
法務部インサイド
変革期の企業を支えるユーザベースの法務組織のあり方
株式会社ユーザベース
執行役員 General Counsel 兼 NewsPicks事業CLO
吉田 真実
製薬会社でのMRを経て弁護士資格を取得し、現在は株式会社ユーザベースの執行役員 General Counsel 兼 NewsPicks事業CLOとして活躍する吉田様。
2016年の株式上場から2023年の非公開化を経て再上場を目指す現在、株式会社ユーザベースの法務部はどのように事業を支えているのでしょうか。
本記事では、吉田様のキャリアの歩みから株式会社ユーザベースの法務組織の魅力やカルチャー、これから法務キャリアを築こうと考える方へのメッセージまで、幅広くお話を伺いました。
後編と合わせ、ぜひお読みください。
MRから弁護士へ ユニークなキャリアの変化
まずは自己紹介をお願いいたします。
吉田と申します。よろしくお願いいたします。現在、株式会社ユーザベースで執行役員 General CounselとNewsPicks事業のCLOを担当しています。
大学の法学部を卒業後、一度製薬会社に就職し、1年ほどいわゆるMRとして勤務しました。

株式会社ユーザベース 執行役員 General Counsel 兼 NewsPicks事業CLO 吉田 真実
その後、法曹の資格を取得したいと考えて法科大学院に進学し、司法試験合格を経て弁護士になりました。
最初はTMI総合法律事務所に入所し、紛争や労務など幅広い案件を担当しました。その後、出産を経てインハウスローヤーへキャリアをシフトし、まずは医療機器メーカーのフィリップスに入社。2019年に株式会社ユーザベースに入社し、現在に至ります。
経済情報を提供する2つのプロダクトが事業の軸
株式会社ユーザベースがどのような会社で、どのようなサービスやプロダクトを展開しているのか教えてください。
当社は「スピーダ」というプロダクトを携えて、2008年に創業しました。また2013年には経済メディア「NewsPicks」を立ち上げました。
2016年に東証マザーズに上場し、2022年に投資ファンドのカーライルからTOB(株式公開買い付け)を受けて、2023年に非公開化しました。現在は非上場ですが、ここから再上場を目指している段階です。
私たちは「経済情報の力で、誰もがビジネスを楽しめる世界を作る」というパーパスを掲げて経営を行っています。主に2つの事業を展開しており、1つが「スピーダ」、もう1つが「NewsPicks」です。
「スピーダ」は「経営のスピードを上げる」というミッションを掲げ、経済情報プラットフォームを幅広く提供するサービスです。
リスクが複雑化し、時代の変化が速い中で、企業が正確かつスピーディーに意思決定し、実行に移せるよう情報を提供しています。
「NewsPicks」は、もともと個々のビジネスパーソン向けに経済ニュースを届けるメディアでしたが、現在は企業向けにも幅広く活用いただいています。
「新しい視点を集めて、経済の未来をひらく」というミッションのもと、「3つのC(キュレーション・コンテンツ・コメント)」を要素としており、提携メディアのニュースをキュレーションすること、オリジナルのコンテンツを発信すること、またユーザーが各コンテンツにコメントを投稿できることが特徴です。
ユーザー同士がコメントを読み合うことで、新たなチャレンジや意思決定につなげていただけるようなメディアとして運営しています。
経済情報を軸に法人向け・個人向けともに事業を展開されているのですね。法務組織としてはどのような体制なのでしょうか。
法務部は正社員が10名とアルバイト3名で構成され、そのうち4名が弁護士資格を保有しています。
組織構造はドメイン・ディビジョン・チームという3つの階層に分かれています。その中で法務部は「ビジネス」と「ガバナンス」に分かれ、「ビジネス」側は事業に紐づく法務を取り扱っています。
フラットでオープンなコミュニケーションを重視

立場を問わないオープンなコミュニケーションが、業務を前に進めていく。
吉田様は前職もインハウスローヤーとのことですが、現職に入社して感じた前職との違いはどのような点でしょうか。
前職は外資系企業の日本子会社だったということはありますが、企業カルチャーにもとづくコミュニケーションスタイルに大きな違いがあると感じます。
当社では非常にオープンなコミュニケーションを重視しており、法務部でも自分の考えをしっかり発信することを推奨しています。
役員やメンバー、入社歴の長短を問わずフラットにディスカッションを行う風土があります。そこが当社ならではの特徴だと感じています。
株式非公開から再上場を狙う 変化の局面で見える法務の役割
東証マザーズに上場したのち一度株式を非公開化し、現在再上場を目指しているということですが、その変遷の中で法務としての役割に大きな変化はありましたか。
上場・非上場の区分によって、法務の仕事が劇的に変わった印象はありません。ただし、非上場化以前は企業の成長を加速するような海外進出やM&A、資金調達といった案件が多かったように思います。
非上場化後は、一度筋肉質な組織を築きつつ利益を大事にする方針になり、コンプライアンスの整備や未整備部分の補完に関する案件が増えました。
ここからまた再上場に向けてグロース戦略が進めば、再び成長文脈の案件が増えてくる可能性があります。
会社としては大きな変化ですが、法務としては激変というほどではないのですね。
そうですね。
とはいえ、非上場化に伴う手続きなどは大変でした。
事業サイドとの連携で問題の発生を回避する
吉田様は執行役員の立場と同時に「NewsPicks」のCLOも兼任されていますよね。事業サイドと密に連携するために、どのようなコミュニケーションを取っているのか教えてください。
CLOという立場では個々の契約書レビューを多く行うというよりは、事業サイドの役員と定期的に1on1を実施して、何を目指しているか、今何が起こっているかを先回りして確認しています。
そうすることで、大きな問題が表面化する前に「これについては確認したほうがいいのではないか」といった形で声をかけていただける関係性を築くことができます。
私は「NewsPicks」を担当し、「スピーダ」は別の執行役員が担当して、それぞれ事業側の役員との信頼関係を構築するようにしています。
コミュニケーションの頻度はどの程度なのでしょうか。
役員によって異なりますが、2週間に1回程度の者もいれば、四半期に1回という者もいます。ただ、何かあったときにすぐ相談できるようにしておくことが重要だと考えています。
当事者意識を持って法務にあたる

