キャリア羅針盤
四大パートナー、ジェネラル・カウンセルを経て、ARX法律事務所で目指すもの
ARX法律事務所
弁護士
本間 隆浩
法律事務所と企業の法務部門を行き来するキャリアは、米国では珍しくありません。一方、日本では企業内弁護士の数が増えてきたとはいえ、事務所と企業を往復する弁護士はまだ多くないのが現状です。両方の立場を経験することは、弁護士のキャリアにどのような意味をもたらすのでしょうか。
今回お話を伺ったのは、ARX法律事務所の本間隆浩弁護士です。森・濱田松本法律事務所で14年間コーポレート・M&Aを中心に執務し、パートナーを務めたのち、2020年にインハウスへ転身。株式会社LIXILを経て、ルネサス エレクトロニクス株式会社でジェネラル・カウンセルを約4年半務め、2026年6月末に退任。現在は2025年5月設立のARX法律事務所で、M&A等の法律業務に加え、法務部門の組織・運営の強化を支援するコンサルティングに取り組んでいます。
本記事では、再び法律事務所を選んだ背景やARX法律事務所の特色、事務所と企業を往復するキャリアの意義、AI時代に法律事務所に求められる価値、そしてインハウスを考える若手弁護士へのアドバイスまで、幅広く語っていただきました。
※本記事の内容・所属・役職等は取材当時のものです。
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四大パートナーからGC、そしてARX法律事務所へ
まずは自己紹介をお願いします。
本間 ARX法律事務所の本間です。60期(旧司法試験)で、東京大学法学部を卒業後、森・濱田松本法律事務所に入所し、14年間、コーポレート・M&Aを中心に執務しました。
途中、コロンビア大学への留学とWeil, Gotshal & Mangesのニューヨークオフィスでの研修を経て、上海にも3年間駐在し、最後はコーポレート・M&A・中国法務のパートナーを務めました。
2020年にインハウスに転身し、まず株式会社LIXILでM&A等を担当するチームに入りました。その後、2022年からルネサス エレクトロニクス株式会社でジェネラル・カウンセル、グローバルの法務責任者として、2026年6月末まで約4年半務めました。
現在はARX法律事務所で弁護士として執務しています。法律事務所と企業双方の経験を生かし、M&Aなどの法律業務に加えて、法務部門の組織・運営の強化を支援するコンサルティングにも取り組んでいます。

ARX法律事務所 本間 隆浩 弁護士
「法務が違いを作り出せる」移籍の3つの理由
四大法律事務所のパートナーからインハウスに転じ、大手グローバル企業でジェネラル・カウンセルを務めたのち、再び法律事務所を選ばれました。どのような背景やきっかけがあったのでしょうか。
本間 森・濱田松本法律事務所では、海外での経験を含めて実務の基礎から学ばせていただきました。その後のインハウスでの6年間は、学ぶこと、考えさせられることの多い、非常に貴重な経験でした。
法律事務所で執務していたころは、外部アドバイザーとして案件の法的側面を中心に支援する形だったのですが、インハウスとして中に入ったことで、その裏側にあるビジネスや企業の課題、意思決定のプロセスまで含めて、立体的に企業法務が見えるようになった。これは非常に大きな経験でした。
特にルネサス エレクトロニクス株式会社での経験は、私にとってとても大きなものでした。グローバルの法務機能・チームを統括する立場で、非常に充実していましたし、やりがいのあるポジションでした。企業の活動において法務がいかに重要か、さらに言えば法務がいかに「違い」を作り出せるかを、実体験をもとに具体的に感じられたことは大きかったですね。これが1点目です。
一方で、企業の法務部門には、組織的なものやオペレーション的なものも含めて、さまざまな課題やチャレンジがあります。ただ、法律事務所には個別案件の法的な側面に関する助言を依頼するのが通常なので、組織やオペレーション、戦略まで一体として相談できる機会は、なかなかありませんでした。法務責任者の立場で、そういった悩みについて、誰かの助言や知見を聞けたらと感じる場面が何度もありました。これが2点目です。
3点目はタイミングです。最後の後押しになったのは個人的な事情で、子どもの年齢を考えたときに、時間の使い方をもう少し自分でコントロールできる働き方にしたいと感じていました。
