キャリア羅針盤
事務所からインハウス、執行役員を経て独立。外資系出身弁護士が語るキャリアの分岐点
法律事務所Verse
代表弁護士
金子 晋輔
法律事務所でキャリアをスタートした弁護士にとって、数年の経験を積んだ後、そのまま事務所でパートナーを目指すのか、インハウスに移るのか、独立するのかは大きな分岐点です。明確なキャリアプランを持てないまま、その時を迎える方も少なくありません。
法律事務所Verseの代表弁護士、金子晋輔氏は、外資系法律事務所で9年間経験を積んだ後、アクセンチュアのインハウスを経て、レシピ動画サービス「クラシル」を運営するスタートアップでコーポレート担当執行役員を務め、2024年1月に独立しました。現在はテクノロジー領域を専門に、スタートアップや外資系企業の支援や、AI活用のコンサルティングを手がけています。
本記事では、キャリアの節目ごとに金子弁護士が何を考え、どう判断してきたのか、そしてその判断の起点にあったという「憧れ」について伺いました。
※本記事の内容・所属・役職等は取材当時のものです。
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法律事務所とAI活用支援、2つの軸で活動する現在
まずは自己紹介をお願いします。
金子 金子晋輔と申します。現在は法律事務所Verseという1人事務所を運営しています。62期で、今年で17年目になります。(※2026年9月時点)
外資系法律事務所からキャリアをスタートして、テクノロジー領域を専門にしてきました。最近はAIに皆さん非常に関心がおありということで、法律の話だけではなく、AIの使い方や社内での導入の仕方といったご相談をいただくことが増えています。
法律事務所Verseを設立されたのはいつですか。
金子 2024年1月です。
一般的な法律事務所のような案件も扱っているのでしょうか。
金子 半々です。企業法務のご相談はもちろんありますが、一般民事の領域は対応していません。
そうすると、どのような案件がメインになるのでしょうか。
金子 1つはスタートアップの支援です。もう1つは、私が外資系の法律事務所出身なので、外資系企業が日本でビジネスを展開する時のご相談ですね。
弁護士としての企業法務の案件が半分ほどで、残りの半分がAI活用や導入に関するご相談というイメージでしょうか。
金子 そういうイメージです。
AI活用は、企業の法務部がクライアントになり、そこにAIをどう入れていくかがメインなのでしょうか。
金子 法務部に限りません。もちろん入り口として法務部からご相談をいただくことはありますし、自分も勝手がわかっているのでご相談に乗りやすい部分ではあります。
ただ、実際にコンサルティングという形になると、スタートアップでの全社導入をどう進めていくかというテーマになります。多くご相談いただくものと、実際に自分のビジネスとして手がけるものは、必ずしも一緒ではないという状況です。

法律事務所Verse 代表弁護士 金子晋輔 様(撮影場所:GVA TECH株式会社)
外資系事務所の9年間、英語の仕事を軸に
最初に入られたモリソン・フォースター法律事務所(旧伊藤 見富法律事務所)では、同期は何人ほどいらっしゃったのですか。
金子 当時、同期は私を含めて5人でした。
入所後は、主にどのような業務を担当されていたのですか。
金子 最初は1年目のアソシエイトなので、ジェネラルコーポレートと呼ばれる一般企業法務、不動産、金融などを一通り経験する形でした。パートナーからアソシエイトがお仕事をいただいて進めるという点は、どの事務所も似ていると思います。
さまざまな案件に携わられたのですね。
金子 いろいろな案件に携わる機会はありましたが、外資系ということもあって、日本企業の海外進出や、すでにグローバルビジネスを展開している企業の案件、逆に海外企業の日本での案件が、比率としては多かったですね。
英語を使う案件も多かったのでしょうか。
金子 多いですね。私自身、英語の仕事をやりたいという思いがすごく強かったので、ほとんどの案件に何らかの形で英語が関わるようにしていました。
