法務部インサイド
ゲームから出版、アニメへ。IPの広がりを支えるスクウェア・エニックスの法務
株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングス/株式会社スクウェア・エニックス
グループ法務・知的財産部長/法務・知的財産部 ジェネラル・マネージャー
田口 悦宏/北村 真子
エンターテインメント企業の法務は、ゲームや出版、アニメ、グッズといったIPの多面的な展開を支えると同時に、クリエイティブと法の要請が交わる場面に立ち会う仕事です。国内外でサービスを展開する企業であれば、各国の法制度や個人情報保護への対応も欠かせません。
今回お話を伺ったのは、ドラゴンクエストやファイナルファンタジーをはじめとする世界的なヒットIPを擁する株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングス グループ法務・知的財産部長の田口悦宏様と、株式会社スクウェア・エニックス 法務・知的財産部 ジェネラル・マネージャーの北村真子様です。
国内外3拠点の組織体制から、開発チームと向き合う法務のスタンス、面接で見ているポイント、AI時代の法務のあり方、そして若手法務パーソンへのキャリアの助言まで、幅広く語っていただきました。
※本記事の内容・役職・組織体制は取材当時のものです。
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「作品への愛情が非常に強い」中途入社で感じた社風
まずは自己紹介をお願いします。
田口 田口悦宏と申します。東京大学法学部を卒業後、一橋大学のロースクールを卒業しました。その後、司法試験に合格し、修習は60期です。
その後、クリフォードチャンス法律事務所 外国法共同事業に所属し、7年ほど勤務しました。その間に、国際協力銀行と欧州三菱商事に出向しています。
その後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスに留学し、帰国後に住友商事の法務部に転職しました。住友商事では約9年勤務し、その後、2023年4月に株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングスに入社しました。

株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングス グループ法務・知的財産部長/弁護士 田口 悦宏 様
北村 北村と申します。大学卒業後、当時は情報出版事業を行っていたリクルートに入社し、5年間働いておりました。
その後、一度会社を辞めてフランスに留学し、大学院で知的財産法を学びました。帰国後に株式会社スクウェア・エニックスに入社し、今年(2026年)の10月で22年目になります。

株式会社スクウェア・エニックス 法務・知的財産部/ジェネラル・マネージャー 北村 真子 様
お二人とも中途入社とのことですが、他社を経験されたからこそ感じるスクウェア・エニックスの特色を教えてください。
北村 前職はかなりカジュアルな会社だったので、エンタメ企業はもう少しカジュアルな感じなのかなと思っていたのですが、思ったよりも大人しいというのが入社当時の印象でした。
ただ、それとは別に、作品やサービスに対するこだわりや愛情が非常に強いという印象を強く受けました。
田口様はいかがですか。
田口 前職と比較すると、意思決定のスピードが速いと感じます。担当者と意思決定をする者との距離が近く、すぐに相談に行けて、すぐに決められる。スピーディーに意思決定がされるカルチャーだと思います。
法律事務所時代に見てきたクライアントと比べても、意思決定が速い会社だという印象でしょうか。
田口 そうですね。きちんと理由付けができていれば、すぐに方向性を決めて進められる組織だと思います。
国内外3拠点で世界を見る、グループ法務の組織体制
改めて、スクウェア・エニックスの事業概要を教えてください。
田口 スクウェア・エニックス・グループにはゲームを始めとするデジタルエンタテインメント事業の他にも、出版・アミューズメント・マーチャンダイジング等、いろいろな事業部があります。
そうした事業構成を背景に、当社が持っているIPを、ゲームや書籍、アニメ、コラボレーションを通じて、多面的かつグローバルに展開できる事業体になっています。
以前に比べて、コラボレーションが非常に増えた印象があります。
田口 今年(2026年)はドラゴンクエストが40周年という記念の年ですので、会社をあげて押していこうと、さまざまな企業様とコラボレーションをさせていただいています。
いろいろな所で当社のIPを見ていただき、その先にゲームや出版など、スクウェア・エニックスの商品やIPを見ていただくきっかけになれるような展開をしているところです。

「商品やIPを見ていただくきっかけになれるような展開を」と語る田口様。同社はゲームや出版、アニメ化、コラボレーションなど、IPを多面的に展開する
