トップに訊く
「契約書にこう書いてあるからできません」では、もう通用しない。JILA新理事長・新熊氏が語る、組織内弁護士の未来像
日本組織内弁護士協会/株式会社いつも
理事長/監査等委員
新熊 聡
法律知識だけでは、組織内弁護士の存在価値を語り尽くせない時代が来ています。司法改革から20年あまり、企業内弁護士の数は右肩上がりに増え続け、いまや経営の意思決定に深く関わる存在へと変貌を遂げつつあります。
2026年4月、日本組織内弁護士協会(JILA)の理事長に就任した新熊聡様は、株式会社いつもの監査等委員という経営の最前線に立つ実務家でもあります。
事務所弁護士からインハウスへ、そして経営へ。自らキャリアの「色」を変え続けてきた新熊様に、組織内弁護士のやりがいと苦労、AIがもたらす変化、そしてこれから求められる人材像まで、お話を伺いました。
本記事では伺ったお話から一部を抜粋して紹介いたしました。インタビューの全編を収めた完全版動画は弊社メールマガジンへのご登録者限定でご提供しております。
また、メールマガジンでは弊社が保有している非公開求人・新着求人情報などもお送りいたします。インタビューのより詳細な内容や、弊社保有求人にご興味のある方は、ぜひ以下のリンクからご登録ください。
化学メーカー就職から弁護士、そして経営へ。「色」を変え続けたキャリア

日本組織内弁護士協会 理事長・株式会社いつも 監査等委員 新熊 聡様
自己紹介をお願いします。
新熊 日本組織内弁護士協会理事長の新熊と申します。現在は、eコマース支援を手掛ける株式会社いつも、グロース市場の上場会社ですが、そこで監査等委員を務めております。
もともとは関西出身で、神戸大学法学部を卒業後、最初はJSRという化学メーカーに就職しました。その後、2004年に法科大学院制度ができ、司法試験に合格しまして、まず長島・大野・常松法律事務所、その後、国広総合法律事務所へ移り、6年ほど法律事務所で弁護士を勤めました。
転機となったのは2014年です。当時、神戸に本社のあった丸亀製麺を運営する株式会社トリドールの企業内弁護士になりました。そこで8年ほど法務部長を務め、M&Aなどにも数多く携わり、非常に充実した毎日を過ごしました。
その後、いまの会社の監査等委員にというご紹介があり、社長と面談した際の熱量に圧倒されまして、「ここで働こう」と決めて転じ、4年が経ったというところです。
JILAにはいつ頃からご所属を?
新熊 企業内弁護士になった2014年からです。最初は一会員で、当時は神戸でしたから関西支部の活動に参加していました。
後に東京へ移り、広報渉外委員会にお声がけいただいて入ったところ、いつの間にか委員長になり、理事になり、副理事長になり……という流れですね。
日本組織内弁護士協会(JILA)がどのような団体なのか、概要を教えてください。
新熊 その名の通り、日本の組織内弁護士の協会です。いまから25年前、2001年8月に最初はわずか4人で集まったのが始まりです。そこからだんだんと大きくなり、協会組織になって、現在に至ります。
会員数は現在2,200人おりますが、現役の組織内弁護士である正会員が1,700人です。残りの500人は準会員で、元組織内弁護士で現在は事務所弁護士に移られた方、あるいは非登録弁護士です。
非登録弁護士は公務員の方に多く、登録費用の関係で弁護士登録は外しているけれど、司法試験に合格していていつでも弁護士になれる方々のことですね。
なぜ増え続けるのか。「需要」と「供給」が重なった構造
インハウスローヤーは、新熊様が転身された2014年にはまだ1,000人ちょっとでしたが、いまや3,500人を超えています。これほど増えたのは、なぜなのでしょうか。
新熊 要因はいくつかありますが、究極的には、需要と供給がそれぞれ増えているというのが背景にあると思います。
