います。
顧問法律事務所とも良好な関係を築き知見の獲得につなげる
他社と比較した際に、貴社の法務組織にどういう特色や強みがあるとお考えですか。
一つは、顧問法律事務所と非常に強い信頼関係を構築している点です。
些細なことでもフランクに相談できるため一人で悩みを抱え込んでしまうことがなく、的確なアドバイスを事業部に返せる環境が整っています。
顧問事務所とは私が入社してからの付き合いですが、かなりの数の相談を重ねるうちに当社の事業をよく理解いただき、強い信頼関係が築けています。また、ただ相談するだけでなく必ず「相談の結果どうなったのか」を伝えるようにしています。
そうして日常的にコミュニケーションを取ることで当社の事業をより理解していただけますし、やり取りを通じてメンバーの知見も高められます。
他にも、自分が属する課の範囲だけでなく、メンバー同士が協働する関係性があることも特徴だと思います。
法務の人間は一人で仕事をしてしまいがちだなと思うのですが、当社では色々な人と相談しながらチームで仕事ができるのが特徴であり強みです。
ヘルスケア業界特有の課題を事業部とともに乗り越える
医療機器という事業展開において、法的な特徴や難しさはありますか?
ヘルスケア企業であるため、製品サービスを購入する資金が公的な医療保険などに影響される場面が多くあります。
そのため、医療機器業公正競争規約のような業界特有の制約や、より高いコンプライアンス上のハードルが存在します。我々もそれらを学び、日々アップデートして事業部に的確なアドバイスができるように努めています。
会社での仕事を通じて、ヘルスケア業界の特殊性やそれに基づく法務の知見、経験を積むことができます。
グローバルな案件も多いかと思いますが、大変だと感じた事例などありますでしょうか?
海外のM&A案件が多いですね。
ヘルスケア業界ではアメリカやヨーロッパの企業の技術が先行することも多いため、買収案件も海外が多くなります。
日本の法律事務所にも協力いただくことがありますが、専門家と協働すると契約書のディスカッションなどを通して学ぶことが多く、非常に充実感とやりがいを感じています。
「いかに法務に相談してもらうか」を重視した体制づくり

