法務部インサイド
キリンホールディングス企業内弁護士が語る、M&A・ガバナンス経験と成長環境
キリンホールディングス株式会社
法務部・弁護士
梶川 陽介/八嶋 章博
ビール・飲料事業で広く知られるキリンホールディングス株式会社(以下、キリン)は、近年ヘルスサイエンス領域への展開も加速させ、その事業は多岐にわたります。そうした多様な事業を法務面から支えるのが、キリン法務部です。
今回は同社を訪れ、企業内弁護士として活躍する八嶋様と梶川様にお話を伺いました。M&Aやガバナンスといった専門領域での経験、組織のカルチャー、そしてこれからの法務パーソンに求められるものとは。
お二人の言葉から、キリン法務部の魅力と企業内弁護士としてのキャリアについて深掘りします。
本記事では伺ったお話から一部を抜粋して紹介いたしました。インタビューの全編を収めた完全版動画は弊社メールマガジンへのご登録者限定でご提供しております。
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5つのチームに分かれるキリン法務

キリンホールディングス株式会社 法務部/弁護士 梶川 陽介 様(左)・八嶋 章博 様(右)
まずはそれぞれ自己紹介をお願いします。
八嶋 キリンホールディングス法務部の八嶋と申します。ロースクールを卒業した後、すぐに「FiNC Technologies」というヘルステックのスタートアップに入社いたしました。
働きながら司法試験を勉強し、合格後に司法修習(74期)を経て、キリンホールディングスに入社しました。本日はよろしくお願いします。
梶川 キリンホールディングス法務部の梶川と申します。司法修習期は70期となります。
最初の1年ほどは一般の民事系事務所で弁護士として働き、その後インハウスに転身して自動車部品メーカーに3年半ほど勤めました。2022年9月にキリンホールディングスに入社し、現在に至ります。
キリンはビールや飲料だけでなくヘルスサイエンスなども手がけていますが、法務はビジネスに応じてチームが分かれているのでしょうか。
八嶋 はい、弊社の法務部は事業部ごとに分かれており、大きく5つのチームがあります。
国内外のビール・スピリッツ事業を担当する「ビジネス法務第一チーム」。
ソフトドリンクやワインを担当する「ビジネス法務第二チーム」。
ガバナンスや株主総会、株式などを担当する「コーポレート法務第一チーム」。
ヘルスサイエンスを担当する「コーポレート法務第二チーム」。
そして商標をメインに担当する「商標チーム」です。
体制としてはホールディングスに一極集中している形ですね。
八嶋様は現在どのチームにいらっしゃいますか。
八嶋 私は現在、ビジネス法務第一チームでビールやスピリッツ事業を担当しています。入社当時はビジネス法務第二チームでソフトドリンクを3年間担当していましたが、昨年現在のチームに異動し、今年で入社5年目になりました。本人の希望次第で色々な事業に携わることができるのは魅力だと思いますね。
梶川様はいかがですか。
梶川 私はコーポレート法務第一チームで、入社以来約4年間、ガバナンスや株式をメインに扱っています。
前職でもそういった業務をメインにされていたのですか。
梶川 いえ、前職では書類チェックなどはしていましたが、ガバナンスに関してはほぼ経験がありませんでした。そのため、最初の3ヶ月は業務内容と事業の両方の理解が不足しており、キャッチアップが大変でしたね。
しかし、ホールディングスの株式やガバナンスというのは会社全体を見渡せる業務でもありますので、最初は多少苦労しましたが、やってみるとやはり会社全体の動きが見えてきます。そういった意味では非常に良い経験をさせてもらっていると考えています。
チーム横断の連携が生む、刺激的な組織風土
法務部全体では何名くらいいらっしゃるのでしょうか。
梶川 全体で33名です。私のチームはリーダーを含めて4名で構成されています。チームごとに抱える事業会社の数が違うため、人数には多少の傾斜がありますね。
他の事業会社を経験されたお二人から見て、キリンの法務の特色はどこにあると感じますか。
梶川 ホールディングスに全事業の法務が集まっているため、よく見ると同じ法務部の中でも全然違う仕事をしている人がいます。ですが、特にチームの中に閉じこもることもなく、チームを横断して普段から話もしますので、非常に刺激を受けやすい組織だと考えています。
大企業の法務は縦割りで横のコミュニケーションが少ないイメージがありますが、そういうことはないんですね。
梶川 全くありませんね。別のチームから「これってどうなっているんだっけ」といった質問が飛んでくることもよくありますので、お互いやり取りすることが日常的に発生しています。
八嶋 担当が事業ごとにチームが分かれているのとは別に、チーム横断で対応する業務を担当するチームもあるんです。
例えばDXを担当するチーム、人材育成を担当するチーム、グローバル業務を担当するチームなど、機能ごとに横で対応するチームがそれぞれあります。
私はDXを担当するチームに所属していて、梶川さんは人材育成チームに所属しています。横の繋がりや連携はすごく大事だなと感じますね。
