
インハウスの実態
「マジ価値」を支える法務の力。freeeで働く楽しさとやりがいとは
フリー株式会社
リスク管理部 法務チームマネージャー
中島 一精
弁護士としてベンチャー企業支援や一般民事に携わったのち、フリー株式会社で法務チームのマネージャーを務める中島氏。
なぜ法律事務所から事業会社へと転身し、どのように「スモールビジネスを世界の主役に」というミッションに取り組んでいるのでしょうか。
本記事では、転職のきっかけや法務組織の魅力、事業と連携する面白さなど、インハウスローヤーのリアルを存分に語っていただきました。企業法務の新たな可能性を知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
「企業支援に携わりたい」想いを胸にフリー株式会社へ転職

フリー株式会社法務・リスク管理部 法務チームマネージャー 中島一精様
まずは自己紹介をお願いします。
私は司法修習を修了後、東京の法律事務所にてベンチャー企業支援と一般民事を弁護士として担当していました。
その後、転職活動を経てフリー株式会社に入社し、現在は法務チームのマネージャーを務めています。
中島様が法律事務所からフリー株式会社へ転職したきっかけについて教えてください。
弁護士になったからには、最初の5年程度は弁護士業務をしっかりと経験してみたいと思っていたのが大きいです。
法律事務所に入所して、その後事業会社に入るか事務所に残るかは改めて考えようと思っていました。
ちょうど弁護士になって5年ほど経過した頃に「事業会社へ移るなら今がよいタイミングなのではないか」と判断し、転職活動を始めました。
最初に勤務されていた事務所では、どのような案件を担当されたのでしょうか。
いわゆる大手事務所と比べると規模が小さかったとは思います。
ただ、ベンチャー企業支援と一般民事を扱っていたおかげで、幅広い案件に携わる機会を得られたと思います。
転職を検討された際は、インハウスローヤーに絞っていたのですか?
いいえ、当初は事務所と事業会社の両方を視野に入れていました。
転職活動を始める直前に岡山の事業承継案件を扱う事務所に出向していた経験があり、「東京でも事業承継に携わってみたい」と思っていたんです。
それと同時に、「事業会社にも挑戦してみたい」と考えてもいました。
昨今インハウスローヤーの求人が増えていますが、どのように企業を選ばれたのですか。
最初はあまり条件を絞り込まずに探していたのですが、あまりに数が多くて一人では見きれなくなってしまいました。
そこで転職エージェントの方と相談し、「自分が本当にやりたいことは何か」を考え直して再出発した形です。
その結果「成長企業であり、法務組織が拡大していく段階にある会社を中心に探すのがよい」と方針が定まりました。
最終的にフリー株式会社を選んだのはなぜですか。
私が転職活動のうえで重視していたのは「企業のミッションに共感できるか」という点です。各社の企業理念を確認し、自分の考えや価値観に合うかどうかを見極めていました。
弁護士として企業支援をずっと行ってきたこともあり、「企業を支援したい」という考えがまずありました。
その中で当社の「スモールビジネスを世界の主役に」というミッションが、とても腑に落ちたのです。
もう少し詳しくお聞かせいただけますか。
たとえば、前職の事務所の代表は「みんなで美味しいご飯を食べよう」という考え方を大切にしていました。これは「ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン」のように、周囲の人たちと幸せを分かち合うことを指しています。
この考え方が私は非常に気に入っていたのですが、当社の「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションは、そうした思いに非常にマッチしていました。
入社後にギャップなどは感じませんでしたか。
ほとんどなかったですね。ベンチャー企業支援を前職でも行っていたこともあり、文化的にも大きな違和感はなかったです。
高シェアのバックオフィスSaaSを支える法務組織

法務・リスク管理部は18名、法務チームは4名体制だが、チームを跨いだ兼務も多い(人数:2025年2月現在)
貴社の事業について教えてください。
当社は2012年7月に創業し、2019年12月に上場しています。「freee会計」と「freee人事労務」が事業の主軸で、バックオフィス業務で活用できるツールをSaaSとして提供している会社です。
中小企業向けのSaaSとして高いシェアを持っていますよね。貴社の中で、法務組織はどのような体制なのでしょうか。
当社には「法務・リスク管理部」という部署があり、その中に法務・リスク管理・コーポレートガバナンス・知財戦略の4チームが存在し、合計で18名ほど在籍しています。
法務チームには私を含め4名所属していますが、他チームを兼ねている者を含めると実質的には5~6名ほどで案件に取り組んでいます。
年齢層や男女比はいかがでしょうか。
20代後半から30代が多く、男女比はおよそ半々です。
弁護士資格を持っている方は中島様以外にもいらっしゃいますか?