需要側で言えば、企業が少子高齢化のなかで海外に進出するようになると、アメリカを中心とした契約社会では、何をするにも契約書、しかも分厚い契約書が必要になります。一般のビジネスパーソンではなかなか対応できませんから、専門家が社内に必要だということで、法務部が立ち上がり、そこに弁護士も入ってきた。
そこからさらに時代が進んで、企業の不祥事などが起きてコンプライアンス意識が急激に高まりました。またアベノミクスのもとで、海外の投資家に日本株を買ってもらおうとなると、経営の透明化が欠かせません。外国の投資家は、不透明な企業の株は怖くて買えませんから。
そうした流れで2015年にコーポレートガバナンス・コードができました。最近ではESGやサステナビリティといった新しい概念も出てきて、もはや法律家でないと対応できない。スピーディーに判断するには、社内に会社の内情をわかった弁護士がいて即断できる体制が要る。そうした需要があるわけです。
供給側については、私自身が法科大学院の一期生ですが、司法改革の狙いの一つが弁護士の増員でした。グローバル化を背景に、小泉内閣のもとで司法改革が提案され、弁護士の数が増えた。
この需要と供給がうまく噛み合って、インハウスが増えているのだろうと考えています。一つの要因ではなく複合的ですが、シンプルに言えば、双方が重なって伸びている。そして、まだ増え続けているという形ですね。
「弁護士やったらできるやろ」。数字で語れなければ「使えない」と思われる

経営者をはじめ、社内の期待に法律面から応えるのがインハウスローヤーの責務。
物事には良い面も大変な面もあると思います。インハウスローヤーの大変な面にフォーカスすると、どんな時でしょうか。
新熊 前職では、社長から「弁護士やったらできるやろ」と言われて、内心「はぁ……」と(笑)。契約書を読めば明らかにできないのに、それをどう実現するか、唸りながら方法を見出す。そういう苦労がありました。
それからもう一つ。経営者にとっては、数字がすべてです。法務の話も、どう数字に変えて理解してもらうかが問われます。
たとえば訴訟で「この訴訟、勝てる可能性は何%ですか」と聞かれる。本来、何%とは絶対に言えないのですが、「数値化できません」と答えると「こいつは使えない」と思われてしまう。
そこで「70%くらいですね」と。「その根拠は」と問われたら、「こういう事情で有利ですが、ここに弱点があるので、最終的に和解で落とせば7割ほどは取れるのではないでしょうか」と説明する。数字に落として理解してもらう、というのが一つ大変なところです。
確かに定量化しづらい。それでも経営者は定量で欲しい。
新熊 訴訟であれば、「何億円まで弁護士費用をかけていいか」といった判断にも関わってきますしね。
経営者から「これがやりたい」という難題が来て、どう実現するかを唸りながら見つけていく。それが大変であり、やりがいでもあるということですね。
新熊 そうですね。「契約書にこう書いてあるからできません。以上」では、経営者の求めに十分応えきれていないことになります。最大限応えられるように、あの手この手、代替案を提案できる能力が問われていると思います。
おそらく外部の弁護士にそのまま聞けば「これは無理です」という答えが返ってくる。けれど、「やりたいんです、何かいい方法はないですか、たとえばこういうのは」と投げかけると、「A案は難しいですが、B案ならリスクとリターンを考えて、リスクを取ってでもリターンを取りに行くのはありだと思います」と返ってくる。
弁護士でも、聞き方によって答え方が変わるんです。その回答をどう引き出すか。これも一つの技術ですね。
インハウスとして弁護士がキャリアを築くうえでのメリットは、どういうものが挙げられますか。
新熊 簡単に言えば、ビジネスの現場に放り込まれますから、どう稼ぐかが自然と身につきます。私で言えば、前職は外食、いまはeコマースですが、外食で8年、eコマースで4年と働くうちに、第一人者とまでは言いませんが「第三人者」くらいにはなれる。
