60代パートナー弁護士が20年務めた事務所からの転職を決意した理由
- 更新日:2025.07.15
パートナー弁護士は事務所経営の中核を担うベテラン層です。高い専門性と豊富な経験がある一方、転職となると高水準な報酬や事務所の経営方針との兼ね合いがハードルになることも珍しくなく、受け入れ先が見つかりにくいポジションでもあります。
今回は、弁護士・法務人材専門の転職エージェント「アガルートキャリア」で数多くのキャリア支援実績を持つコンサルタントの森に、パートナー弁護士の転職事例について話を聞きました。
本事例は、60代の外資系法律事務所のパートナー弁護士が、事務所の定年年齢の引き下げや運営方針の変化を契機に、新たなキャリアを模索し転職を成功させたケースです。パートナークラスの弁護士は一般的にリファラルで転職することが多い中、あまり多くのコネクションを持たない点がネックでした。しかし転職エージェントを通じて独立系の成長中事務所へアプローチを行い、自身の国際業務経験を活かせる場を獲得。報酬面ではインセンティブを含めて前職と同水準を維持しながらも、経営参画や若手育成を期待されるポジションに就任しました。
INDEX
パートナー弁護士の転職のきっかけは「定年年齢の引き下げ」
今回は長年外資系法律事務所でパートナーを務めてこられた60歳前後の弁護士の方の事例を、森さんからご紹介いただきます。そもそもなぜこの方が相談に来られたのか、きっかけから教えてください。
森 この方は非常に知名度の高い外資系事務所にお勤めだったんですが、その事務所の定年制度の変更が転職の大きなきっかけでした。
具体的にどのような変更だったのでしょう?
森 定年制度の年齢が引き下げになり、以前よりも早いタイミングで定年が訪れてしまうことになったんです。
日系事務所では定年制度がないところもありますが、大半の外資系事務所では定年制度を設けているケースが多く、それが60歳や65歳あたりで設定されていることが多いです。
ちょうどこの方はその年齢を迎えようとしていたため、「制度的に転職しなければならない」ということが理由としてありました。
なるほど。他に理由はありましたか?
森 もう一つ加えるならば、事務所の方針変更も大きかったですね。
転職の数年前に日本の代表が交代したこともあり、事務所の雰囲気や目標設定、プレッシャーの具合、教育体制などが徐々に変わってきたんです。
パートナークラスの弁護士は「誰かに教わる」というよりは「誰と事務所を盛り上げていくか」という視点で考えていますから、そういった変化は非常に重要視なさっていたと思います。
経営層として事務所をどう作っていくか、という視点をお持ちだったからこそ、事務所の変化が転職を考える要因になったのですね。
リファラルが大半のパートナー転職。なぜ転職エージェントへ相談が?
長年パートナーとしてご活躍された方はキャリアをそこで終えられるか、あるいはリファラルで次へ移る方が多いイメージがあります。アガルートキャリアに相談に来られたのは、珍しいケースだったのではないでしょうか?
森 そうですね。一定の知名度のあるパートナーの先生方であれば、大体の事務所にはお知り合いや関係値がありますので、リファラルで決まるパターンが大半なんです。
この方が私たちに期待されていたのは、ご自身が知らない事務所や、関係値があまりない比較的設立が浅い事務所、そして成長著しい事務所の情報でした。
ご自身ではリーチできないような、勢いのある成長中の渉外系事務所との繋がりを求めていらっしゃったので、転職エージェントならばそういった情報を持っているだろうと。
弁護士の転職市場において、パートナー採用というのはどのくらいの割合を占めるものなのですか?
森 弁護士の転職求人は、ジュニアアソシエイトかシニアアソシエイトの案件がほとんどで、これが95%くらいを占めると言っても過言ではありません。
残りの5%くらいにパートナーやカウンセルの採用案件が含まれるのですが、パートナー採用の場合、小さな事務所で中小企業法務や一般民事を扱うようなケースが比較的多いです。
しかし、今回のようなパートナー採用は非常に珍しい形になります。だからこそ、通常の「求人ありき」ではなく、個別のドアノックが必要であり、思い当たる事務所に私の側から提案をしていく必要がありました。
専門性と成長性でアプローチ先を絞る
提案型のアプローチが必要となると、具体的にはどのような事務所をターゲットにしていかれたのでしょうか?
森 この先生は、外資系事務所のご出身ですから、外国企業の日本へのインバウンド案件やクロスボーダー取引、M&A、さらには知財や税務など、非常に幅広い国際業務の経験値をお持ちでした。
そのため、国際業務の経験を活かせる渉外事務所を基本的にはターゲットに絞っていきました。
その中で、さらに絞り込みはされたのでしょうか?
