ヤメ検・ヤメ判録
裁判官、BCG、弁護士──知的好奇心に従って積み上げた異色のキャリア
三宅坂総合法律事務所
弁護士
小菅 哲聖
キャリアの選択は、これまでの経験や専門性を積み上げていくものと思われがちです。しかし、異なる分野を横断しながら、自身の可能性を広げていく道もあります。
京都大学法学部・ロースクールを卒業後、裁判官として法曹キャリアをスタートし、その後ボストンコンサルティンググループ(以下、BCG)での戦略コンサルタントを経て、現在は三宅坂総合法律事務所の弁護士として活躍する小菅哲聖弁護士。
「裁判官」「コンサルタント」「弁護士」という3つの異なる立場を経験してきた小菅弁護士に、それぞれの転機での意思決定や、知的好奇心を軸にしたキャリアの歩みについて伺いました。
裁判官からコンサルタント、そして弁護士へ

三宅坂総合法律事務所 弁護士 小菅 哲聖 様
自己紹介をお願いします。
小菅哲聖です。京都大学法学部およびロースクールを卒業後、司法修習を経て裁判官に任官しました。主に民事事件を担当し、任官中にはイギリスへの留学も2年ほど経験しました。
約8年間裁判官として勤務したのちに退官し、その後、戦略コンサルティングファームのBCGへ転職。戦略コンサルタントとして企業の経営課題に携わった後、弁護士としてのキャリアを再スタートし、現在は三宅坂総合法律事務所で勤務しています。
裁判官として培ったロジカルシンキングと多様な視点への理解
裁判官からBCG、そして弁護士という経歴は非常に珍しいですね。まず、裁判官としての任地はどちらだったのでしょうか。
最初は大阪地方裁判所に配属され、3年半ほど勤務しました。その後、2年間の海外留学を経て帰国し、四日市地方裁判所四日市支部に赴任しました。退官はそのタイミングになります。
裁判官としてのご経験を振り返って、特に印象に残っていることはありますか。
裁判官は独立した立場でそれぞれが自らの信念に基づいて判断します。その結果、同じ案件でも見方や結論が異なることがしばしばあります。
そうした中で、自分の考えを論理的に積み上げ、他の裁判官に説明・説得していく力が非常に求められました。ロジックの構築と多様な視点の理解は、まさに裁判官として磨かれた部分だと感じています。
任官前に抱いていたイメージとのギャップはありましたか。
司法修習を通じて裁判官の仕事には触れていたので、大きなギャップはありませんでした。ただ、実際に任官してみると、多様なバックグラウンドを持つ裁判官と日々接する中で、想像以上に考え方が幅広いことに驚かされました。
やはり、人によって価値観や判断基準も異なるわけですね。
そうですね。年齢や経歴、歩んできた環境によって判断の傾向は変わります。考えが合わないことも多々ありましたが、その違いをどう理解し、どのように自分の意見を伝えるかが重要でした。
合議事件では3人で結論をまとめなければなりません。補足意見を残すこともできないため、いかに共通認識を形成するかが鍵になります。その過程で、説得力のある論理構築や柔軟な思考力が培われたと思います。
留学で得た視野の広がりとビジネスへの関心
裁判官時代には海外留学も経験されたとのことですが、どのような制度だったのでしょうか。
裁判所には外部経験制度があり、裁判官が外部の組織や大学で一定期間学ぶことができます。
留学のほか、企業研修や法律事務所での実務経験なども選択肢として用意されています。私はその中で、留学を選びました。
留学を希望される方は多いのですか。
比較的多い方だと思います。以前よりは海外留学に対して慎重な方も増えていますが、裁判官にとって貴重な経験の場として位置づけられています。
実際に留学して得られた学びや気づきについて教えてください。
世界各国から集まる学生と共に学ぶ中で、キャリアの多様性に強い刺激を受けました。
アカデミア、公務員、民間、弁護士など、複数の領域を経験しながらキャリアを形成している方が多く、自分の可能性を広げる姿勢が印象的でした。
また、2年目には法律だけでなく、オックスフォード大学でエコノミクスやファイナンスといったビジネス寄りの科目にも取り組みました。法律知識を経済活動や企業取引にどう応用するかを考える中で、ビジネスそのものへの関心が大きく高まりました。
こうした経験が、後のキャリア選択にもつながったと思います。
異業種転職で直面した“アンラーニング”の壁
