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日本IBM法務トップが語る インハウスキャリアの真髄

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日本IBM法務トップが語る インハウスキャリアの真髄

日本アイ・ビー・エム株式会社
取締役常務執行役員 法務・知的財産・コンプライアンス担当
アンソニー・ルナ

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日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)の法務部門を7年以上にわたって率いた取締役常務執行役員 アンソニー・ルナ様(2025年9月退任)に、グローバル企業の最前線で求められるインハウスローヤーの役割や、変化の時代におけるキャリアの築き方について伺いました。

AIやデジタル技術が急速に進化し、ビジネスと法務の境界が曖昧になる今、法務のリーダーとしてどのように価値を発揮し、組織を導くのか。多様な文化と視点を生かしながら挑戦を重ねてきたアンソニー氏が語る、「インハウスキャリアの真髄」に迫ります。

※取材対象者の所属・役職、企業の組織体制などは2025年5月の取材当時の事実に基づいて制作しています。

グローバルローファームのパートナーからインハウスへ

日本アイ・ビー・エム株式会社 取締役常務執行役員 法務・知的財産・コンプライアンス担当 アンソニー・ルナ 様(2025年5月インタビュー当時)の写真

日本アイ・ビー・エム株式会社 取締役常務執行役員 法務・知的財産・コンプライアンス担当 アンソニー・ルナ 様(2025年5月インタビュー当時)

これまでのキャリアを含めて自己紹介をお願いできますでしょうか。

アンソニー・ルナと申します。

カリフォルニア出身で、カリフォルニア州弁護士資格を取得後、シリコンバレーでベンチャーやM&Aを中心に企業法務に携わっていました。その後ジョーンズ・デイ法律事務所で経験を積み、パートナーとして勤務しました。

2013年に日本IBMへ入社し、2017年から法務担当役員弁護士として、現在は日本IBM全体の法務を統括しています。

法律事務所のパートナーからインハウスへと転身された経緯について教えてください。

当時は非常に悩みました。弁護士として事務所に入れば、誰もが目指すのはパートナーの座です。ようやくその立場に就いたところで転職を決断するのは簡単ではありませんでした。しかし、自分自身が成長し続けるためには、新しい環境に挑戦する必要があると感じました。

インハウスの仕事は事務所とは全く異なる視点とスキルを求められますし、IBMのように長い歴史と先端技術を併せ持つ企業であれば、法務として新しい価値を発揮できると確信したんです。

もともとインハウスに転身することは考えていなかったのでしょうか。

正直、全く考えていませんでした。

妻も企業法務で働いており、当時は家庭と仕事の両立について考えることはありましたが、それでも事務所でキャリアを積み重ねていくつもりでした。

ただ、IBMとのご縁をきっかけに、真剣に自分のキャリアを見つめ直し「新しい形で挑戦してみよう」と思い立ったのです。

大きな決断と挑戦の結果、現在のキャリアにつながっているのですね。

1万人規模の組織を支える日本IBM法務 スクラム型のチーム運営

日本IBMの法務組織の概要や体制、担当領域、メンバー構成について教えてください。

日本IBM全体の社員数は比較的多いのですが、法務部門は40名ほどの比較的コンパクトな組織です。なかでも一般法務のみで見ると、もっと少人数です。

構成としては、一般法務のほか、政策渉外、知的財産を扱う2つのチーム(IP LawとIPライセンシング)、さらにセキュリティやコンプライアンスなど、複数の専門分野に分かれています。

課題が生じた際には、それぞれの分野から最適なメンバーを集めて対応します。ラグビーのスクラムのように、チームとして一体となって課題解決に取り組むのが特徴です。

プロジェクトごとに柔軟に編成されるチーム体制なのですね。

そうです。役割は明確にしつつも、常に連携を取りながら横断的に動いています。

チームには弁護士資格を持つ方も多いのでしょうか。

おおよそ半数程度が弁護士資格を持っています。一方で、資格を持たないリーガルプロフェッショナルも多く在籍しています。セキュリティや政策渉外などの分野では、法律知識に加えて技術やビジネスへの理解が求められるため、必ずしも弁護士資格が必要ではありません。