法務責任者は、会社全体で起こっている法的な問題やリスクについて、最終的に責任を負う立場です。会社イコール自分という感覚が常にあり、24時間365日ずっとオンになっているような緊張感と責任があるポジションだと思います。会社が全速力で動いている中で、責任者だけがそれまでの働き方を変えるのはなかなか難しい。法律事務所であれば、案件ごとにフルコミットしつつ、全体の時間配分は自分で設計できる。そこで、会社と相談のうえで、適切な後任の方に円滑に引き継がせていただき、これまでの法律事務所と企業双方での経験を、より幅広い企業への支援に生かす道を選びました。
「徐々に学んでいった」インハウスへの転身
インハウスというキャリアの選択肢は、初期から考えていたのですか。
本間 正直なところ、初期の段階ではあまり考えていませんでした。
森・濱田松本法律事務所に入って仕事をしていく中で、企業のビジネスにはこんなに広がりがありそうだと学び、その中でインハウスも面白そうだと思うようになりました。徐々に学んでいった感じですね。
企業もたくさんある中で、どのような基準で転職先を選んだのでしょうか。
本間 複雑な基準を設けていたわけではありませんが、…
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同じ法務でも、法律事務所と企業では違いがあると思います。インハウスに入って、驚いたことや戸惑ったことはありましたか。
本間 実感したのは、法律事務所にいたときに見えていたよりもずっと、法務部員の方が事業部門をはじめ社内のさまざまな部門の方とコミュニケーションを取り、いろいろと整理して物事を進めていらっしゃるということです。法律事務所に来るものは、既にかなり整理されたものなのだと、改めてすごく実感しました。
法律事務所でも、クライアントの皆さんに説明するには経験や話し方、技術が必要だったと思います。ただ、その比ではなく、法律が専門でない経営陣や事業部門にも、ビジネスの言葉で分かりやすく説明するというのは、すごく大変なことだと思いました。
「組織を預かっていた立場」から助言するARXの特色
ARX法律事務所の設立の背景や、事務所の特色について教えてください。
本間 背景にあるのは、法律事務所として法務部門をより幅広くサポートできるのではないか、という考えです。まさに組織的な部分や戦略的な部分、AIツールの導入・活用、契約などの業務プロセスをどうするかといったオペレーションの部分も含めてサポートできるのではないか、というところから始まっています。
ARXには、企業の法務責任者として組織を率いた経験を持つ弁護士が複数在籍しています。私のほか、今仲弁護士や武田弁護士、今回一緒に参画したGoogleの日本法人(グーグル合同会社)で法務責任者を長く務めた野口弁護士も、法務部門の責任者の経験があります。組織を預かっていた立場からの実践的なアドバイスができるのではないか、というのが1つです。
また、新しい取り組みなので法務部門へのコンサルティングばかり申し上げていますが、もちろん、法律業務の確かな土台があってこその話です。メンバーはいずれも森・濱田松本法律事務所でパートナーを含むシニアな立場で企業法務の経験を積んでいます。M&A・コーポレートをはじめ、知財、労働なども含めて、高いクオリティのサービスを提供できるメンバー構成になっています。
法律業務の確かなクオリティと、組織の責任者としての経験を生かした法務部門へのサポート。その両方を実現できる体制になっているので、これらの2つの強みを一体化して、クライアントに今までにない幅広いサービスを提供していきたいというのが今の考えです。
移籍のニュースを拝見して、正直驚きました。周囲の反応はいかがでしたか。
本間 法律業界の知り合いを中心にいろいろと連絡をしたのですが、みんな驚いていましたね。ただ、今お話ししたようなコンセプトを伝えると、「面白そうだね」と共感してくれる方が多かったです。
「実際以上に異質なものと捉えられてきた」事務所/企業でのキャリア
米国では、法律事務所と企業を行き来するキャリアはよくあると聞きます。日本では、まだ珍しいのでしょうか。
本間 最近増えているとはいえ、数としてはまだ多くないと思います。
なぜ日本ではまだ少ないのでしょうか。
本間 実感としては、ロールモデルがないことが大きいと思います。そもそも企業内弁護士の数も、最近増えてきたところです。