森 ええ。「コネクションをそんなに持っていないので紹介してほしい」というご要望がありましたので、比較的歴史の浅い渉外系の事務所で、かつ「これから事務所を大きくしていきたい」という明確な意向を持つところにターゲットを絞ってご紹介させていただきました。
先生の経験やプラクティス領域が活かせ、さらに事務所が求めている成長度合いや領域が合致するような、いわば「提案」に近い形で進めていきました。
パートナー弁護士の報酬は数千万円から1億円超えも
パートナー弁護士の転職で特に難しいのは、やはり報酬面ではないでしょうか。20年以上パートナーを務めてこられたとなると、相当高水準だったかと思いますが、ざっくりとどのくらいの年収帯だったのでしょうか?
森 そうですね、まさに今回のケースは報酬面が非常に議論を要する部分でした。ざっくりとしたレンジでお伝えすると、数千万円から1億円といった非常に高水準の範囲でした。
1億円まで! それはすごいですね。一般的に、パートナー弁護士の報酬設計というのはどのようなものなのですか?
森 パートナー採用の報酬は、アソシエイトと違って「基準値」のようなものがほとんどないと考えていただいた方が良いと思います。
例えば、「ベースは0円です」という事務所もあれば、それに加えて「事務所の経費として毎月100万円を固定で払ってください」というところもあります。
また、固定のベースを支払い、そこに活躍に応じた賞与を上乗せしたり、売上の歩合を負担するような、様々なパターンが存在しています。
かなり多様なのですね。今回の事例では、どのようなオファー提示のされ方だったのでしょうか?
森 これは詳細はお話しできない部分も多いのですが、構造としてはベースとなる固定の待遇が用意され、それに加えてインセンティブの部分が設定されていました。
目標数値に対して結果がどうだったかでインセンティブは変動しますが、その目標設定は、四大事務所や準大手事務所のパートナーが通常設定しているような金額をターゲットにしていました。
そして、その目標がある程度達成されれば、前職と大体同じぐらいの金額になるような設定でした。
それは素晴らしいですね。先生も納得感を持って受け入れられたのでしょうか?
森 はい、そこはかなり納得していただきました。
ベースが1割だけというようなものではなく、報酬の半分ちょっとくらいはベースで保証されている形だったので、ご本人も「自分の力量次第」と覚悟を持って臨むことができたようです。
これは、事務所側からの先生への強い信頼感の表れでもあったと思いますね。
ポータブル案件、つまりご自身のクライアントや案件を持ってこられるかどうかも、報酬設計に大きく関わってきますよね。
森 その通りです。
パートナー採用では、ご自身でどのくらいポータブル案件があるのか、そこから何割くらいが実際に売上に直結しそうなのか、といった予想の上でそこから売上を算出します。
そして事務所によって、想定される売上に応じてベースや賞与を設定していく、という流れになります。
報酬・熱意・ポジションの3点に満足できる転職が実現
複数の事務所からオファーがあったとのことですが、最終的に先生が意思決定をされた決め手は何だったのでしょうか?
森 最終的に意思決定をされた事務所は、先ほどお伝えした通り、非常に勢いのある渉外事務所でした。優秀な先生が多く、国際色も非常に豊かな事務所です。
決め手となったポイントにはいくつかありますが、おおむね以下のような内容です。
- 報酬設計の明確さ
役割や追うべき数字が非常に緻密に計算され、報酬の仕組みが分かりやすかったこと。 - 事務所のパッションへの共鳴
ご支援させていただいた先生も海外のご出身で非常にエネルギッシュな方なのですが、その事務所の代表パートナーの方々の「これからこの事務所をこうしていきたい」という熱いパッションに深く共鳴されたこと。 - 自身の声が届き、経営に参画できる点
前職のような歴史のある大手外資系事務所では、日本の法人はグローバル全体から見れば小さい市場であり、1パートナーの意見がグローバル全体に反映されることは難しいという側面がありました。
一方、最終的に選ばれたこれから成長していく事務所であれば、自分の声が全体に届きやすいという点が大きな理由でした。
事務所側も、これまでの先生の経験値を事務所経営に活かしてほしいと強く求めており、若手の育成や採用面も含め、アドバイスや信頼を非常に大きくいただいたこと。ご本人も期待されていることを強く実感できたようです。
なるほど、まさに「カウンセル」として落ち着くのではなく、パートナーとして経営の最前線で活躍し、影響力を持ちたいという先生の思いと、事務所側のニーズが合致したわけですね。
森 はい、その通りです。自分自身のバックグラウンド、特に外国弁護士としての強みをそこに加えることで、事務所と双方の強みを大きくできると感じていただけたことも大きかったですね。
動画:パートナー弁護士の転職と報酬|外資事務所から渉外事務所へ
この記事の監修者
リーガル専門コンサルタントとして、弁護士・法務人材を中心に転職支援を行う。中国発大手テクノロジー企業の日本法人にて創業メンバーとして事業開発・推進に従事。スタートアップ〜大手事業会社での事業開発、マネジメント経験を有していることから、様々な角度からの俯瞰したアドバイスを強みとする。
自身では探せない非公開求人をご提案
アガルートグループが運営する
多数の非公開求人を保有