入所前の期待とはぶれがなかったのですね。
金子 そこはぶれがなかったです。その通りでした。
在籍は何年ほどでしたか。
金子 9年です。
外資系の法律事務所は大企業がクライアントのメインというイメージがありますが、スタートアップもクライアントにいらっしゃったのですか。
金子 そうですね。今でいうディープテックや大学発ベンチャーもカバーしていました。私が入った当時は伊藤 見富法律事務所という名前で、モリソン・フォースターと一緒にやっている事務所でした。モリソン・フォースターはサンフランシスコに本社があり、シリコンバレーのパロアルトなどにもオフィスがあります。そこで今大きくなっている会社は、軒並みスタートアップです。
ですから、大学発ベンチャーやソフトウェア領域のスタートアップと大企業は、別カテゴリーというよりは、「大きくなったスタートアップ」と「今大きくなろうとしているスタートアップ」として見ている部分があるのかなという気はします。
もちろん、法律事務所のプラクティスとしては違います。病院でいえば、大人が来る病院と小児科のようなものです。ただカルチャーは、大きくいうと西海岸カルチャーで、新しいことに挑戦して自分の思った夢を形にしていく、それを支援するというスタンスです。東京もそういうスタンスで仕事をしている方が多かったので、私の中ではあまり分かれていなかったと思います。
「ここじゃない」9年目に選んだインハウス
9年ほど経験を積むと、事務所でパートナーを目指すのか、独立するのか、他に移るのか、さまざまな選択肢が出てくるかと思います。金子先生はインハウスに移られましたが、どのような経緯だったのでしょうか。
金子 法律事務所にいた9年間、私はずっと「どのタイミングで次の道を選ぶのかな」と思っていたんです。
周りは優秀だし、どうしようかと…
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アクセンチュアで触れた「クライアント企業の夢」
そこでアクセンチュア株式会社に出会い、入社されたのですね。どのような点に魅力を感じましたか。
金子 とにかく、いろいろなクライアント企業の仕事をしている会社だということです。私の最初の動機が「会社のことを知りたい」だったので、アクセンチュアという会社で働きながら、アクセンチュア以外の会社にも関われる。案件という形での関わりなので、その会社の本当に一部ですけれども。
コンサルティング会社は、お客様と一緒にお客様の未来をつくっていくというスタンスで仕事をしている会社です。ですから、クライアント企業の夢に触れることができるのは、すごくいいところなんですよね。
こんな夢を持った会社が日本にいっぱいあって、その夢のご相談が毎日大量に来ている、という状況なんです。それがコンサルティングになる時もあるし、システム開発になる時もあるし、デザインの仕事もあるし、合弁会社をつくるケースも、大規模なアウトソーシングになることもあります。そうした表面的なサービス取引の向こう側に、お客様の未来や、お客様のお客様を含めた世界が、法務の立場でも見えてくるんですよね。それがすごく魅力でした。
同僚と話していて覚えているのが、「アクセンチュアで法務の仕事をしてしばらくすると、新聞を見るのが楽しくなるよね」という話です。それまでとは全然違う感覚で、日経新聞を開いてアクセンチュアの取引先の名前がいっぱい載っているとうれしい。本当に素直にうれしくて、「あ、新商品が出てる」と。自分が営業の方と一緒にお話ししたわけではなくても、やっぱりうれしいなと。
大企業の法務では、どのような業務を中心に担当されていたのですか。
金子 私がいた2019年から2020年の時期の話でいうと、大きくは契約周りの話とコンプライアンスの話に分かれていて、私は契約チームにいました。契約チームも所帯が大きいので、いくつかの軸でチームの役割が分かれています。1人で何役もやっているケースが多いのですが。
業界ごとにお客様がいらっしゃって、さまざまな取引がありますが、ある程度類型化できるんです。そうすると、類型化した学びを法務部の中でシェアするナレッジシェアの仕事もあります。1人1人の仕事でいうと、私の場合は大型の複雑な案件に特化して担当することが多かったですね。