しかも、外食からeコマースというまったく違う業態に移っても、法律という安定した基盤があるので、畑違いの業界でも転職が容易なんです。
あとは、よく言われることですが、ワークライフバランスが保てる。収入も、訴訟弁護士のように勝てばガッと、というのとは違って安定しているので、生活設計が立てやすいというのもあります。
見通しが立てやすい。私自身、弁護士の方のキャリア支援をしていても、組織内弁護士の報酬レンジが上がってきている実感があります。
新熊 組織内弁護士が好待遇になってきたというより、我々のポジションがだんだん上がってきている。ポジションが上がれば自然に報酬も上がる。そういう関係だと思いますね。
適法性から「妥当性」へ。経営に弁護士がいる意味
この10年、新熊様ご自身も役員として経営に参画されています。法務の専門知識を持つ方が経営に入る意義やメリットは、いかがお考えですか。
新熊 私は監査等委員ですが、監査役の世界では昔から「監査役は適法性監査はやるが、妥当性監査までは及ばない」と言われてきました。
監査等委員は妥当性まで踏み込める、と。外部の弁護士はどうしても適法性にとどまりますが、我々が経営に入ることで、適法性を超えて妥当性のところまで判断していける。これが一つ大きなメリットだと思います。
それから、顧問弁護士ではなくインハウスの最大の強みは、やはりスピード感です。経営会議や取締役会の場で、その場で判断し決定しなければならない。そこに居合わせていれば、「それはできません、絶対にやってはいけません、やめましょう」という判断もその場で下せる。スピード感と安定性を両立できるわけです。
加えて、常勤として会社にいると、いろいろな情報が入ってきます。「こんな取引をやるらしい」と耳にした瞬間、アンテナがピンと立って、「これは同業者とやると独禁法に引っかかるんじゃないか」と気づく。火が燃え上がらないうちに消し止められる。そういうリスクの早期発見ができます。
さらに、経営陣に弁護士がいれば、「あの会社は取締役や役員に弁護士がいる」と、対外取引における安心感にもつながると思います。
中にいることに加えて、会社の大きな意思決定の場にいる、というのが大きいですね。その場にいなければ、すべて進んだ後に「いや、それはちょっと……」となって、やり直しになりかねない。
新熊 だいたい社長というのはせっかちで、すぐ動きますからね(笑)。でも、その場にいればやり直しの必要もない。とくに我々のようなグロース市場で最先端の事業をやっている会社では、スピードが命。判断は一刻も早いほうがいいんです。
「再定義」という言葉に込めた覚悟。「サラリーマン化」への危機感

万が一、自社の不正に気が付いたなら職を辞する覚悟でそれを糺す。高い遵法精神を持つことこそ、インハウスローヤーの責務だ。
理事長就任のご挨拶で、「法律知識と倫理観に裏打ちされた組織内弁護士の再定義」とおっしゃっていたのが印象に残っています。この言葉に込めた思いを聞かせてください。
新熊 最近、組織内弁護士が「サラリーマン化」しているのではないか、という思いが、内心なくはないんです。法務部には、法律の資格を持つ人間と持たない人間が両方いたりする。では、我々が法務部にいる価値とは何なのか。そう考えました。
一つは、司法試験に合格し、司法修習を経て、国から「十分な法律知識がある」と認められている。資格に裏打ちされた安定した法律知識が保証されているということです。
ですが、それだけではありません。我々は一弁護士ですから、弁護士会から懲戒請求をかけられる可能性がある。ここが、資格のある人とない人の最大の違いだと思っています。
コンプライアンス案件や不祥事案件が出てくると「法務部は何をやっていたんだ」という話になりますが、究極的には、株主から、代表訴訟ならぬ懲戒請求のような形で問われる可能性もなくはない。
つまり、倫理観を持っていることが制度的に保証されているであろう我々組織内弁護士は、法律知識だけでなく倫理観という意味でも価値があるんだと。それを常に意識して行動してほしい。
