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「評論家ではなく当事者になれ」コロプラCLO山崎氏が示す法務の本質
株式会社コロプラ
上席執行役員 CLO
山崎 聡士
複雑化するゲーム業界において、メタバースやブロックチェーンなど新分野にも積極的に挑戦し、「Entertainment in Real Life」というミッションのもと多彩なビジネスを展開している株式会社コロプラ。
同社上席執行役員・CLOとして法務知財部を率いる山崎聡士氏は、異業種出身ながら組織全体を“チーム”として機能させ、攻めと守りを両立する法務に取り組んでいます。
新規事業で直面したブロックチェーン関連の論点、バディ制による柔軟な案件対応、DX推進による効率化など、多彩な経験と視点から生まれる「これからの法務」の在り方を、ぜひお読みください。
「やりがいのある課題」を求めて多くの企業で法務を務めた

株式会社コロプラ 上席執行役員 CLO 山崎 聡士様
自己紹介をお願いします。
私は大学の法学部を卒業後、半導体関連のイノテック株式会社に営業職として入社しました。
営業を3年ほど担当した後、とあるきっかけがあり法務に転身し、約7年間、一人法務として業務に携わりました。
その後、ソニーグローバルソリューションズ株式会社に法務として入社し、続いてエルピーダメモリ(現 マイクロンメモリジャパン株式会社)でも法務を担当しました。
それからカシオ計算機株式会社に転職いたしましたが、こちらには約14年在籍し、最終的には法務部長を務めました。
2020年に株式会社コロプラとのご縁があり、入社に至りました。
多くの企業での法務を経験なさっていますが、株式会社コロプラに入社された経緯を教えてください。
カシオ計算機株式会社は、私の入社当初、法務組織が弱い状態でした。
そこで法務のプレゼンスを高めるためにチームとして取り組み、組織の規模も次第に拡大していきました。
その結果、マネジメントを任されるようになり、最終的には法務部長まで任せていただいたのですが、「この会社では一通りやりきったな」という手応えも感じてしまったのです。
私は「トラブルが多い会社」や「課題を抱えている会社」での経験が、自分の成長に資すると考えています。現職にご縁をいただいた当時は、組織づくりをはじめ多様な課題がある状況でした。
私はこれまで転職するたびに異業種へ飛び込んでおり、業種自体にはあまりこだわりがありません。むしろ「難しそうな課題」や「おもしろそうな課題」がある会社を軸に選んできたこともあり、取り組み甲斐のありそうだった株式会社コロプラへ入社した次第です。
「コロプラといえばゲーム」のイメージを覆す事業領域
貴社がエンターテインメント領域でどのような事業を展開し、どのようなミッションを掲げているのか教えてください。
当社は「Entertainment in Real Life」というミッションと、「最新のテクノロジーと、独創的なアイデアで“新しい体験”を届ける」というビジョンを掲げています。
事業としては大きく、エンターテインメント事業と投資育成事業の2つに分かれます。
エンターテインメント事業では、スマートフォン向けゲームを中心に、コンシューマーゲームやメタバース、ブロックチェーンといった分野のビジネスを手がけています。
投資育成事業では、国内外のIT関連やエンターテインメント関連企業を対象に、シードからレイターまで幅広く投資を行っています。
ゲームのイメージが強いですが、実際にはさらに幅広い事業領域に取り組まれているのですね。
専門性の高い領域だからこそ「個人商店化」を避けるチーム作りを意識
法務知財部はどのような組織体制になっているのでしょうか。
法務知財部は現在18名の体制です。組織は4つのチームに細分化されていますが、実際の業務はチームを横断する形で流動的に編成し、案件に対応しています。
私が管掌している法務知財部は、まず法務グループと知財グループに分かれています。
法務グループの中にはいわゆる「取引法務」系の事業法務チームと「商事法務」系のコーポレート法務チームの2つがあり、知財グループは知財戦略チームと特許チームという構成です。
「事業の合法性・合理性を確保し、ビジネスソリューションを提供することでグループ企業価値を最大化する」というミッションを掲げ、日々業務に取り組んでいます。
案件ごとにチームを横断して仕事をする体制は、山崎様が入社されてから始められたのでしょうか。
そうです。
従来から、法務や知財の世界は専門性が高く、ノウハウが属人的になりやすいという課題があると感じていました。そこで「個人商店化」を避けて、チームとして成果を出す組織づくりを心がけています。