法務組織はどのような形になっているのでしょうか。
田口 法務組織の拠点としては、日本、ロサンゼルス、ロンドンに大きく3拠点を持っています。
日本にはホールディングスと、事業会社があり、それぞれに法務部の組織があります。人数は、ホールディングスと事業会社を合わせて20人弱です。海外はロサンゼルスとロンドンに5名ずつ程度いて、3拠点で地域割りをして世界を見ています。(2026年8月時点)
海外拠点には、日本から駐在されている方もいらっしゃるのですか。
田口 法務組織からは日本からの駐在は出ておらず、現地の弁護士などを起用しています。
ホールディングスと事業会社では、どのような役割分担になっているのでしょうか。
田口 ホールディングスはコーポレート組織を集めた形になっており、ホールディングスの法務も基本的にはコーポレートを担うという役割分担です。通常の法律相談は、事業会社の方で担当しています。
ホールディングスの法務は何名体制ですか。
田口 私を含めて専任が3人、事業会社との兼務が3人の計6名です。(2026年8月時点)
明確な線引きがあるというより、横で一緒に仕事をしているような感じでしょうか。
田口 その通りです。場所も隣の島のようなところにいて、いつでも相談できる形になっています。
事業会社(株式会社スクウェア・エニックス)の法務組織の概要について教えてください。
北村 事業会社の法務は3つのチームに分かれています。契約や法務相談を主に見るトランザクションチーム、特許・商標・著作権の相談を受け付ける知的財産のチーム、そしてトラブルや個人情報、秘密情報の管理などを担うリスクコンプライアンスのチームです。
全体で私も含めて16名で、30代から40代が多いですね。(2026年8月時点)
中途で入社された方が多いのでしょうか。
北村 基本的には中途採用が大半で、現時点で新卒で入社したのは1名です。
個人情報ひとつとっても、20年前と今とでは求められるものが大きく変わっていると思います。この20年で法務組織は大きくなっているのでしょうか。
北村 人数は増えていないですね。私が入った当時はすごく少なくて、一時期は外部の弁護士さんに来てもらうこともありましたが、それ以降は数としてはあまり変わっていないと思います。
ただ、おっしゃる通り、特に個人情報に関しては、当社は欧州でもサービスをしていますので、欧州の規制に非常に気をつけて事業を行わなければなりません。先ほど田口が申し上げたイギリスのメンバーと当社のメンバーで、週1回ほど綿密に打ち合わせをしています。
「クレジットに名前が入る」エンタメ法務のやりがい
エンターテインメント企業の法務・知財ならではのやりがいを教えてください。
北村 当社にはゲームやコンテンツが好きで入ってきている人も多いです。例えば、1つのプロジェクトが立ち上がったときから担当していると、全てではありませんが、マスターができる段階でプロジェクトから「クレジットに名前を入れてほしい人」を聞かれることがあります。
そうすると法務として名前が入ることもあるので、ゲームをしている人はプレイした後に自分の名前が入っているのを見たり、それを見た家族から「名前入ってるね」と言われたりするのがすごく嬉しい、という話を聞くことはあります。
また、どちらかというと「これはできない」ということが多いかもしれませんが、作品作りの中で、キャラクターの名前や仕様といった部分も含めて相談を受けることになります。その中で、自分のアドバイスがゲームの中に取り込まれていくところはあると思います。
個人的にすごく感動したのは、…
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「法務もチームとして居る」創作と法の衝突に向き合う
一方で、華やかなことばかりではないと思います。大変なことやプレッシャーを感じる場面があれば教えてください。
北村 どこの法務部門も同じだと思いますが、業界が華やかかどうかに関わらず、日頃の契約業務や法務相談はルーティンなものが大半を占めています。
それと、業界の特徴かどうかは分かりませんが、例えばクリエイティブなものを「こうやって作りたい」ということと、法律の要請から「これはできない」ということの、ある種の衝突は生じることがあります。それは開発の中でもそうですし、販売していく中でも「こうやって訴求したい」というものが難しい、ということがいろいろ出てきます。
開発をしている人たちは「これがいい、これなら楽しんでもらえる」という信念のもとに話をしているので、それに対してダメだと言う場合には、単純に法律だからダメということではなく、別の方法で実現することはできないのか、こう変えればいいのではないか、ということに真剣に向き合っていかなければなりません。そういう意味では、ある種のプレッシャーはありますね。
開発側の方々と話すときに、気をつけていることはありますか。
北村 外からそう見えているかは分かりませんが、個人的に気をつけているのは、法務が上から言うとか、できていないから叱るといった話ではないということです。