留学から帰国後、BCGに転職されたきっかけを教えてください。
留学中にビジネスへの関心が高まったことが出発点です。
実際のビジネスの現場がどのように動いているのかを知りたいと思い、キャリアコンサルタントとの面談を通じてコンサルティングという選択肢に出会いました。
当時の私は特定の業界に理解があるわけではありませんでしたから、業界を横断的に経験でき、ビジネスの仕組みを深く理解できる環境として、BCGへの転職を決意しました。
転職されたのは何歳頃でしたか。
30歳を過ぎた頃です。キャリアチェンジをするには最後のタイミングだという意識もありました。弁護士を経てからコンサルに挑戦することは年齢的にも難しいと考え、このタイミングで決断しました。
裁判官からコンサルタントという、全く異なる環境に飛び込まれて苦労も多かったのではないでしょうか。
そうですね。裁判官としての経験が直接的に活きた部分は少なかったです。むしろ、「これまでの考え方を一度崩す必要がある」と言われたのが印象的でした。
BCGでは「アンラーニング」が求められました。つまり、裁判官としての論理的思考をいったんリセットし、新しい思考プロセスを構築する必要があったのです。
具体的にはどのような違いを感じたのでしょうか。
裁判所では、確定した事実を積み上げて結論を導くという慎重なプロセスを取ります。
しかし、ビジネスの世界では時間軸がまったく違います。数年かけて判断していては、環境が変わってしまう。限られたデータの中で最善の判断を下すスピードと柔軟性が求められました。
また、数字を使って議論する文化も大きな違いでした。裁判官時代は数字を扱う機会がほとんどなかったのですが、コンサルティングではデータ分析や財務モデルが前提になります。
Excelすら使ったことがない状態からのスタートでしたが、数字で考え、可視化し、意思決定を支援するスキルを徹底的に身につけました。
結果として、裁判官時代に培った論理性をベースにしつつも、BCGで新しい思考法を学び直したことが、今の自分の大きな糧になっています。
BCGで培った「構造化思考」は今でも活きている
BCGではどのような業務を担当されていたのでしょうか。
BCGでは複数のプロジェクトにアサインされましたが、最も長く携わったのはマーケティング関連の案件です。クライアントの売上や利益をどう伸ばすかというテーマのもと、主に二つの観点から分析を行いました。
一つは顧客がどのような理由で商品を選び、競合と比較して何を評価しているのかという点。もう一つは企業内部から製造コストや価格設定の妥当性を分析し、利益構造を改善する視点です。
これらを統合し、クライアントの収益最大化を支援していました。
BCGでの経験から得た学びや、今に活きているスキルはありますか。
最も大きな学びは、物事を「構造化して捉える力」です。
多くの情報の中から本質的な要素を抽出し論点を整理していくスキルは、BCGで徹底的に鍛えられました。スライドやドキュメントを作成する際には、タイトルや章立ての抽象度を揃えることも重視されます。
これは、現在の弁護士業務で裁判所に提出する書面作成にも直結しています。論点を構造化し、読み手にとって理解しやすく伝える意識は、BCGで身につけた大切な財産です。
ビジネスの最前線で培った能力をベースに、再び法律の道へ

BCGでの業務を経て「法律×ビジネス」の両面から価値を提供できる弁護士に。
BCGでの経験を経て、弁護士へ転身された背景を教えてください。
BCGでは充実した日々を過ごしていましたが、自分が社会に提供できる価値を改めて考えたとき、法務の知見を活かす道にもう一度向き合いたいと感じました。
ビジネスの知識とロジカルな法的思考を掛け合わせれば、より広く、深い価値を提供できるのではないかと。
その結果として、法務とビジネスの両側面からクライアントを支援できる弁護士というキャリアを選択しました。BCGで培った構造化思考や経営視点を取り入れることで、法律の枠を超えた実践的な助言ができると考えています。
数ある法律事務所の中から応募先を選ぶ際、どのような基準やポイントを重視されましたか。
まず、裁判官としての経験やBCGでのビジネス経験を活かせることを前提に考えました。また、コンサルタント時代と同じく、特定の業界に限定されず、幅広い分野のビジネスに関わることができる環境を求めていました。