実際にやってみると、企業の法務部門と法律事務所には違いはありますが、そこまで大きく違うかというと疑問です。これまでの日本の実務の感覚として、両者が実際以上に異質なものとして捉えられてきた部分があるのではないかと思います。それが原因の1つなのかもしれません。
そもそもインハウスの人数が、10年前とはまったく違いますよね。
本間 そうですね。アメリカと比べると、人数はまだ違います。ルネサス時代に、アメリカの会社の法務部門とやりとりをして感じたのは、法律事務所での経験がある弁護士が数多く所属していたり、大手法律事務所の元パートナーが法務責任者を務めているなど、強力な法務部門が多いということです。日本企業がこれから世界で戦っていくには、法務がそうした豊富な経験と専門性を持つ海外企業の法務部門とも対等に渡り合い、ビジネスを支えていく必要があります。
その意味で、日本でも法律事務所と企業の法務部門が連携して企業法務のコミュニティとして活性化していくことが、日本企業のグローバルなビジネス展開をサポートするうえでもすごく大事なのではないかと感じています。
法律事務所側にも、企業での法務経験を持つ弁護士を採用したいというニーズが出てくるかもしれませんね。
本間 そういうこともあると思います。アメリカの大手でも、インハウス経験のある弁護士がパートナーを務めている例はありますので。

「法律事務所と企業の法務部門が、企業法務のコミュニティとして活性化していくことが、日本企業のグローバルな競争力にもつながる」と語る本間弁護士
弁護士として両方を経験していることで、キャリア上どのようなメリットがありますか。
本間 両方の経験に、それぞれメリットがあると思っています…
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「戦略的なアドバイス」AI時代の法律事務所の価値
AIの進化もあり、企業の法務部門では内製化の動きも一定あると思います。外部の法律事務所には、どのようなサービスがより求められるようになるでしょうか。
本間 定型的な業務や技術的な業務は、内製化する方向になると思います。一方で、高度な分析が必要なものや、日常的に触れないような専門的な知識が必要な分野は、引き続き法律事務所に頼らざるを得ないし、頼る価値があるところです。そこの重要性は高まってくると思います。
また、法律事務所でもAIの活用を進めていますし、クライアントもそれを求めると思います。AIを活用して、品質を維持・向上させながら、より効率的にサービスを提供してください、ということですね。そうなると法律事務所の価値は、工数的なところでは測れなくなります。これまで以上に、戦略的、戦術的な観点を含めて助言できる法律事務所が求められてくるのではないでしょうか。
それから、直近まで企業にいた立場から言うと、内製化を実際に行うのはなかなか難しいんです。こういうやり方がありますよという情報はニュースなどにいろいろ出ていますが、実際にどうやるかとなると、ツールやテクノロジーの知識も、より具体的なユースケースの知識も必要です。法務部門の現場では、どの業務をどうやって内製化するのか、まだ手探りな部分が多いと思います。そこもサポートできると法律事務所として価値があるのではないか。それができるのが、私たちの強みだと考えています。
「適切なバランス感覚」どこでも求められる力
法律事務所と企業、共通して必要になってくる要素はありますか。
本間 ずっと思っていたのは、実務をやるうえではバランス感覚がすごく大事だということです。適切なリスク感覚と、適切なビジネス感覚。両方が必要だと思っています。
法務部門でも法律事務所でも、求められるのは法律の知識の側面なので、そこが重要なのは間違いありません。ただ、究極的な目的はビジネスです。もちろん、法令を遵守することは必須の大前提ですが、法務もビジネスの目的を達成するための要素の1つになります。そこをきちんと理解したうえで、実践的で、柔軟に議論できる感覚が、実務家としては重要だと思います。
それに似た話になりますが、「ソリューション思考」も、よく言われる話ではあるものの、とても重要です。アプローチとして、帰納的なアプローチと演繹的なアプローチがあると思っています。帰納的なアプローチとは、法律的にできるものを積み重ねる、契約交渉なら譲歩できるところを積み重ねる、という進め方です。
