法務部インサイド
「正解のない仕事」にチームで向き合う。JFEエンジニアリング法務部が描く、これからの企業法務
JFEエンジニアリング株式会社
法務部長・ニューヨーク州弁護士/法務部・弁護士
石塚 正樹/吹屋 響子
プラントの設計・調達・建設(EPC)から近年では運営・事業投資までを一気通貫で手がける、国内有数の総合エンジニアリング企業、JFEエンジニアリング株式会社(以下、JFEエンジニアリング)。同社の法務部は、一つひとつ条件の異なるプロジェクト契約と日々向き合い、案件の初期段階から経営判断にまで深く関与しています。
AIをはじめとするテクノロジーの進展、そして地政学的リスクの高まりにより、ビジネスの先行きはかつてないほど見通しにくくなっています。そのような時代に、企業法務には何が求められるのでしょうか。
法務部長としてプレゼンス向上に取り組む石塚様と、インハウスローヤーとして一貫してキャリアを積み、日本組織内弁護士協会(JILA)副理事長・国際委員長も務める吹屋様に、エンジニアリング企業ならではの法務の面白さ、組織運営の哲学、そしてこれからの法務パーソンに求められる資質について伺いました。
本記事では伺ったお話から一部を抜粋して紹介いたしました。インタビューの全編を収めた完全版動画は弊社メールマガジンへのご登録者限定でご提供しております。
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留学への憧れ、インハウスローヤーへの確信。それぞれが法務の道を選んだ理由

JFEエンジニアリング株式会社 法務部長・ニューヨーク州弁護士 石塚 正樹 様(右)/同 法務部・弁護士 吹屋 響子 様(左)
お二人ともよろしくお願いします。まず、簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか。
石塚 JFEエンジニアリングで法務部長を務めております石塚です。早稲田大学法学部を卒業後、川崎製鉄株式会社に入社し、半導体事業部門に配属されました。
そこで5年ほど半導体事業に関わる法務を経験した後、法務部に異動し、鉄鋼事業を含む全社の法務に携わりました。その後、川崎製鉄と日本鋼管株式会社の統合を機に、現在のJFEエンジニアリングに籍を移しています。
その間、アメリカのノースウェスタン大学に留学し、ニューヨーク州の弁護士資格を取得しました。
吹屋 吹屋と申します。一橋大学と一橋ロースクール出身で、修習期は66期です。
現在は当社の国内法務室と海外法務室を兼務しており、国内法務は主にエネルギー事業の担当、海外法務室の兼務によって海外プロジェクトも担当しています。
私は弁護士登録以降、一貫してインハウスとして勤務しておりまして、日本組織内弁護士協会との関わりも13年目になります。
石塚様は30数年前のご就職活動の時点から、すでに「法務をやりたい」というお考えだったのですね。
石塚 そうですね。当時は珍しかったかもしれませんが、「法務の仕事がやりたい」とはっきり言っていました。
実はその裏には海外留学をしたいという希望がありまして、社内制度として海外留学ができるところを探していたんです。法務部門に入り、そこからアメリカのロースクールに行くのが近道かなと、おそらく考えていたような気がします。
思惑通りに進まれたわけですね。吹屋様はファーストキャリアからインハウスというのも、当時はかなり珍しかったのではないでしょうか。
吹屋 当時はまだメジャーではありませんでした。私は大学で会社法のゼミに入り、ロースクールでもビジネスローコースに進んでいて、将来は企業法務だろうと考えていました。
企業法務にもいろいろな働き方がある中で、自分は事業や経営に近いところで仕事をしてみたい、その方が面白いんじゃないかと。
それに加えて、チームの中で共通のゴールを目指して働くのが好きだろうという自覚もあったので、インハウスの働き方に憧れを持ち、最初からインハウスで就職しました。今でも続けられているので、向いていたのかなと思います。
複数の業界を経て、今のJFEエンジニアリング様にご入社されています。決め手はどこにあったのでしょうか。
吹屋 前職は地方に本社のあるメーカーで、グローバルに事業展開している会社でした。コロナ禍で人々の働き方が大きく変わった時期に、自分のキャリアを考え直す機会があったんです。