私にとって、常に知的好奇心を刺激されるような案件に携われることは非常に重要です。そうした観点から、多様な案件に触れられる事務所を志向していました。
そのような基準で選ばれる中で、どのようなタイプの事務所に絞られたのでしょうか。
私のキャリアを踏まえると、いわゆる大手法律事務所のカルチャーとは少し異なる環境の方が合っていると感じました。そのため、中規模の事務所を中心に応募し、面談を重ねながら検討を進めました。
最終的に三宅坂総合法律事務所を選ばれた決め手は何だったのでしょうか。
面接を通じて事務所の雰囲気や文化を感じる中で、所属されている弁護士の方々が、自身のキャリアについて主体的に考え、それぞれの道を追求している印象を強く受けました。
私は、自らの関心を軸にキャリアを築いていきたいという思いを持っていたため、その価値観が非常に近いと感じました。
自主性を尊重しながら、多様な案件に挑戦できる環境だと感じたことが三宅坂総合法律事務所を選んだ最大の理由です。
三宅坂総合法律事務所の特徴
三宅坂総合法律事務所について、概要を教えていただけますか。
当事務所は1990年に設立され、現在はおよそ40名の弁護士が所属しています。最もシニアなパートナーは30期代後半で、50期・60期・70期の弁護士も多く在籍しており、世代的なバランスが非常に良い事務所です。
事務所の強みとしては、小規模ながらもフットワークが軽く、迅速かつ高品質なアウトプットを提供できる点にあると感じています。スピード感とクオリティの両立、そしてコストパフォーマンスの高さを意識した業務提供を大切にしています。
現在はどのような業務を担当されていますか。
主に3つの柱があります。
1つ目は、ビジネスに関わる紛争解決業務です。これは裁判官としての法的知見と、コンサルタントとしてのビジネス理解の両面を活かせる分野です。
2つ目は、M&Aを含む企業提携・トランザクション支援です。コンサルティングの経験を踏まえ、クライアント企業の事業構造やリスクを理解したうえで、契約やスキーム設計を上流からサポートしています。
そして3つ目が、留学経験を活かした英語案件です。国際契約や海外企業との交渉など、グローバル対応を要する案件も手掛けています。
セクショナリズムを排除した協働体制
案件のアサインやチーム体制はどのように決まるのでしょうか。
当事務所ではセクショナリズムを排除し、案件ごとに最適なチームを編成します。弁護士の関心や専門性も考慮しつつ、柔軟にプロジェクトを組む仕組みです。
関心のある分野で特定のパートナーと継続的に仕事をすることもありますが、固定的な体制ではなく、常に自由度の高いアサインが可能です。
事務所の雰囲気やカルチャーについて教えてください。
クライアントに価値を提供できる限り、働き方は各弁護士の自主性に任されています。
勤務時間や勤務場所を厳密に定めることはなく、成果に責任を持つ前提で自由に働ける環境です。
弁護士が一人ひとり独立した専門家であることを尊重しており、誰かが働き方に口を出すような文化はありません。
実際の働き方のイメージを教えていただけますか。
私は夜型なので、昼間はクライアントとのやり取りを中心に行い、夜に起案や文書作成をまとめて行うことが多いです。
リモートワークも活用しており、特に夜は自宅で集中して業務を進めています。会議などがない日は在宅勤務の日も多いですね。
働き方のスタイルはメンバーによって異なるのでしょうか。
はい、かなり多様です。
事務所で集中できる方は毎日出社されていますし、私のように自宅で働くスタイルの弁護士もいます。
どの形が良い悪いということではなく、それぞれが最もパフォーマンスを発揮できる方法を選べるのが当事務所の大きな特徴だと思います。
全てのキャリアに通底する「状況認識力」と「論理的説明力」
裁判官、コンサルタント、弁護士と、さまざまなキャリアを経験されてきた小菅先生ですが、どの職種にも共通して求められる力は何だと感じますか。
いずれの仕事も、本質的には「専門的知見をもとに、相手の課題を整理し、解決策を提示して納得を得る」という点で共通しています。
法曹やコンサルティングの世界では、専門知識があることは前提であり、そのうえで重要なのは、クライアントや当事者の置かれた状況を正確に理解することです。
その上で、相手の思考や立場に寄り添いながら、論理的に説明して理解・納得を得ることができるかどうか。これが最も大切なスキルだと感じています。