日本IBMの法務部門では、日本法弁護士と海外資格弁護士が混在し、さまざまなバックグラウンドを持つメンバーが協働しています。私自身はアメリカ法の弁護士ですが、異なる法体系でも本質的な考え方は共通しており、各国の経験を持つ弁護士が互いの視点を生かしながら、最適な解決策を導いています。

「できない」で終わらせない 解決志向のチーム哲学

日本IBMの法務組織として、どのようなミッションを掲げているのか教えてください。

私たちは明確に「ビジネスを成功させる法務」であることを使命としています。コンプライアンスを遵守するのは当然ですが、重要なのはその先にある「どうすればビジネスを前に進められるか」という視点です。

法務の仕事ではグレーゾーンの判断が多く、複数の選択肢が存在します。その中で最適な解決策を導き、ビジネスの成長を支えるのが私たちの役割です。いわゆる“守りの法務”ではなく、リスクを理解した上で挑戦を後押しする“攻めの法務”を意識しています。

ただ「これはできない」と結論づけるだけではなく、「どうすれば目的を実現できるか」を考えることが大切です。リスクを正しく認識しつつも、実現のためのオプションを一緒に探る姿勢がIBM法務の基本的なスタンスです。

法律事務所での経験からインハウスに移られて、仕事の捉え方や進め方に変化はありましたか。

大きく変わりました。

最初の半年から1年は、外部弁護士としての経験から「インハウスも問題ない」と思っていましたが、実際は全く違いました。法律知識だけでは足りず、ビジネス全体を理解しなければ有効なアドバイスはできません。

加えて、人とのコミュニケーションが何より重要です。事務所時代のようにメモを渡すだけのやり取りや、NGなものに「ノー」と言うだけでは通用しません。社内では、「ノー」の後に「ではどうすればできるか」を示す必要があります。その意識の転換に時間がかかりました。

自信を持って入社しましたが、最初の1年は正直「自分には合わないかもしれない」と感じていました。完全に慣れるまで2年ほどかかりましたね。

今ではチームの育成にも関わり、状況を俯瞰して戦略的に考えられるようになりました。外部弁護士時代には求められなかった視点を持って考えることが、インハウス法務の醍醐味だと思います。

少数精鋭で最先端技術を牽引する日本IBM法務の強み

IBM全体の規模に比べ、一般法務は少数精鋭で運営されている。

日本IBMの法務部にはどのような強みがあるのでしょうか。特徴的な点を教えてください。

日本IBMの法務部は、少数精鋭ながら非常に高度で幅広い業務に対応している点が特徴です。大型M&Aや複雑な訴訟、最高裁まで争われた案件など、何百億円規模の案件にも日常的に関わっています。

また、AI分野には10年ほど前から取り組んでおり、特に生成AIについてはここ2年で実務が大きく拡大しました。AI契約の設計やガイドラインの策定にも法務が深く関わっており、量子コンピューティングや半導体といった先端技術領域の法的課題にも対応しています。

限られた人員でこれほど多様かつ最先端の領域をカバーできるのが、IBM法務の大きな強みだと思います。

まさに少数精鋭で先端領域を支える組織ですね。新しい技術や法的な論点が次々に登場する中、法務メンバーがその変化に対応するための仕組みはありますか。

はい、大きく3つの柱があります。

まず1つ目は、IBM全体として提供される高品質な教育コンテンツを活用し、各メンバーが自主的に最新知識を学べる体制です。

2つ目は、社内外での発表機会を通じて知見を共有すること。調査や勉強の成果を自らプレゼンすることで、理解がより深まります。

そして3つ目は、社外活動への積極的な参加です。メンバーには学会やセミナーでの登壇、外部発表などを推奨しており、発信を通じて学びを広げています。

私自身も大学院でAI関連の講座を新設し、講義を担当しています。2年前には存在しなかった分野ですが、膨大な資料を読み込み、ゼロからカリキュラムを構築しました。

AI法務の論点は年々変化しており、教えることで自分自身も常にアップデートできる。そうした「教えることで学ぶ文化」が、日本IBM法務には根付いています。

インプットにとどまらず、社外発信や教育活動を通じて知を循環させているのですね。

その通りです。私も一般社団法人日本CLO協会の理事として、法務人材が外部と交流し、実務の知見を社会に還元できるような場づくりを推進しています。

法務部門の活動が社内外で高く評価される JILAインハウスリーガルアワード受賞

2024年度、日本組織内弁護士協会(JILA)が主催する「JILAインハウスリーガルアワード」を日本IBM法務部が受賞されました。しかも2年連続の受賞と伺っています。応募の背景にはどのような思いがあったのでしょうか。