また、1人前の法務・知財パーソンになるには幅広い領域の業務経験が必要だと考えています。
近年は「配属ガチャ」なんて言われることもありますが、そもそも業務には得意不得意がつきものです。しかし、なるべく固定せずにいろいろな種類の案件に関わることで成長してほしいという思いがあります。
どのような業務を扱っているのか、詳しくお聞かせください。
大きく「法務業務」と「知財業務」に分けられます。
法務業務では、契約審査やM&A・組織再編などのビジネス法務、株主総会の企画運営やインサイダー取引防止体制の整備といったガバナンス・コンプライアンス分野があります。
取引先やサービス利用者とのトラブル・紛争対応、情報漏洩リスクや不祥事・反社チェック・取引先の審査などの危機管理も担当しています。
知財業務では、特許等の権利化、侵害品の排除などの権利行使、クリアランス調査、そして事業戦略に即した知財戦略の立案・実行などを行っています。
また、法務と知財の両方に共通してグループ会社の支援も担っています。
他社との協働がゲーム業界の法務・知財の特徴
ゲーム業界といいますと、やはり知財に関する論点が多い印象があります。業界ならではの面白みややりがいはありますか。
ゲーム業界特有かは分かりませんが、たとえば知財の分野で他社との協働が盛んに行われる点は特徴の1つではないでしょうか。
自社で特許を大量に取得して競争優位を確立するやり方もありますが、コスト面や開発の自由度を考慮すると、どの企業もある程度の課題を抱えています。
そこでライバル企業であっても包括的なクロスライセンス契約を結ぶなど、お互いに開発の自由度を高める取り組みを行うことがあるのです。
最近では、インテルのように異なる領域の企業とも協力し、パテントトロール対策を含めて競争優位を高めようとしています。自社だけでなく、他社との連携によって守備範囲を広げている状況です。
インテルというとエンターテインメント企業というイメージからは少し離れているように感じますが、そのような企業とも連携されるのですね。
適用する場面が異なるだけで、技術は共通性がある場合がありますので、異業種でも連携できる余地があります。
当社は知財強化の姿勢を発信しており、第三者機関のランキングなどにも掲載されています。
そうした情報があると、相手から声をかけていただいたり、こちらからも協業を提案しやすくなったりする利点があるのです。
新たなゲーム体験の提供は、新たな法務マターにもつながる

ゲームメーカーでも「ゲームだけ」を見ればよいわけではない。時には「そんなところまで」と感じる案件に出会うことも。
最近対応されたチャレンジングな案件はありましたか?
私は当グループの株式会社Brilliantcryptoという会社で法務担当取締役も務めています。当社としてはブロックチェーン技術を活用するビジネスを強化しており、2022年に株式会社Brilliantcryptoを設立しました。
「Play to Earn」と呼ばれる、ゲームを遊びながら暗号資産を得られる仕組みの導入を検討していたのですが、暗号資産を扱うため法務論点が非常に多い領域でした。
株式会社Brilliantcryptoでは「BRIL」という暗号資産を自社発行しており、コインチェックへ上場してゲーム内で利用いただいています。
山を掘って宝石を発掘するというイメージのゲームですが、金商法、資金決済法(暗号資産交換業、資金移動業)といった金融関連法規や賭博に抵触しないかなど、多様な論点を整理する必要がありました。
普通の上場企業であれば尻込みしそうなくらい、適法性を担保するのが困難な案件だったのです。
適法性を担保するために、事業設計を細かく見直して、法務の観点から問題点を洗い出して……と。当社の他の案件に比べてかなり金融法務の色彩が強い案件でしたから、私としても「ゲーム会社のはずなのに、なぜこんな領域を取り扱っているんだろうな……」と思うこともありました(笑)。
定説がない分野なので、複数の法律事務所や弁護士の方々に相談し、それぞれの意見を総合的に調整しながら進めました。また、監査法人にも理解を得る必要がありました。未知のリスクがある以上、監査法人としても簡単にはゴーサインを出せません。
多くのステークホルダーと対話を重ね、何とか事業化にこぎ着けたことで、法務の存在意義を改めて実感しました。今後のゲームは単なるゲームにとどまらず、金融やブロックチェーンなど複雑な分野が絡み合うと思いますので、私にとっても貴重な経験になりました。
2022年11月に会社を設立し、2024年6月に暗号資産「BRIL」の上場とPlay to Earnゲーム「Brilliantcrypto」をローンチするまで、かなりの時間を要しています。