ただ、法務部が抱えるすべての仕事を1回自分でやってみないと、仕事のマネジメントやナレッジシェアは分からないので、可能な限りすべてに携わるようにしていました。
法律事務所で9年過ごした後、初めて会社の中に入って、勝手が違うと感じることはありましたか。
金子 (組織の人数も、1つの案件に関わる人数もですが、)人が多い。
しかもグローバル企業なので、本当に多いんですよ。特に大型の複雑な案件だと、向かい側も多いし、こちらも多い。
法律事務所で仕事をしている時は、大型訴訟でもパートナーと二人で進めているケースもあり、依頼者側の担当者とやり取りしているのは数人というケースがあります。もちろん向こう側には大きな会社がありますが。イメージとしては、ファミレスの対面席くらいのメンバーでやれていたのが、会社に入ると運動会のようになるんです。(笑)こちらのチームも運動会、あちらのチームも運動会という景色になるので、誰と話せばいいのか、どの順番で話せばいいのか。しかも、案件が変わるたびに新しい運動会が始まります。
経験を積むことで、ある程度慣れていくものですか。
金子 慣れます。
どれくらいで慣れましたか。
金子 程度によると思います。私自身、アクセンチュアにいたのは2年ほどでしたが、その前に法律事務所で9年やっていたおかげで、案件を担当して調整するというプロジェクト単位の仕事のイメージがついたのは3カ月くらいでした。任せていただいた案件で、交渉から案件成立までを2つ3つやってみて、他の人に説明できるようになるまでは、9カ月はかかっていないと思います。6カ月から9カ月の間くらいで他の方とナレッジシェアをして、いろいろな方に質問してお話を聞けるようになった感覚があるのは、半年を過ぎたあたりからですね。

「クライアント企業の夢に触れることができるのは、すごくいいところ」。アクセンチュアでの法務の仕事を通じて、取引の向こう側にあるお客様の未来が見えてきたと金子様は振り返る。
「会社」ではなく「事業」だった気づきと転職
「会社を知りたい」という思いで入社して2年ほど経ち、ある程度分かったという実感はありましたか。
金子 イメージは湧くようになりました。それと、より強く思ったのは、「事業側をやっている人は面白そうだな」ということです。
大型案件だと、クライアントに新しい提案を持っていく営業の方と、法務でもかなり初期のタイミングから同席させてもらって、話をしに行ったり出張に行ったりしていたのですが、面白いんですよ。これをもうちょっと知りたいなと。
会社を知りたいと思って入ったのですが、本当に知りたかったのは事業の方なのかなという気持ちが強くなった。「会社」と思っていたけれど、自分の関心は「事業」だなと。それがアクセンチュアの2年間で一番大きな変化です。
それが次のキャリアにつながっていくのですか。
金子 はい、明確に。
事業会社といってもたくさんあります。次の職場はどのように探したのですか。
金子 その時は、…
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「外野で守備をしている感覚」で広がった職域
入社後は法務の業務を担いながら、最終的には情報システムや人事・労務まで管轄するコーポレート担当執行役員に就任されています。法務以外の領域まで職域を広げたのは、意図してのことだったのでしょうか。
金子 結果的に、というのが正直なところです。ただ、最終的に自分にお鉢が回ってくる、自分がキャッチしなければならなくなるだろうということは、早いタイミングから予想していたので、準備はしていました。
外野で守備をしているのと似ている感じです。いつ来るか分からないけれど、多分飛んでくるな、と。やっぱり来たな、とボールを拾っていたら、守備範囲がすごく広がった。そんな感じです。
振り返ってみて、法務以外のこともやってよかったと感じますか。
金子 結果として、「会社を知る」ことができたことにつながっています。