地方にいながらも東京とのつながりが増えていく中で、今後はもう少しダイナミックな事業を展開している企業に勤めたいと思うようになりました。似た業界での経験もありましたので、当社への入社を決めた次第です。
その時の面接、石塚様は覚えていらっしゃいますか。
石塚 もちろん覚えています。「絶対に採用しなければいけない」と思って頑張りました。
アジア各国のインハウスローヤーと対話する、JILA副理事長としての国際活動
吹屋様は日本組織内弁護士協会(JILA)の活動も精力的にされていて、2026年4月から副理事長にも就任されたと伺いました。
吹屋 この4月からJILAの副理事長と、国際委員会の委員長を拝命しています。JILA国際委員会の大きな活動の柱の一つに、海外のインハウスローヤーの団体との交流があります。先日もシンガポールに行ってきました。
シンガポールのインハウスローヤーの団体は、JILAよりもさらに大規模で、年に1回2000人ほどを集めるインハウスローヤーをテーマとしたカンファレンスを開催しているのですが、そこにJILAの理事として招いていただきました。
学ぶことが本当に多かったですし、シンガポール以外にもインド、韓国、フィリピン、マレーシアなど、APAC地域のインハウスローヤーの団体の代表が集まり、交流を深めています。
発電プラントから橋梁まで、社会インフラを「作って、運営する」会社
ここから本題に入っていきたいのですが、まずJFEエンジニアリング様がどのような事業をされているのか、簡単にご紹介いただけますでしょうか。
石塚 当社のパーパスは「くらしの礎(もと)を創る・担う・つなぐ Just For the Earth」というものです。SDGsの実現の一翼を担う事業を行っていると自負しています。
具体的にはゴミを燃料として発電するプラント、天然ガスパイプラインとそのプラント、それから上下水道や橋梁といった社会基盤を整える事業も手がけています。生活基盤や環境を整えることに深く根ざした事業を展開しています。
他のエンジニアリング企業様と比較した時に、どのような特色がおありなのでしょうか。
石塚 競合他社の中には、例えば石油化学分野に特化されている会社もありますが、当社の場合は環境や社会基盤に根ざした、多彩な事業ポートフォリオを有している点が特色だと思っています。
それから、我々はいわゆる「箱物」を作って終わりではなく、そのプラントを使って事業を運営したり、事業投資をしたりというところまで手がけています。
設計、調達、建設だけでなく、その後の運営まで担っていらっしゃるのですね。
石塚 もちろんEPCが事業の中心ですが、運営や事業投資まで含めて手がけているところに特徴があります。最近では旧財閥系のエンジニアリング事業を行っている子会社を複数買収しておりまして、当社にとっても大きな力になっていただいています。
「毎回オリジナル」が当たり前。AIでは代替できない契約交渉の世界
エンジニアリング企業の法務ならではの面白さや特徴を教えていただけますか。
石塚 私は半導体事業、鉄鋼事業、エンジニアリング事業と渡り歩いてきたのですが、半導体や鉄鋼メーカーの場合、工場で物を作ってお客様にお納めするという形なので、契約スキームや類型もどうしても型にはまった、限定的なものになりがちです。
一方、エンジニアリング業界は既製品を販売するのではなく、お客様ごとにニーズを伺ってカスタマイズしたプラントを製作・据え付ける、工事を行うという仕事です。
ですから、個々のプロジェクトに応じて、どのような契約スキームが当社にとってもお客様にとっても適切なのかを個別に検討しますし、お客様や協力企業との責任分担・リスク分担をどうするかも、案件ごとに検討します。そこに面白さもあり、難しさもあると思っています。
吹屋様は他業界も他企業のインハウスもご経験されていますが、外から入られた立場として、そうした特色は強く感じられますか。
吹屋 そうですね。会社ごとの社風や色はあるのですが、法務の仕事は業界の特色が大きいと思います。
黎明期のPFI案件で学んだこと

官民共同のPFI事業の黎明期から案件に携わるなど、未経験の領域にもかかわるチャンスがある。
これまでで「ハードだった」とお感じになった案件はございますか。
石塚 20年以上前の話になりますが、当時はPFI事業、官と民が協力して事業を行う形態が日本ではまだ黎明期でした。倉敷市様の廃棄物発電事業をPFIで実施する案件があり、当社が受注したんです。