そうですね。社内弁護士はどうしても表に出にくく、日々奮闘していても、その努力が社外からは見えにくいものです。

だからこそ、優秀なメンバーが日々挑戦している姿を外部にも知ってもらいたいと思いました。JILAのようにインハウスの取り組みを評価してくれる場があるのは本当にありがたいですし、チームのモチベーション向上にもつながります。競争の中で挑戦すること自体が、良い刺激になりますね。

多くの大企業の法務部が参加される中での2年連続受賞は、どのような点が評価されたと感じていますか。

私たちが取り組んできた量子コンピューティングやAIといった最先端分野の法務対応、そして大型案件や訴訟への取り組み、さらに社外活動などを総合的に評価いただけたのではないかと思います。日本IBM法務の強みが正当に認められた結果だと感じています。

受賞後の社内外の反応はいかがでしたか。

大きな反響がありました。弊社代表取締役の山口がすぐに全社員へ受賞の知らせを共有してくださり、ご自身のコメントも添えて法務チームを称賛してくださいました。

社内から多くの祝福の声が届き、同業他社や法律事務所の方々からも「おめでとう」とメッセージをいただきました。チームの努力が形として認められたことは、何よりの励みになりました。

まさに、チームのモチベーション向上という目的も達成されたのですね。

はい。もともとチームの結束は強いですが、受賞をきっかけに互いの努力を改めて認め合う雰囲気が生まれました。法務の仕事は見えにくい部分も多いので、こうした形で社会に評価されることは非常に意義があります。

AI時代に求められる法務人材の資質

AIやテクノロジーが急速に発展する中で、これからの時代に求められる法務人材像について、どのようにお考えですか。

まず前提として、AIの進化は止められません。法務においても、調査や比較といった単純作業は自動化が進みます。そのため、弁護士として価値を発揮するには「判断力」と「コミュニケーション能力」が欠かせません。

人と協働しながら、課題に対して複数の解決策を提案できる力が求められます。白黒で割り切るのではなく、多面的に考え、意見を伝えられることがこれからの法務人材にとって重要です。

AI時代において、人にしかできない価値をどう発揮するかが鍵になりそうですね。

そう思います。AIの進化を前向きに受け止め、その上で「法律+α」の付加価値を磨くことが重要です。

法的な正確性を担保するだけでなく、テクノロジー、経営、コミュニケーションなど、何か一つでも自分なりの強みを持つこと。AI時代の法務には、そうした広い視野と創造的な判断力が求められると感じています。

法律に「プラスアルファ」を加えるキャリア 人間性と成長意欲が鍵

自身の課題意識や考えを表明するコミュニケーション能力を持つことが、「プラスアルファ」のある弁護士になるために求められる。

弁護士の方々の中には「プラスアルファの専門性をどう築けばよいのか」と悩む方も多いように感じます。どのように自分の強みを見つけ、広げていくべきだと思われますか。

私自身、もともとはM&Aやベンチャーを専門としていましたが、今ではAI、量子、プライバシー、サイバーセキュリティ、ガバナンスなど幅広い領域を担当しています。このように、専門を広げていくことも一つの方法です。

しかし、それ以上に大切なのは、人間的なコミュニケーション能力と問題解決力です。インタビューの場でも、リスクを恐れず自分の意見をしっかり伝えることが大事だと思います。

「この人は自分の考えを持ち、課題に向き合う意欲がある」と感じてもらえるかどうかが、法務としての付加価値につながります。

たとえば私は採用の際、出身校や経歴、前職の法律事務所がどこかといった点はほとんど見ません。まず話をして、その人がどんなことに興味を持ち、どんな困難をどう乗り越えてきたかを聞きます。