裁判官時代にも、そのような力が求められていたのでしょうか。
はい。裁判官には依頼者という概念はありませんが、多くの民事事件は和解で終結します。
和解の内容に当事者が納得するためには、裁判所の考え方を筋道立てて説明し、当事者の理解を得ることが欠かせません。
そのためには、状況を正しく把握する力と、説得力のある論理的な伝え方が非常に重要です。これは、私のどのキャリアにも共通して求められた資質だと感じています。
自分の「関心」と「価値提供」の重なりを見極める

キャリアプランは「計画通りにいかない」もの。時代に合わせたバリューをいかに発揮するかを考える。
これからキャリアを考える若手弁護士や法務人材の方に、アドバイスをいただけますか。
キャリアには計画を立てることも必要ですが、その通りに進むことはまずありません。私自身も計画を立てて歩んできましたが、時代の変化があまりに速く、想定通りにはいきませんでした。
大切なのは「その時代にどのようなバリューが求められているのか」を意識し続けること。そして、自分が最もバリューを発揮できる領域を見極めることです。
ただし、それが自分にとってまったく関心のない分野であれば長続きしません。自分が楽しさや興味を感じられることと社会的なニーズの重なるところにこそ、自分らしいキャリアがあると思います。
ご自身の関心や方向性を見つめ直す際、どのように整理されていたのでしょうか。
転職のタイミングごとに、自分の中で棚卸しをしてきました。自分が何に関心を持ち、何を得意としているのかを客観的に見直す作業です。
転職を前提にしなくても、「このままでいいのか」と思った瞬間に一度立ち止まって考えることが大切だと思います。
また、私は必ず第三者と話すようにしていました。一つは各キャリアの専門アドバイザー、もう一つは昔からの友人です。特に高校時代からの友人など、自分をよく知る人と話すことで、思考が整理されることが多かったですね。
変化を楽しみ、自分の関心を軸にキャリアを描く
最後に、弁護士や法務分野でキャリアを模索している方々にメッセージをお願いします。
技術や社会構造の変化が激しい今の時代だからこそ、自分が楽しいと思えること、自分に合うことを見つけることが何より重要です。
三宅坂総合法律事務所は、弁護士一人ひとりが自主性を持ってキャリアを設計できる環境です。多様な案件に挑戦しながら、自分の興味や強みを生かしたい方には、非常にフィットする事務所だと思います。
新卒・中途を問わず、関心をお持ちの方にはぜひ門を叩いていただきたいですね。
動画:裁判官・BCG(ボスコン)を経て企業法務系事務所に転職した弁護士|三宅坂総合法律事務所 /小菅 哲聖

Recommend
おすすめ記事
-
- トップに訊く
日本IBM法務トップが語る インハウスキャリアの真髄
日本アイ・ビー・エム株式会社 取締役常務執行役員 法務・知的財産・コンプライアンス担当
アンソニー・ルナ
- グローバル
- 大手企業
- 企業法務
-
- インハウスの実態
四大法律事務所からアクセンチュア、テスラへ――多様な経験が導いたキャリア像
Tesla Japan合同会社/松下法律事務所 弁護士
稲井 宏紀
- 大手企業
- 企業内弁護士
- 企業法務
-
- 事務所を知る
企業の人事・労務問題を経営者目線でサポートする杜若経営法律事務所
杜若法律事務所 代表弁護士
岡正俊
- 社員弁護士
- 労務問題
- 企業法務
-
- トップに訊く
真のグローバルトップファームを目指す東京国際法律事務所
東京国際法律事務所 代表弁護士
山田 広毅
- パートナー・代表
- 留学
- LL.M.
- シンガポール
- 紛争解決
- M&A
- グローバル
- 企業法務
-
- トップに訊く
「人」が創るミツウロコ法務の変革 100年企業に息づくベンチャースピリット
株式会社ミツウロコグループホールディングス 上席執行役員 兼 ジェネラルカウンセル
大竹 宏枝
- コンプライアンス
- 大手企業
- 企業内弁護士
- 企業法務
-
- 法務部インサイド
未来を拓く法務プロフェッショナル 日本IBM法務が描く成長と挑戦の道筋
日本アイ・ビー・エム株式会社 弁護士
大内麻子/田中聡美
- 組織内弁護士
- グローバル
- リスクマネジメント
- コンプライアンス
- 知財・特許
- 大手企業
- 企業内弁護士