私の前に出向でいらしていた弁護士の先生はいらっしゃったそうですが、現在は私だけですね。
法務チームはどのような業務に携わっているのでしょうか。
契約書審査を主としながら、コンプライアンス事案やハラスメント調査も行っています。また、新規サービスの適法性を検討することもありますし、株主総会や取締役会の対応にも携わっています。
5~6名体制で幅広い業務を担当されているのですね。担当や領域の振り分けはあるのでしょうか。
基本的に業務は分けず、さまざまな業務をすべてのメンバーに任せています。法務に所属する以上、契約書審査だけでなく、株主総会対応や知財関連の業務なども経験できるようにしています。
個人の専門性を高めるといっても、1分野に特化するだけではその方が活躍の場を拡げることは難しいはずです。ですから多くの分野で活躍できる人材を目指して、当社法務チーム内ではスキルを伸ばしてもらおうと考えています。
法務チームにはどのようなご経歴をお持ちの方が多いのですか?
あまり特定の傾向はありませんね。
もともとSaaS系企業にいた者は多くなく、まったく別業界で働いていた者がほとんどです。法務そのものが初めてという者もいます。
「背中を見せてナンボ」対面コミュニケーションが新入社員の即戦力化を加速する
それは驚きました。未経験で入社された方でも活躍できるようになるための仕組みなどがあるのでしょうか。
私は「ボスは背中を見せてナンボ」だと思っているので、入社後のオンボーディングには必ず立ち合い、「当社ではどんな契約類型が多いのか」「どの契約書を使うのか」という説明を行います。
また、その後のリーガル相談時にも、一人ではなく必ず誰かをサポートに付けて業務に当たってもらっていますね。
このような形で、スピーディーに当社の業務をこなす力を身につけることが可能です。
貴社は基本的には出社して業務を行っているそうですが、OJTがしやすい環境でもありそうですね。
そう思います。やはりWebだと背中を見せにくいですね。
実際に顔を合わせて研修を行うことで、自然とコミュニケーションの取り方を学ぶ機会にもなると考えています。
これは出社することの大きなメリットではないでしょうか。
中島様ご自身はファーストキャリアで法律事務所に所属されていましたが、事務所とインハウスの仕事の違いをどのように感じていらっしゃいますか。
法律事務所にいると、契約書のチェックをしても、その後どのように使われるのかが見えづらい面があります。最終的なビジネス判断は依頼者に委ねることが多いので、その先は直接確認できないことも多いです。
事業会社では、自分のリーガルアドバイスがビジネスにどのように反映されるかが見えます。たとえば「法務としてはこういう意見だけど、事業としてはそうじゃないほうが良い」というケースも時にはあります。こういった部分で事業部と調整しながら伴走できるのは、大きなやりがいです。
事業部とのコミュニケーションを密にとり、ビジネスを完成させていく役割を持つ点が、事務所の弁護士とインハウスローヤーの差ではないでしょうか。
事業部と伴走するためにはビジネスへの理解も必要
貴社ならではの案件や取り組みなどはありますか。
当社はバックオフィス向けツールを提供しているため、法務でも「freeeサイン」といった自社サービスを実際に使い、開発チームにフィードバックしています。
また、新規ビジネスの立ち上げには必ず私たちが関与しています。私たちのプロダクトは専門士業の方が扱う事も多いので、専門士業の独占業務や個人情報保護などの観点から検討を行います。
スピード感を合わせるのに苦労しませんか。
事業部の社員も同じオフィス内にいるので、コミュニケーションは取りやすい環境だと思います。
それと当社は会議をする機会が多いですね。必要があればすぐに話しかけて、感触を確かめることがよくあります。
会議といってもビジネスを前へ進めるための話し合いです。ゴール設定を明確にして、一気に前へ進むやり方が当社らしいカルチャーだと思います。頭を使うので疲れますが、そのぶん面白いですね。
ビジネスに関する理解度も求められそうです。
そう思います。入社当初はキャッチアップに苦労するかもしれませんね。
当社ならではのカルチャーに慣れてしまえば、それほど難しい話ではないとは思います。
法務部としてやりがいを感じた案件はありますか?