社内で重大な不祥事があり、自分が気づいたなら「この会社をクビになってもいい」という覚悟で、内部通報をするなど改善に向けて動くべきだと。資格があるからこそ、究極的には転職も比較的容易にできる。
だからこそ、国から資格を与えられた者としての義務を果たさなければならない。そう思って、あえて「再定義」という言葉を使わせていただいたんです。
それを踏まえて、これからの組織内弁護士は、どういう存在になるべきだとお考えですか。
新熊 やはり、どんどん経営に入ってほしい。ナビゲーターと言えばいいでしょうか。社長が率いていくなかで、右に行くか左に行くか、その岐路で社長の横について道を示す。そういう存在になっていくべきではないかと思っています。
そしてAIを「使われる」のではなく「使いこなす」。AIは結論が早いですから、得られた結果をもとにスピーディーに判断し実行していく能力も当然必要です。
さらに、制度設計の力。求められたことに応えるだけでなく、たとえばコーポレートガバナンスや監査等委員会設置会社への移行について、「こう変えればもっと良くなる」と提案する。コンプライアンス体制も含めて、会社の仕組みそのものを構築していく人になってほしいと思います。
そして最後に、我々はやはり口が資本です。外に向けては交渉、社内では、言い方は悪いですが根回しや社内調整。そういう泥臭い、人間にしかできない領域で、人間力あふれる人材になっていくべきなのかなと思っています。
新熊さまの理事長としての抱負、これからやりたいことを教えてください。
新熊 いくつか公約を出していますが、一番は――
また、メールマガジンでは弊社が保有している非公開求人・新着求人情報などもお送りいたします。インタビューのより詳細な内容や、弊社保有求人にご興味のある方は、ぜひ以下のリンクからご登録ください。
▶メールマガジンに登録する

Recommend
おすすめ記事
-
- キャリア羅針盤
社会課題解決への熱い想いを抱えメーカー法務から「成長産業支援」のフォースタートアップスへ
フォースタートアップス株式会社 法務部
塩田 貴大
- リスクマネジメント
- コンプライアンス
- 企業内弁護士
- 企業法務
-
- インハウスの実態
自分の仕事が「スタンダード」になる モビリティ業界をリードするパーク24法務が取り組む「正解のない課題」
株式会社パーク24 グループ法務・知的財産部 次長
堀 真知子
- コンプライアンス
- 企業内弁護士
-
- インハウスの実態
スピーダ・News Picks法務リーダーが語る、インハウスローヤーの醍醐味
株式会社ユーザベース Speeda Legal Team/NewsPicks Legal Team
服部 友哉/岡田 一輝
- 組織内弁護士
- メディア
- SaaS
- 企業内弁護士
- スタートアップ
- 企業法務
-
- トップに訊く
真のグローバルトップファームを目指す東京国際法律事務所
東京国際法律事務所 代表弁護士
山田 広毅
- パートナー・代表
- 留学
- LL.M.
- シンガポール
- 紛争解決
- M&A
- グローバル
- 企業法務
-
- トップに訊く
「法務はガードレールのような存在」ビジネスのスピードとリスクコントロールを両立させるソースネクスト
ソースネクスト株式会社/ポケトーク株式会社 CLO/管理ディビジョン 法務チーム マネージャー
櫻田 晋太郎様/田中 一樹様
- リスクマネジメント
- コンプライアンス
- 知財・特許
- 企業内弁護士
- 企業法務
-
- トップに訊く
「人」が創るミツウロコ法務の変革 100年企業に息づくベンチャースピリット
株式会社ミツウロコグループホールディングス 上席執行役員 兼 ジェネラルカウンセル
大竹 宏枝
- コンプライアンス
- 大手企業
- 企業内弁護士
- 企業法務