資金調達はプロジェクトファイナンスで行うことになりまして、私はあくまで一担当者として関わったのですが、どちらも初めての経験でした。右往左往しながら仕上げていったというのが正直なところです。
「なんでこんなに銀行の方がいっぱいいるのかな」と当時は驚きましたが、いろいろ迷いながら上司と一緒にプロジェクトを仕上げていったのは、大変でしたけれども勉強になりましたし、いい思い出にもなっています。
未経験のことに取り組む機会は、今でも多いのでしょうか。
石塚 日々学びだと思っています。私はたまたまこれまで転職をしてきませんでしたが、転職を考える場面があるとすれば、「もう仕事が分かってしまって刺激がない」というところからかもしれません。
私の場合は、ここにいながら新しいことを学び続けられたというのが、結果的に今まで続いた理由なのかなと思います。
「相談してよかった」と言われる法務へ。プレゼンスを上げるための現場主義
法務部長として組織を運営するうえで、最も意識されていることは何でしょうか。
石塚 法務部のプレゼンスを上げていくことが私の使命だと思っています。そのためには、社内の依頼者から法務部に気軽に相談してもらえる雰囲気を作りたい。「法務部に相談してよかった」と思われる職場でなければいけないと考えています。
よくありがちなのは、「法務に相談すると余計なチャチャを入れられるからやめておこう」と思われてしまう。
これではやはりダメで、心から「相談してよかった」と思ってもらえる、そういう法務部にしていかなければと思っています。
法務は信頼の商売。小さな成功の積み重ねが価値をつくる

法務に求められるのは法律の知識だけではない。信頼を勝ち取るためのコミュニケーション能力も重要になる。
吹屋様はご入社から2年弱ということですが、この会社で法務パーソンとして成長を実感する瞬間はございますか。
吹屋 特定の案件があるわけではないのですが、法務は「信頼の商売」だと思っていて、それはスモールサクセスの積み重ねだと考えています。
日々の業務でコミュニケーションを取りながら、相手の立場に応じたソリューションをできる限り提供していく。それを積み重ねていく中で、「今回相談できてよかった」「これからも担当してほしい」と声をかけていただけると、個人的にはとても嬉しく感じます。
そういう経験は、少しずつ増えてきたかなと思います。
キャリアの多様化が進む中で、法務パーソンとしてキャリアを築いていく上で大事なことは何でしょうか。
石塚 知識のアップデートは当然必要ですが、それ以上に、法務部員にはコミュニケーション能力が必要だと思います。我々の仕事は、社内の依頼者から相談を受けたときに「判決を言い渡す」ことではありません。
「では、どう解決していきましょうか」と伴走して一緒に考えていく。それが本来の仕事だと思っているんです。だからこそ、コミュニケーション能力が大事なんですね。
吹屋 私も同感です。プロフェッショナルである以上、知識のアップデートは必須です。
しかし先ほども申し上げたように、我々は信頼の仕事ですから、信頼関係を築くという意味でのコミュニケーションは本当に重要です。相手に寄り添って、その場に応じたソリューションを提供できることが、法務部員には求められると思います。
これからAIやテクノロジーが業界の中にも入ってきて、加えて地政学的なリスクもあり、ビジネスの先がますます見通しにくくなっていきます。
そういう中で正解のない仕事をしなければいけない場面はもっと増えてくるはずです。だからこそ、ビジネスと一緒にチームになって成果を探していく働き方が、今後はますます大事になってくると思っています。
AIでは代替できない法務部員の価値
AIやテクノロジーの発展によって、法務の仕事の中でも価値が上がる部分と、そうでない部分が出てくると思います。どのあたりにそれを感じますか。
吹屋 今のAIは、学習した内容の中から最も確からしいことを返してくれる仕組みです。ですから、そのアウトプットは必ず法務部員がレビューしなければなりません。
その意味で、法務部員の法的な知識やスキルは依然として必要不可欠ですし、その部分をAIが代替することはないと思います。一方で、簡単なリサーチなどはAIが担ってくれるようになるでしょう。
では人間の価値はどこで発揮されるのかというと――。
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