プロダクトを作るタイミングから関与していた案件が世に出たときは、非常にやりがいを感じました。リーガルとしてもしっかり取り組んだ案件で、会社の力になれた実感があり、成功体験になったと思います。
感慨深そうですね。
非常に感慨深かったです。
法律事務所時代には味わえなかった感覚がありました。
事業部に相談してもらえる法務チームの秘訣は「ファンを作る」こと

法務チーム内外との密なやり取りが、事業を前へ進める力になると語る。
開発段階から事業部と連携することは多いのですか?
そうですね。ただ、事業部側から声をかけてもらえなければ、法務側がキャッチすることは難しいです。そのため日ごろからコミュニケーションを欠かさず、いつでも声をかけやすい関係性を作っておくことを大切にしていますね。
先ほどの案件もそういったやり取りをしていたからこそ、スタート時点から関わることができた仕事だったと思います。
また、法務というだけで敷居が高いと感じられないように気をつけています。相談のしやすい環境を整え、ファンになってもらうことが大切だと考えており、メンバーにも「ファンを作りましょう」と伝えています。
ファンになってもらえれば信頼関係が生まれますし、信頼関係があるからこそ時には厳しい意見も伝えることが可能です。
「ファンになってもらう」には、どのようなコミュニケーションが必要なのでしょうか。
私は、相談をしてくれた人に対して配慮を持って接することが大事だと考えています。
法務は「NGを出す部署である」という印象を持たれがちです。
リスクを伝えるだけでなく「それならばこういう代替案があります」と寄り添うことで、ビジネス部門の方にも法務のアドバイスを前向きに捉えてもらえるようにしています。
相談までのハードルを下げるために、取り組んでいることはありますか?
リーガル相談の入り口をひとつに集約しています。
経理や人事労務なども同様で、一元的に受付けて担当部署につなぐ流れです。そうすると、相談がしやすくなり、実際に多くの問い合わせが来ています。
社内向けの情報発信にも注力されていると伺いました。
社内には月1回ほど法改正の情報や注意喚起などを共有しています。堅苦しくなりすぎず、少しユーモアを交えて読んでもらいやすくするよう工夫しています。
フリー株式会社・法務チームの働き方
皆さんの勤務時間は平均するとどのくらいでしょうか。
9時から10時ごろに出社し、19時から20時までには退勤する者が多いです。
先ほど基本的には出社で仕事をすると言いましたが、リモートワークも「絶対NG」というわけではありません。
育児や介護など、ご家庭の都合でどうしても家にいなければならない事情がある場合などは、柔軟にリモートワークも選択可能です。
楽しく仕事をするためにマネージャーが気を付けるべきこと
法務チーム内のコミュニケーションや、マネジメント方針はいかがでしょうか。
チーム内でも、お互いへのリスペクトと配慮を常に意識するようにしています。
私からメンバーへのコミュニケーションの際は、当人の置かれた立場を理解してから発言するように気を付けていますね。
マネージャーといえど、個々の状況を常に把握し続けることは難しいですからね。
案件の背景を聞かないまま指摘をするのではなく、「どういう経緯ですか」とヒアリングしてからフィードバックすることを心がけています。
また、業務と関係のない雑談は相手の人となりを理解するだけでなく、私の人となりを知ってもらうことにもつながりますから、ちょっとしたコミュニケーションも大切にしています。
やはり仕事は楽しくないと意味がありません。仕事の楽しさにつながるのは、チームとして居心地が良いことです。そのため、心理的安全性を保てる環境づくりを大切にしています。
心理的安全性を保つために行っていることはありますか?