あくまでも法務は法律の専門家だからチームとして居るわけで、開発は開発として居る。「我々はここの部分から貢献します、なので言わせてもらいます」という態度でいることが、意外と大事かもしれないと思っています。
ダメと言うのではなく、リスクを管理して良いものを作るために貢献したい、という意思表示ですね。
北村 そうですね。それをするチームが我々だから、法務はそこに意見を言う。開発は開発でやりたいことがあるから、開発の専門家として意見を言う。実現できるのか、もしかしたら実現できないかもしれないけれど、といったことを話し合っていく形だと思っています。

「法務は法律の専門家だからチームとして居る」と語る北村様。開発と同じチームの一員として、別の方法での実現も含めて真剣に向き合う
「温かい雰囲気の株主総会」HD法務の特色と海外対応
ホールディングスの観点で、スクウェア・エニックスならではの法務の特色があれば教えてください。
田口 当社はIPを持っていることもあり、株主総会に来てくださる株主様の多くが当社のファンの方です。そのため、株主総会がかなり温かい雰囲気なのは、IPを持ち、熱いファンの方々に支えていただいている会社ならではだと非常に感じます。
例えば、…
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「問題の本質を考える」求める人物像と面接の視点
中途入社の方が多いとのことですが、どのような方がフィットしやすいと思われますか。
田口 物怖じせず、他部署の方を含めていろいろな方とコミュニケーションを取れる方が、うまくフィットしていくと思います。商事法務の仕事は部署内で完結するものもありますが、他部署との連携が多いので、コミュニケーションが取れる方は非常にスムーズに仕事を進められると思います。
受け身ではなく、プロアクティブに自分から動いていくことが大事なのですね。北村様はいかがですか。
北村 そう思います。例えばヒアリングをする場合でも、聞いたことだけを持ち帰って組み立てるのではなく、「こういう点はどうなのか」「こういう部門にも聞かなければいけないのではないか」と自分の中で応用して、問題の本質は何だろうと考えていく。
そのためには他部署の人とも話をしなければいけないし、ゲームの話であればゲームにも興味がある、元から好きならなおさら良し、という形で取り組んでいただける方が合うと思います。
そういった特色をお持ちの方であれば、前職の業界はあまり関係ないということでしょうか。
北村 そうですね。そもそも、前職がエンタメの人は実はそれほど多くないんです。
同業の人はむしろマイナーだと思います。
お二人とも採用面接に出られるそうですが、面接ではどのようなところを見ていますか。
田口 …
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「経営に近い位置」で得られる成長機会とやりがい
入社された場合、スクウェア・エニックス・ホールディングスの法務組織ではどのような成長機会がありますか。
北村 エンタメ業界に興味があるのであれば、先ほど申し上げた通り、当社はゲームだけでなく、出版からアニメ化といった展開や、グッズ展開、グループ会社ではアミューズメントなど、幅広く事業を持っています。そうした事業の契約や、法的にどういう体系で行っているのかを知ることができます。
また、BtoCなので、それに関連する個人情報や消費者保護に関するさまざまな法制度について、具体的な事例を見ながら勉強していくことができるのは1つ良いところだと思います。
それから、法務という組織は、事業部としての判断や経営判断に対して、どういうことを考えて判断しなければならないのかという情報を求められます。それをベースに、もちろん他の部門もありますが、判断が具体的にされるのを目にする機会が非常に多いと思います。そういうところに関わりたいのであれば、その機会が与えられると思います。
田口様はいかがでしょうか。
田口 北村が申し上げた通り、商事法務のメンバーも経営層と近い位置にいます。我々のアドバイスや考えたことを経営層に説明し、それが実際に反映されて、会社の運営に直接的に影響を与えていることを日々実感しながら仕事ができるのは1つ挙げられると思います。
また、ある程度の裁量を与えられて自分で動いてやってみることができるので、積極的に動ける方であれば、いろいろなことにチャレンジができて、いろいろな可能性があると思います。その中で、対話する力や説明する力、コミュニケーションする力が養われていくのではないでしょうか。
これまでの法務の仕事で、一番やりがいを感じたことを教えてください。
北村 具体的な話はできませんが、いろいろな部署の人間が関わる中で、どういう判断をするのが会社にとってベストなのかを決めていく場面です。
法務としての意見だけでなく、コーポレート部門として他の部門の人の意見を調整しながら、ここがベストではないかと苦心して決めて、「これで行きましょう」と形になる。それがやっていて一番楽しい、嬉しいところだと思っています。