法務として大事にしているのは「事業部との距離感」だと語る虎山様。心理的な距離はもちろん、すぐ相談に来られる物理的な距離も近い方がよいのだという。
事業会社の法務部門として、ビジネスサイドや他部署との連携も重要かと思います。連携における工夫や難しいと感じる点はありますか?
難しいと感じる点は、事業部からいかにタイムリーに相談してもらうか、という点での信頼関係の構築です。
この5年弱でだいぶ信頼関係が構築され事業部から相談がタイムリーに来るように変わったと感じています。他の本社部門も日比谷オフィスに集約されワンフロアで一緒に仕事をしているため、経理や人事部にも相談しやすい環境になっています。
部門に閉じた仕事をしないことをポリシーとしているため、事業部からの相談で経理的な問題があれば経理部門の人を呼んで一緒に話をする、といった形で、横の連携を図るために情報共有や投げかけを心がけています。
相談されやすくなるために意識的に変えたことはありますか?
各事業部長と定期的に1on1を私の方から設定し、話を聞くようにしています。
これにより信頼関係が築け、相談してもらいやすくなりました。
こちらから近づいていくこと、そして私自身が常に笑顔でいることが大事だと考えています。法務がしかめっ面だと相談しづらいですからね(笑)。
働き方についてはいかがでしょうか?
法務部では週3日オフィス出社・週2日在宅というバランスを目安にしていますが、私自身は部下が相談しやすいよう週5日出社しています。
事業部によっては製造部門のように週5日出社が必須のところもありますが、基本的にはハイブリッドをベースにしています。
フレックスタイム制も採用しており、残業時間は人によりますが20〜30時間前後で、有給休暇も皆取得しているため、ワークライフバランスは保てていると考えています。
中途入社はヘルスケア業界未経験のことが多い
法務・コンプライアンス部のメンバーのバックグラウンドについて伺います。中途入社の方は、医療やヘルスケア業界の経験者が多いのでしょうか?
中途で入ってくる方はさまざまで、医療・ヘルスケア業界のバックグラウンドを持っていない人の方が多いです。入社してから学んでもらえれば十分やっていけると考えています。
もともとこの会社にいるメンバーのキャリアもさまざまで、元技術者や貿易実務の経験者など多様です。例えば貿易実務の経験者は関税問題に詳しく、さまざまな事業部から相談が来るほど活躍しています。
プロパー社員と中途採用の比率は半々くらいでバランスの取れた組織です。今後は新卒の方にも入っていただき、キャリアを重ねていけるような組織にしたいと考えています。
貴社でのキャリアパスはどのようになっていますか?
海外に当社の法務メンバーの拠点があるため、そこに数ヶ月から数年駐在し、海外の法務実務や英語力を高めるようなスキルアップのチャンスは提供できると思います。
キャリアパスは一緒に作り上げていくフェーズなのですね。
そうですね。さまざまな自由度を持って仕事ができる環境なので、提案型の意欲ある方の意見は柔軟に検討していきたいと考えています。
意欲がある人、意思がある人であれば、自分のやりたいことが通りやすい風土とも言えるかもしれません。
PHCホールディングス法務・コンプライアンス部の魅力
貴社の法務・コンプライアンス部で働くことの魅力はどんなところにあるとお考えですか?
事業部からの相談に対して、法務の専門的な業務だけでなく本社部門や事業部との連携を通じて成果に繋げられる点は、やりがいを感じられるところだと思います。
私のモットーは「法務は会社のコンサルタントでありたい」ということです。全社の困りごとが来るのが法務という部署ですし、その解決の一助になれるのも私たちです。
そういった意味で「会社のコンサルタント」を目指すことに共感していただける方に来ていただけると嬉しいです。
長年法務・知財領域でキャリアを築かれてきた虎山様から見て、これからの法務に求められることは、今までとどう変わってくると思いますか?
DX(デジタルトランスフォーメーション)を法務領域に取り入れ、それを使いこなせる人材が必要になると思います。
AIの進化により法務メンバーが1から契約書を見るのではなく、AIが見た結果をレビューする流れになるかもしれません。それにより審査時間の効率化もできるようになるでしょう。
それ以外の時間を会社が成長するために法務・コンプライアンス・ガバナンスの観点からどう会社に貢献し付加価値を提供できるかを考えられるような法務人材が、これから重要になってくると思います。
DX化が進む中で、人が付加価値を出しやすい法務領域はどこだとお考えですか?
一つは、取締役会の実効性評価です。上場企業として求められるもので、取締役の方々の自己評価をサポートするのは、やはり人でないとできないと考えています。
私たち法務部門がレベルアップし取締役の方々と対話・支援することで、ステークホルダーに対しても「取締役会の実効性評価を実施し、より良い会社を目指していること」を示せるようになります。
若手法務パーソンへのメッセージ

目の前の仕事一つひとつに向き合っていくことが、自身の将来のキャリアにつながる。
虎山様ご自身のキャリアの中で、ターニングポイントになったことはありますか?
やはり一番大きなターニングポイントは、アメリカのロースクールに留学し、ニューヨーク州の弁護士資格を取得して帰ってきたことです。資格があることで、事業部のメンバーが私のアドバイスに耳を傾けてくれるようになり、信頼が高まったと感じます。
また、自分も自信を持って仕事ができるようになりました。さらに、アメリカのロースクールでの勉強を通してロジカルシンキングの力が高まったと思います。
物事を分析し、きちんと整理し、それに基づいて的確なアドバイスを事業部に提供できるようになりました。
若手の法務パーソンに向けて、若いうちに「これをやっておいた方がいい」というアドバイスがあれば、ぜひ伺いたいです。
一つひとつの仕事にしっかりと向き合い、事業や契約書の背景にあることまでしっかり理解した上で対処していくことが大事だと思います。
いつかそれが巡り巡って、「あの時これを大事にやっておいてよかったな」と感じる時が来るはずです。
最後に法務領域で転職を考えている方に向けてメッセージをお願いします。
私たちは「精緻な技術でヘルスケアの未来を切り拓くリーダーとなる」というビジョンを掲げています。
PHCホールディングスは東証プライム市場に上場している企業で、法務・コンプライアンス部はその本社で働く組織です。
クロスボーダーのM&A、海外メンバーとの協働など、グローバルなアクセスができる職場環境で活躍してみたいという方は、ぜひ当社にご応募ください。一緒に働けることを楽しみにしています。

法務部の皆さま
動画:グローバルヘルスケア企業で積む法務経験

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