1on1を必ず行っています。1on1では仕事の相談が出がちなのですが、本当はその人のライフスタイルやキャリア観など仕事以外の部分を知りたいんです。
そのため「ナインボックス」というフレームワークを用い、雑談的な会話を通じて9つの観点から当人の業務以外の部分を理解するよう努めています。
こういった情報を踏まえることで、当人にとって本当に大事な仕事とはなにかを話し合うことが可能です。
フリー株式会社が大切にする「マジ価値」の文化
貴社の法務組織で働く魅力を、一言でいうと何でしょうか。
「楽しい」に尽きます。事業部からもしっかりと意見を聞いていただけますし、リーガルとしての見解を尊重してもらえるからこそやりがいがあります。
また、「マジ価値」という社内用語があり、ユーザーに本質的な価値を届けるために努力する社風が浸透しているため、そこにリーガルも巻き込んでもらえる一体感を感じています。
「マジ価値」とはどういう意味の言葉なのでしょうか。
「ユーザーにとって本質的な価値とは何かを考え、届けきる」というのが、「マジ価値」の考え方です。
この考え方にもとづき、当社の「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションを推進しています。
「これって『マジ価値』なのかな?」のように、仕事中にも使われますよ。皆がこの価値観を理解して共有しているところが、当社らしさでもあると思います。
社風にマッチすれば未経験からでもキャッチアップ可
法務・リスク管理部の中でも、法務チームは特に幅広い業務を経験できるとのことですが、具体的にはどのような分野をカバーしていますか。
契約書審査からコーポレートガバナンス、リスク管理、知財まで幅広く携わります。上場企業として株主総会対応なども行いますので、企業法務として総合的なスキルを身につけやすい環境です。
人物像としては、どのような方が合いそうでしょうか。
当社のミッションやカルチャーに共感できる方で、謙虚で成長意欲が高い方、そしてコミュニケーション能力がある方がフィットすると思います。
法務未経験でも学びながら成長できる環境ですので、積極的にチャレンジしていただきたいです。
AIやリーガルテックの発展に伴い、法務業務も変化すると考えられますが、その点はどのようにお考えですか。
私がそういったテクノロジーの導入に前向きということもあり、当社では「Legalscape」や自社開発のLLM基盤などを活用し、初期リサーチや契約書のひな形管理の効率化を図っています。
また、当社では全社的に「OKR(オブジェクティブ・キー・リザルト)」という方針を採用しています。これは、目標とその達成のために必要な結果を管理する業務管理手法です。
法務でもOKRをフレームワークとして、いかに法務業務を効率化するかを考えて業務に取り組んでいます。各種テクノロジーの導入もその一環です。
相談者の「ハートを掴む」能力がこれからの法務パーソンには求められる

繰り返しコミュニケーションの価値を説く中島様。法務として事業を支える姿勢を「背中で」見せる。
これからの時代に求められる法務パーソン像はどのようなものだとお考えでしょうか。
最終的には「相談者との信頼関係をどのように築くか」が大切です。
いかに相談の本質を見抜き、コミュニケーションを通じて相談者のハートをつかめるかが、法務パーソンとしての強みになると思います。
ただ、個人のスキルを磨き専門性を高めることも大切です。高い専門性を持つことで、相談を受けた際に即応じることができます。それが最終的に相談者のハートを掴むことにもつながります。
弁護士資格を持っているからといって法務領域だけに限らず、幅の広いスキルを身につけていくことに重きを置いています。
中島様はどのようにご自身のスキルを磨いてきたのですか。
私が弁護士になりたての時、「目標とする先生を見つけなさい」と言われていました。それに従って、これまで自分がなりたい姿をイメージして今までスキルを磨いてきています。
ちなみに法律事務所時代のボスは司法書士からキャリアを始め、弁護士になった方です。
それを見てきたからか、私も企業法務に携わるならやはり会計・税務の理解があり、登記手続きにまで精通している方が活躍できる領域は広がるなと考えています。私自身、今後も勉強を続けたいと思います。
貴社の法務組織ではどのような経験が得られるでしょうか。
法務チーム内で案件の分業化はしていないので、コーポレートガバナンスもリスク管理も知財も扱います。
また商事法務に携わる機会もあり、上場企業の株主総会運営に関わるなど、幅広い分野を扱い、企業法務としての総合力がつくのは大きな魅力です。
求職者へのメッセージ
最後に、転職を検討している弁護士や法務パーソンの方々へメッセージをお願いします。
フリー株式会社では、法務経験の有無にかかわらず幅広い人材を歓迎しています。
コミュニケーション能力が高く、成長意欲がある方や当社のミッションに共感してくださる方は、ぜひカジュアル面談からでもお話しできればと思います。
成長企業で多様な法務業務を経験したい方には、とても刺激的な環境だと思います。
動画:事務所弁護士からインハウスへ転職|社内から信頼される法務チームとは

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