ただ実際は、演繹的なアプローチが重要です。「ビジネスのゴールから逆算する」ということです。ビジネス上これが正しいはずだ、感覚的にこれでないとおかしい、というところから、では法律上どうやればできるのか、契約ならどうすればここで合意できるのか、と考える。そうすると、同じ法律、同じ条文を相手にしていても、最終的な到達点がまったく違ってくると感じています。
企業の法務部門に求められる考え方と、法律事務所に求められる役割には違いもあると思いますが、企業法務をやる以上、根底では共通してくる。やればやるほど、そう感じます。
バランス感覚は、経験を積むことで養われていくものなのでしょうか。
本間 そうですね。実体験で自分で悩んで、悩んだ結果どうなったのか。失敗からの教訓も含めて、その積み重ねからしか学べない部分は大きいと思います。
「目的を明確に」インハウスを考える若手へ
最近は、ファーストキャリアで法律事務所を選び、次のキャリアでインハウスを考えている方がとても多いです。インハウスを考えつつ悩んでいる若手弁護士から相談を受けたら、どのような声をかけますか。
本間 インハウスの業務はすごくやりがいがありますし、学ぶことも得るものも大きいので、止めることはないと思いますけれども、…
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キャリアチェンジでは、待遇・報酬とやりがいのバランスに悩む方も多いと思います。本間先生ご自身は、これまでのキャリアチェンジでいかがでしたか。
本間 個人的には、どちらかというとやりがいや成長を重視することが多かったと思います。それに付随して、その目的を達成できるのかという意味で待遇面も考慮はしましたが、重視したのはやりがいです。
幸い、条件面で迷うような場面はなく、やりがいを重視して選択することができてきたと思います。
その2つの間で悩む方に、ご経験から助言できることはありますか。
本間 仕事は打ち込むものなので、やりがいや、自分のキャリア、目的に合っているかが根本的には重要だと思います。ただ、今思えば、タイトルやポジション、年俸といったところも含めて総合的に考えることが重要だと思っています。
タイトルやポジションは、役割や責任、権限に関係してきます。企業は組織なので、自分の能力や経験を発揮したいと思っても、まずはその役割の範囲でということになる。組織の中では、そこが結構重要になってきます。
待遇についても、ずっとその会社にいるのであればいいのですが、将来転職するときには、どうしても最初に選んだ年収が基準になる傾向はあります。
やりがいは必須です。それがないと頑張れないので。ただ、やりがいがあるから他を完全に無視していいかというと、そうではないと思います。特にタイトルは、弁護士はあまり気にしないことが多いと思いますが、実際に組織の中で働いてみて結構重要だったと感じました。自分の能力を発揮したいときに、タイトルが効いてくる部分がある。そこはインハウスを経験した人の多くが感じる点ではないかと思います。
「意外と対応できる」上海駐在で得た実感
20代、30代のころに、やっておいてよかったと思う経験はありますか。
本間 私のキャリアの中で大きかったのは、上海駐在です。それまでどちらかというと国内のM&Aを中心にやっていたのですが、留学から帰るタイミングで上海に駐在させていただきました。
日本法、それも会社法を中心とした分野しかやっていなかった自分が、中国語も分からず、中国の法律もほとんど分からない中で行かせていただいたので、周りの人も驚きましたし、私も最初は途方に暮れていました。それでも、1年、2年、3年とやっていくうちに身についてきて、意外と対応できるものだと感じました。
企業法務、特に法律事務所にいると、自分の専門はこれだからこれしかできない、という考え方になりがちで、私もそうなっていました。もちろん、リサーチして、分析して、ドラフトする、といったベースの部分がきちんと鍛えられていることが大前提だと思いますが、実際にやってみると、意外と対応できる。新しい分野にチャレンジするときに、必要以上に壁を作る必要はないということを、身をもって学ばせていただいたのはすごく大きな経験でした。
あとは、インハウスに転身したときも、…

「新しい分野にチャレンジするときに、壁を作る必要はない」。新たな分野への挑戦となった上海駐在を振り返る本間弁護士
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