原点に戻っていくわけですね。事業も会社も、特定の部門から見える景色と、いろいろな観点から見える景色は違いますよね。
金子 違いますね。特に、スタートアップといっても、当時私が入ったタイミングで150人ぐらいの会社でした。その前のアクセンチュアが当時1万5000人ぐらいですから、100分の1です。周りに転職する話をした時には、「ジャンボジェット機からセスナ機だね」と言われましたが、小さい会社だからこそ守備範囲を広くできるし、小さいからこそ会社というものが分かりやすい。これが10万人の会社だと、その守備範囲は無理だと思います。1人で何役もこなすには限界がありますから。
イメージが持ちやすくなったのは、とにかく大きいですね。
「ようやく来た」ChatGPTの登場で独立へ
法律事務所からインハウスに移り、法務の責任者としてキャリアを重ねる方は多いですが、金子先生はそこからさらに独立されました。どのようなきっかけで決断されたのでしょうか。
金子 一番大きなきっかけは、ChatGPTが出てきたことです。
最初に出てきたのはいつでしたか。
金子 2022年11月です。
その時の感情は覚えていますか。
金子 覚えています。「ようやく来た」と。
仕事とは関係なく、子どもの時に「21世紀になったらコンピューターと話せるんじゃないか」と思っていたんです。えらく長く待ったぞ、と(笑)。思っていた21世紀とはだいぶ違いますが、「21世紀がようやく来たかな」と。
ChatGPTが登場して、全世界で同時に使われるようになった時、いい歳をした大人になっていたので、「もしかしたら面白いところを見られるんじゃないか。始まりを見られるんじゃないか」と思って、「会社を辞めるか」と(笑)。
ただ、いい大人ではあるので、急には辞めませんでした。上場前で上場準備もしていたので、周りには大変な迷惑をかけつつ、後任の方々に引き継ぎをしました。
その衝撃から、会社を辞めて自分でやろう、AIにどっぷり浸かろうと決めて動き出したのですか。
金子 それしかないかな、それ以外にやりようがなかった、という感じでした。どうなるか分からないじゃないですか。どれくらい流行るかも、どれくらい世の中の景色が変わるかも分からない。不確実性しかないので、自分で全部責任を負って、それと向き合うほかない。だったら独立して1人でやる。どうにかなるかは分からないけれど、やってみて、どうにかなるまでやる、と。
どのような事業で、どう稼いでいくのか、具体的なイメージはあったのですか。
金子 ゼロです。ただ、過去の経験から1つだけ分かっていたのは、「困っている人を探して、困っている人の役に立つと、幾ばくかお金をいただける」ということです。じゃあ困っている人を探そう、と。
独立して3年ほど経ちますが、1人でやるようになってよかったと思うことはありますか。
金子 いっぱいありますよ。皆さんがおっしゃる「効率化した」とか「何かがつくれた」ということは、そこまで思わないのですが、とにかくいろいろな人と会える。
法律事務所の弁護士や企業の法務部にいた頃には会えなかった人たちにも、たくさん会えるということですね。世界が広がった感覚もありますか。
金子 めちゃくちゃ広がって、どんどん狭くなっている感じです(笑)。知り合いが増えると「世間は狭いね」という話になるじゃないですか。日々、「世間が狭くなっている」という感覚は強いです。
どこに行っても知っている人がいるとなると、安心するじゃないですか。それは大きな変化ですね。

「自分で全部責任を負って、それと向き合うほかない」。ChatGPTの登場をきっかけに、不確実性と正面から向き合うため独立を選んだ金子様。
キャリアの方向を決めてきたのは「憧れ」だった
キャリアに正解はありませんが、納得感を持って自分で決めたと思えるかどうかは大事だと思います。キャリア上の判断で、金子先生が大事にしてきたことはありますか。
金子 あまり意思決定という感じではなかったなと思います。今思い返してみると、一言でいえば多分「憧れ」なんです。
法律事務所の時も、…
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