そして、「一緒に働いて楽しいかどうか」を重視します。その上で、チームメンバーとの相性を見て、良いと感じたら初めて経歴を確認します。経歴はあくまで参考程度ですね。

日本IBM法務部には四大法律事務所出身の方も多く在籍されていますが、それも経歴ではなく人柄を重視して採用されたということですか。

そうです。もちろん皆さん経歴は素晴らしいですが、それ以上に「一緒に働きたい」と思える人材です。

以前同じ事務所にいたというご縁もありますが、何よりも仕事に対する姿勢や思考の鋭さ、チームとの協調性が決め手でした。

「一緒に楽しく働ける人」とは、具体的にどんなタイプの方なのでしょうか。

一言でいえば「Growth Mindset(成長志向)」を持っている人です。困難に直面したときに、「なぜうまくいかないのか」ではなく、「この問題をどう乗り越えればより良い成果を生み出せるか」と考えられる人ですね。前向きに挑戦し、学びを楽しめる人は、どんな環境でも成長できます。

また、積極的にコミュニケーションを取れる人も大切です。日本ではミーティングで発言が少ないことも多いですが、私のチームでは議論がとても活発です。時には話が盛り上がりすぎて終わらないこともあります(笑)。

私はリーダーとして、メンバー同士が支え合い、安心して意見を交わせる環境づくりを大切にしています。法務の仕事は個人のスキルだけでなく、チームの力で成り立つもの。人材こそが最大の資産です。だからこそ、「人間性」と「成長意欲」を持つ人と一緒に働きたいと思っています。

若手弁護士へ 後悔しないキャリアを築くためのメッセージ

私たちは20代・30代の若手弁護士の方と接点を持つことが多いのですが、そうした方々に向けて、「若いうちに経験しておくと良いこと」があれば教えてください。

法律の知識やスキルを身につけるのは当然の前提になります。その上で、法律以外の専門性や興味のある分野を持つことが大切です。

たとえば、自分で何らかのビジネスに関わった経験や、異なる業界のプロジェクトに携わった経験があると、インハウス法務として仕事をする際に大いに役立ちます。幅広い経験を積むことで、後に複雑な課題に直面したときにも多角的に判断できるようになります。

また、若いうちはオフィスの中だけで完結しないことも重要です。業務にしっかり取り組むことは大切ですが、外に出て人と会い異なる視点に触れたり、新しいスキルを学んだりすることが自分の成長につながります。

面接の場でも「法律以外にこんな挑戦をしてきた」と語れる経験があると、より印象に残るでしょう。

最後に、転職を考えている弁護士やインハウスローヤーの方々に向けて、メッセージをお願いします。

私は、法律の知識以上に大切なのは「自分の思い」だと考えています。

どんな分野に興味があり、どんな価値を社会に提供したいのかという「想い」を表現できる人こそが、法務部門でもビジネスの現場でも信頼される存在になれると思います。

履歴書や面接の場では、遠慮せず自分の思いを伝えてください。その「想い」を軸にキャリアを選ぶことで、自分に合った職場や仲間に出会えるはずです。

本記事の内容は動画でもご視聴いただけます
動画:外資系事務所パートナーから日本IBM法務部へ|JILAアワード受賞
日本アイ・ビー・エム株式会社 取締役常務執行役員 法務・知的財産・コンプライアンス担当
カリフォルニア出身。カリフォルニア州弁護士資格取得後、シリコンバレーにてベンチャー・M&Aを中心とした企業法務に従事。ジョーンズ・デイ法律事務所で経験を積み、パートナーを務める。2013年に日本IBMへ入社し、2017年より法務担当役員弁護士として日本IBM全体の法務を統括。長年の国際的な法務経験を活かし、グローバル視点から企業法務の変革を推進している。

※アンソニー様は、本記事公開時点で取締役常務執行役員を退任しており、2026年1月からは日本の法律事務所にて、クロスボーダーM&A、スタートアップ投資、テクノロジー法務及びAIガバナンスの分野を中心に、コーポレート及び一般企業法務に幅広く携わっております。テクノロジー及びデータ関連の案件に携わった経験を持ち、実務の中で、AI、量子コンピューティング、半導体、宇宙といった先端分野を特に注力領域としています。
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