スタートアップにいらした八嶋さんから見て、カルチャー面でのギャップはありましたか。
八嶋 「キリンのような会社は、昔ながらの日系企業で意思決定も遅い」というイメージがあるかもしれません。でも、意外と風通しが良くて、人当たりも良くて、スピード感もあります。そこは全くギャップを感じなかったですね。
服装も結構皆さん自由ですし、髪の毛が金髪の方もいますし、梶川さんもお髭が生えていますし、結構自由な雰囲気です。意外でしたし、すごく馴染みやすかったですね。
主体性と支え合いの中で得た成長の手応え

キリン法務部では主体的な姿勢が求められるが、互いにフォローしあう環境でもある。
業務の中で成長を実感したタイミングはいつでしょうか。八嶋さんからいかがでしょう。
八嶋 私は入社3年目の頃に携わったM&Aプロジェクトが、一番成長を感じた時期でしたね。若いうちからでも、やる気と能力があれば、そういった案件にも積極的にチャレンジできる環境です。
梶川さんはいかがですか。
梶川 ガバナンスを担当している者としての一大イベントは、やはり株主総会です。2年目、3年目になってくると主担当者として、自分が動かないと進まないという役回りになります。
それをやり遂げて終わったときの達成感と言いますか、安心感と言いますか、そういったものを得られたときに、成長を実感しましたね。
逆にしんどかった、大変だったことはありますか。
梶川 私もM&Aの法務担当として関わらせてもらったことがあるのですが、最初の1件目ということもあって、勝手が分からず大変でしたね。
どういったスケジュールで進んでいって、どういった業務があるのかが分からない中で、法務として関与する以上は役割を果たす必要があります。手探り状態で、考えながら悩みながらやっていたという記憶がありますね。
未経験で初めてやることを、どうやって乗り越えていったんですか。
梶川 これは部の雰囲気にも関わってくるところなのですが、聞けば教えてくれる方がたくさんいらっしゃいます。
もちろん自分で情報に当たるのは前提ですが、その上でちゃんと意見を聞けば、しっかり返してくださる方々がたくさんいらっしゃいます。
そういう中で手助けをいただきながら、確信を持って進められたという経験があります。「自分で考えてやらないとダメだ」と突き放してくる人はいませんね。
やはり主体的にやっていこうという姿勢は大事ですが、その上で周りがしっかり助けてくれる環境です。怖さもあり、楽しさもあり、というところでしたね。
八嶋さんはいかがですか。
八嶋 成長を実感したのもM&Aですが、すごく課題を感じて挫折したのもM&Aでした。
直近で携わった案件で、アメリカにあるバーボンウイスキー会社を売却するという大型のクロスボーダーM&Aがありまして、私自身、初めてクロスボーダー案件に携わる機会となりました。
当然、英語のミーティングですし、ドキュメントも全部英語、交渉も全部英語です。「ずっと英語の案件をやりたい」と上司にも言って、勉強も続けてきてアサインしていただいたのですが。TOEICのスコアもそれなりに取って、ちょっとは自信があったんです(笑)。
でも実務になると全く歯が立たない。
ニューヨークに出張に行き交渉の場に同席する機会もあったのですが、ものすごいスピードで交渉が行われ、ドキュメントもどんどんアップデートされていく。
それについていくだけで本当にいっぱいいっぱいで、今まで自分がM&Aで積んできた経験が全く役に立たないなと感じました。
それは衝撃ですよね。早いうちにこういう経験ができて良かった面もあるのかもしれませんが。
八嶋 挫折ですね。そういうチャンスがあるというのは本当に運が良かったなと思います。法務からは私とリーダー、チームリーダーの3名で対応しました。
チームリーダーはマネジメントの役割なので、実際に手を動かすのは私と直属のリーダーです。マンパワーも本当に足りなくて、朝起きたら英語のメールがすごく溜まっていて、それをキャッチアップしていくだけでも大変でした。
6ヶ月ちょっとの案件でしたが、最初と最後で全然違いますね。スピード感もそうですし、事業や案件への解像度が大きく変わりました。
JILAアワード受賞の反響
八嶋さんは昨年度、JILAアワードのインハウス賞総合賞を受賞されましたね。おめでとうございます。社内外での反響はいかがでしたか。
八嶋 ありがとうございます。自分でも一番びっくりしています。受賞式の翌日に、先ほど申し上げた案件でニューヨーク出張があったんです。
現地の方々からも「ニュースを見たよ」と色々お声がけいただきましたし、ネイティブの方からも「He is the Japnese best lawyer.」みたいにいじられたりもしました(笑)。
反響は本当に大きかったですね。一緒に仕事している事業部の方も、プライベートの友達も、社内外問わずすごくお声がけいただきました。
どういう点が評価されて受賞されたと、ご自身ではお考えになっていますか。
八嶋 一つ考えられるのは「オリジナリティ」かなと思っています。これは個人的な感想ですが、「大きなM&Aをやりました」「大きな訴訟をやりました」ということではなく、自分が取り組んだ案件の独創性のようなところが評価されたのかなと考えています。