ビジネスを動かす「アクセル」と「ブレーキ」
こういった新規事業で法務がビジネス推進とリスク管理を両立させるには、いわゆる「守り」と「攻め」のバランスが難しいのではないでしょうか。
私はよく「アクセル」と「ブレーキ」という表現を使っています。いわゆるパートナー機能とガーディアン機能ですね。ビジネスを促進する(アクセル)一方で、リスク管理(ブレーキ)も必要です。
ただ、事業を車と見立てると、安全かつ早く進むためには適切なブレーキが欠かせません。ブレーキを最小限に抑えながら、加速もきちんと行う。
法務はまずビジネスを前進させる存在であるべきだと考えています。
「組み合わせはあえてランダム」バディ制が生む連携力のあるチーム
法務知財部では、バディ制など独特なチーム体制を取られていると伺いました。どのような仕組みなのでしょうか。
当部門では「チームで働く」ことを最重視しています。
そのために、一つの案件を必ず2人1組で担当するバディ制を導入しています。しかも、ペアはランダムに決めていて、ある案件をどの2人が担当するかは決まっていません。
これにより、いろいろなメンバーが多様な案件を経験することができ、個々の得意分野や苦手分野を補い合いつつスキルを平準化できます。
チームで業務にあたることで、日々のコミュニケーションを通じて経験や知識が形式知化され、かつアップデートされていくことで、結果的に組織全体のサービスレベルが上がると考えています。
バックアップ体制としても効果があります。1人が急病や退職などで離れても、業務が止まらないというマネジメント的な利点もありますね。
ただし、コミュニケーションコストは非常にかかります。しかし、全員が積極的に意見を出し合い、よりよい結論を導くカルチャーです。
もちろん積極的な発信が苦手なメンバーもおりますが、そういった者からも意見を引き出せる仕組み作りをしています。
たとえば、平日の午後3時に「案件分け」という定例ミーティングを行っています。
その場で当日の案件を持ち寄り、論点をディスカッションしながら担当を挙手制で決めます。誰も手を挙げない場合は指名します。
「案件分け」の司会進行は私ではなく、日替わりで各メンバーが行っています。すると自然としゃべらなければならない場が生まれますので、コミュニケーション力の強化にもつながっているかと思います。
「案件分け」はリモートワークで行うのでしょうか。
当社は基本的には出社を推奨しており、現在法務知財部の約9割がオフィスに来ています。
リモートワークが必要な場合は対応可能ですが、コミュニケーションを最も重視している面もあり、対面で話し合うほうが業務を進めやすいという雰囲気です。
法務DXでルーティンワークを減らしクリエイティビティを発揮
法務のDX化が注目されていますが、コロプラではどのように対応されているのでしょうか。
法務には事務的なルーティンワークも多く、クリエイティブな作業に十分な時間を割けないという課題があります。そこでDXを推進し、可能な限り業務プロセスを効率化しています。
契約受付管理やレビュー、締結などの各ステップで外部ツールを活用しており、現状では10を超えるツールを導入しています。
最終的には、ルーティン業務をシステムに任せ、創造的な業務に集中できる環境を目指しているのです。
未来を見据えた組織づくり
今後、コロプラの法務知財部をどのような組織に育てていきたいとお考えでしょうか。
「自走して進化する組織」を目指しています。
企業の持続可能性が注目される昨今ですが、その前に「組織として永続できる体制」が必要だと思います。
具体的には、メンバーが主体的かつ自律的に判断と行動を行い、自己改善を繰り返せる組織を作りたいです。
中央集権型ではなく、分散型に近いイメージで、各人がオーナーシップを持ちながらチームワークを発揮していくことが理想です。
そのような組織を作るうえで、今後ご入社いただく方にはどのような人物像を求めていますか。
会社に貢献したいという思いはもちろんですが、まずは「チームで動ける方」が前提です。
チームで動くなかで自分がどのように貢献し自己実現していけるかを考え、成長の機会を自ら見いだす姿勢を重視しています。
法務メンバーにはゲーム業界出身の方も多いのでしょうか。
ゲーム業界出身者のほうが圧倒的に少ないですね。さまざまな業種をバックグラウンドに持つメンバーが揃っています。私自身、当社は異業種でした。
法務は業界経験よりも、持っている価値観やスタンスが大切です。
「他人事」では法務は務まらない

「客観的な視点を持つこと」と、「主体的にかかわること」、両方が求められるのが法務部だと山崎CLOは語る。