ユーザベース法務が重視するスタンスは「事業の当事者であること」。あらゆる角度から検証し事業に貢献する。
社内における法務の立ち位置はどのように捉えていますか。
私たち法務部は「ユーザベースの当事者である」というスタンスを最も大切にしています。
ですから、事業部から「これを実現したい」という希望があれば、できる限りサポートします。一方で明らかに難しい場合は、しっかり止めるのも責任だと考えています。
ただ、本当にNGなケースは「不可」と言うだけで済みますが、多くの場合はグレーゾーンがあります。そうしたときは、リーガルサイドが自分たちの判断力を過信してはいけません。
考えうる視点を洗い出し、整理して議論のテーブルに乗せることで、事業部にも理解していただきながら最終的に正しい意思決定へとつなげることを大事にしています。
明確な答えがないケースほど議論や整理に時間がかかりますが、重要な意思決定であるほど丁寧に進める必要がありますね。
はい。大事な意思決定ほど、そういったステップを踏みつつもスピード感をもって合意形成するよう努めています。
チャレンジングな案件も相互にサポートしながら進められる
現職に入社されて以来、特に印象に残っている案件や出来事があれば教えてください。
入社直後に「ストックオプションを発行するので、吉田さん対応をお願いします」と言われたときは、正直戸惑いました。それまで株式関連の業務経験がほぼなく、不安が大きかったのです。
しかし、当社は社内でサポートし合う体制があり、困ったときは多方面から協力してもらえます。会社全体が常にチャレンジする姿勢を重視しており、個人にも積極的に機会を与えてくれる風土を実感しました。
終わってみると「そこまで気負う必要はなかった」と思えました。
属人的なノウハウをいかに共有するかが課題
近年はデジタル化や国際化など目まぐるしい変化があると思います。貴社の法務が抱える課題や、今後強化したい点は何でしょうか。
契約書レビューやコンプライアンスチェックだけでなく、より広い分野で法務が活躍できるようにしていきたいです。ただ、そのためにはメンバーに「余白」が必要です。
現状は言ってみれば「4番バッターが揃ってます」といった状態で、各人が持つ知見が属人的になりやすく、その社員がもし退職すれば知見が引き継がれないままになってしまいます。そのため、新たに入社した方がキャッチアップしづらい状況でもあるのです。
個人が持つ知識や経験を組織全体のナレッジとして共有し、効率的に業務を回せる体制を整えることが重要だと感じています。
株式会社ユーザベースが求める人物像
今後、どのような方に貴社の法務組織に加わってほしいと考えていらっしゃいますか。
事業に興味を持ち、スキルを活かしたい方にぜひ来ていただきたいです。ただ、弊社は採用の際、スキル以上にカルチャーやバリューフィットを重視しています。
特に法務部はフラットでオープンなカルチャーが根付いていますし、そこに共感してくださる方を歓迎します。
面接では具体的にどのような点を重視して確認されるのでしょうか。
ご自身の強みだけでなく、苦手な部分も率直にお話しいただけるかどうかに注目しています。
面接はどうしても良い面ばかりをアピールしがちですが、悪い面ほど一生懸命話そうとしてくださる方に、より話を聞きたいですね。
「良い点・悪い点」を質問するのは、別にテストのように優劣を付けたいからではありません。当社に合う方かそうでないか、フィーリングを判断するのが主です。
入社後の育成体制やキャリア支援はいかがでしょうか。
昨年、ロースクールを卒業したばかりで、初めて法務に携わるメンバーも入社しました。
そういった社員に対しては、まずは案件を一緒に進めて先輩がサポートしながら成長を促す体制があります。
株式会社ユーザベースの法務部で働くことで、どのような成長機会が得られますか。
当社は金融や医療のような規制業種ではないため、特定の法規制に深く特化するというよりは、非常に幅広い案件を経験できる環境だと思います。
また事業部から依頼された業務を行うだけでなく、法務部自ら課題を見出して声を上げることも非常に推奨されている会社です。
実際まだまだ手が回り切っていない領域も少なくありません。ですから、例えば「特許戦略に取り組みたい」と提案しても、会社として価値があると判断すれば誰も止めません。
そのため、自らの意思次第で幅広い分野に関わっていただけると思います。
転職を検討する弁護士・法務パーソンへのメッセージ
最後に、弁護士や法務パーソンとして転職を考えている方々にメッセージをお願いします。
法務は経営において非常に重要な役割を担っていると感じています。
これから初めて法務を担当しようとする方や、既に経験があり転職を検討されている方も、企業によって業種や関連法や事業のフェーズは多種多様です。
ご自身のキャリアを納得感のあるものにするためには、多方面から情報を集めることが大切です。アガルートキャリアのようなエージェントを活用する、先輩や知人がいる企業の事情をうかがうなど、さまざまな手段があります。
最終的には直感的な判断もあるかもしれませんが、どうか悔いのないように選択していただければと思います。
動画:インハウスが牽引|再上場を目指す法務組織と求める人材

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