キリン法務部の「Go to Gemba」カルチャー
組織体制以外で、もう少しソフトの面、どんな雰囲気なのかについて伺いたいです。キリン法務組織のカルチャーで「ここが特色だよね」と思うポイントはありますか。
八嶋 自由闊達ですし、風通しが良いというのはすごく感じます。あとは皆さんお酒が強いですね(笑)。
そうなんですね。
八嶋 ただ、「お酒が弱いとキリンに入れない」ということでは決してなくて、結果的に商品が好きな方が入ってくるので、強い人が多いということになるのだと思います。商品や会社、プロダクトが好きな人が多いですね。
例えば新商品が出たら、皆で飲んだりすることもあるんですか。
八嶋 ありますね。飲み会に行くときも、必ず弊社の取り扱い銘柄があるお店に行くことになりますし。
そうなんですね。お二人にとってキリン法務の「ここが一番好きだ」というところはどんなところでしょうか。梶川さん、いかがですか。
梶川 法務に限らずキリンという会社に関係する話かもしれませんが、やはり「いい人が多い」というのはありますね。
そういった意味で非常に働きやすいですし、先ほどから申し上げているとおり風通しも良いです。働きやすく、成長しやすい環境も整っているところが、非常にいいところだと考えています。
八嶋さんはいかがですか。
八嶋 仕事の内容という意味では、本当にいろんな事業があるので幅広く仕事ができる、というのが一つです。あとは、法務部というとずっと机の上でパソコンと向き合っているイメージがあるかもしれませんが、弊社の場合は「Go to Gemba」を合言葉にしています。
現場に行って学ぼう、事業部との関係性も含めて築いていこう、ということで、私自身も実際に工場に行ってヘルメットを被って見学したりもします。そうすると圧倒的に案件や事業への解像度が上がるんですよね。契約書の読み方も全然変わってきます。
そういうことを積極的にやっていこうという文化があるのは、すごく特徴的ですし面白いかなと思いますね。
テキストで見るビジネス構造図やビジネスモデルだけではなかなか腹落ちしなくても、現場に行くと「ああ」となることはありますよね。
八嶋 はい。しかも法務が現場に行くと言っても、事業部の方々は構えずに「ぜひ来てください」というスタンスで歓迎してくれる関係性があります。
場合によっては「監視されに来るのかな」「チェックされるのかな」と構えられそうですけどね。
八嶋 むしろ「研修に行きます」と理由をつけて、海外も国内も含めて色々行きますので、結構法務の席から離れていくことが多いかもしれません。
これからの法務パーソンのキャリアに必要なもの

社内外のインハウスローヤー同士、情報交換をする機会も増えているという。
ここからは、せっかく30代インハウスのお二人にお話を伺えるので、法務のキャリアやこれからについて少し聞かせてください。同年代のインハウスや弁護士の方、他社の方と、飲みに行ったり交流する機会は結構あるものですか。
八嶋 ありますね。
梶川 JILAという組織自体もそういった場ですし、最近では会社同士で「DXについて意見交換しましょう」といった場が設定されることも多いです。そういうときに関係を持って飲みに行くといったことは多いですね。
最近、他社の法務の方とお話される中で、どういう話題が上がることが多いですか。
梶川 やはりDXの活用をどうしているか、というお話ですね。これは正直どの会社さんもそうだと思うのですが、特に法務は生成AIなどを使いやすい業務が多いと思われている分野でもありますので、それを今後どう使っていくか。
さらに、法務部はナレッジの蓄積というところがどうしても弱く、属人的になりがちな業務分野でもありますので、そこを今後どうしていくかという点については、各社問題意識を持っていらっしゃるという印象です。
共通の課題感をお持ちだということですね。
梶川 そうですね。組織として継続性を持って運営していく上では、どうしても避けて通れない論点ですので、各社とも苦労されている雰囲気はあります。
そうした時代において、これからキャリアアップを目指していく法務パーソンは、どういう経験を積んだ方がいいか、どういうスキルを身につけた方がいいかについてはいかがですか。
梶川 私もまだ悩んでいる立場ですので、なかなかはっきりとしたことを申し上げられませんが、一つのことに限らず、いろんなところをまず経験してみることだと思います。
弊社の場合で言うと、私は今ガバナンスを担当させてもらっていますが、ガバナンスに留まることなく、ビールはもちろん飲料やヘルスサイエンスもそうですし、そういったいろんな業務を経験した上で、それらを統合した上で、今後自分がどうしていくべきかを、積極的に自分で考えて選んでいかないといけない時代になっているのだろうなと考えています。
自分で考えて経験を取りに行かないと、時代に取り残されてしまうという感覚はありますか。
梶川 そうですね――。
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