山崎様ご自身、さまざまな企業で法務を経験されてきましたが、キャリアの中で大事にしていることはありますか。
1つは「オーナーシップ」です。法務は第三者視点が求められる分、他人事のように見られがちですが、それでは「評論家」のような印象を与えてしまいます。
私も若いころに「評論家みたいだね」と言われ、非常に胸に刺さりました。そこからは常に「自分事」として捉えるよう心がけています。
それによって「この人は真剣にこの案件を考えてくれているんだ」と安心感を与えることにもつながりますし、信頼関係を築くことにもなります。
もう1つは「リーガルパーソンである前に、まずはビジネスパーソンである」という考え方です。法務は専門領域で線を引きがちですが、企業が利益を上げるためには、どこまでリスクを取れるかを判断する視点が必要です。
やはり営利法人で働くわけですから、ビジネスパーソンとして「損得勘定」を働かせられるマインドが求められます。この点はメンバーにも度々伝えています。
企業で働くということは、他人の目で評価を受けるということでもあります。いくら「私頑張ってます!」と言ってもただの自己満足になってしまいがちです。
正当に評価を受けるために、どう組織のプレゼンスを上げるか、どう周囲と信頼関係を築いていくかを考えなければなりません。
ややもすると、法務という立場にいるとつい正論を言いたくなってしまうのですが、相手があっての業務ですから、納得感を与えられるようなコミュニケーションが求められます。
そのほか、転機となった出来事や印象深いエピソードはありますか。
一人法務を7年ほど続けていた時期があります。そのため、自分が果たして一般的な企業法務として十分なレベルなのか、客観的に確かめられない悩みがありました。
あるとき、取引先の外資系企業でジェネラルカウンセルの方と話す機会があったのですが、「これが本場のジェネラルカウンセルか」と衝撃を受けました。
それをきっかけにロールモデルを持つことの大切さを知り、キャリアの大きな転機になったと感じています。
これからの時代に求められる法務人材とは、どのような要素が必要だと考えていらっしゃいますか。
AIの発展は目覚ましく、定型的な業務はAIが代替する可能性が高いです。そこで差を生むのは、人間だからこそできる「クリエイティブな発想」や「想像力」ではないでしょうか。
たとえば欧米では求人条件に「Out of the box thinking(突拍子もない発想)ができる人」と書かれていることがあります。日本ではあまり馴染みがない発想ですよね。
また法務に限ったことではありませんが、いわゆる「人間力」としてのコミュニケーション能力は非常に重要です。正しいことを主張しても、相手が納得しなければ実行に移せません。
相手の表情や理解度を読み取りながら調整する力はAIには難しい部分で、人間が持つ大きな強みだと思います。
転職を検討中の法務パーソンの皆さまへ
最後に、このインタビューをご覧になっている法務人材の方々にメッセージをお願いいたします。
コロプラでは、自己実現や成長機会を重視し、それらを後押しする取り組みを多く行っています。
こうした環境で自らの力を伸ばしたい方や、さらに大きく成長したい方にはぴったりではないでしょうか。ぜひ、私たちの仲間としてご活躍いただければと思います。
動画:プレゼンスを高める法務組織づくり/法務人材に求められる人間力

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1995年4月イノテック株式会社入社
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2004年3月ソニーグローバルソリューションズ株式会社入社
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2005年8月エルピーダメモリ株式会社(現 マイクロンメモリジャパン株式会社)入社
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2006年3月カシオ計算機株式会社入社
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2016年7月同社 法務部長
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2020年3月株式会社コロプラ入社
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2024年12月同社 上席執行役員
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