意思決定の過程そのものにやりがいがあるのですね。
北村 そうですね。それは新しいサービスの話かもしれないし、大きなトラブルの話かもしれない。いろいろあると思いますが、そこでチームになって取り組むのはなかなか面白いと思っています。
田口様はいかがでしょうか。
田口 ホールディングスの商事法務という観点では、やはり株主総会が大きなポイントだと思っています。株主総会は当部署だけで準備できるものではなく、他部署と協力しながら招集通知を作るなど、いろいろな準備をします。
毎年検討しなければならないポイントは変わりますが、それを毎年乗り越えて無事に終えられたときに、達成感を感じます。
「AIで調べた先が勝負」法務とAIのこれから
今、どこの法務部でも話題になるのがAIです。法務の仕事はこれからどう変わっていくと思われますか。
田口 AIは日々進化していて、法務の仕事とかなり親和性があると思っています。信頼性は自分で確認しなければならない部分がありますが、昔は本を調べて自分でチェックしていたリサーチを、まずはAIを使って行う。
その上で、人としての経験を活かしながら、実際に起こっている事象に当てはめて適用していく。その使い分けを日々考えながらやっています。
実際に活用も進んでいるのでしょうか。
田口 我々のようなバックオフィス業務の生産性向上は中期経営計画でも掲げているところで、効率的にできるところはAIを活用していこうという方針です。部内でも積極的に使うことを推奨しています。
リサーチや定型的な業務は、AIと相性が良さそうです。その中で、どのような能力がより重要になってくると思われますか。
田口 個人的には、AIを使ってある程度調べたうえで、その先が勝負だと思っています。
自分の経験や、他の人から直接聞いた話、いろいろなシチュエーションでどういう判断をしたのかといった他の方の経験は、AIからは出てきません。そういったものをうまく自分の中に取り込んでいけると、法務の業務も効率的かつ効果的に進められると思っています。

「AIを使ってある程度調べたうえで、その先が勝負」と語る田口様。AIからは出てこない経験を取り込むことで、法務の業務を効率的かつ効果的に進められると考えている
社会の変化も大きい中で、前例のない相談への対応もより求められると思います。成果を出せる法務とそうでない法務は、どこで差がつくと思われますか。
北村 業種にもよると思いますが、…
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「月1回の発表会」で学び合う情報アップデート術
常に情報をアップデートしていくことが大事だと感じました。意識していることや取り組んでいることはありますか。
田口 いろいろな情報にアンテナを立てることは意識しています。具体的には、当社でもさまざまな雑誌を購読していて、そこから情報を入手したり、最近はいろいろな法律事務所がニュースレターを出していますので、そういったところからいち早く情報をキャッチしたりしています。
例えば法改正であれば、どこがポイントなのかをすぐにキャッチするよう、日々心がけています。
組織として取り組まれている部分もあるのでしょうか。
田口 組織としても、気づいたら転送して情報共有をしたり、情報のソースを集めていつでもアクセスできるようデータベース化したりしています。そうしたところで、情報のアップデートをして、部全体の底上げをしています。
事業会社側での取り組みはありますか。
北村 キャッチアップはホールディングスと共に行っています。例えばホールディングスの法務と事業会社の法務が、オンラインなどで月1回集まっています。
そこで必ず発表者を決めて、自分が担当している分野の最新情報を発表してもらうということをずっと続けています。例えば知財の方で「こういう法律の改正があって」といった話をしてもらっています。
そうすると聞く方も勉強になりますが、作る方は、説明するには自分で分かっていないといけないし、説明の仕方も考えなければいけません。なので、あえてそういう機会を作っています。

「担当分野を突き詰める」若手法務へのキャリア助言
20代・30代の若手法務パーソンは、どのような経験を積んでおくとキャリアアップや市場価値の向上につながると思われますか。
田口 20代・30代の方であれば、自分の興味だけでなく、いろいろなことにチャレンジしていただくのが良いと思います。今の仕事の延長線上で専門を極めていく道もありますが、他の道もあります。
アンテナを立てて、自分の興味がなさそうなことでもちょっと見てみて、どういった観点で仕事をしているのか、この業務はどこで活かされているのかを見ていく。それが将来的に自分の幅を広げていくことにつながると思います。
時間は限られているので、それほど幅広くというのは難しいと思いますが、なるべく視野を広く持っていただけた方が良いと個人的には思います。
田口様ご自身も、法律事務所時代にいろいろな案件を担当されたと思います。幅の広さが力になっている実感はありますか。
田口 そうですね。案件を担当すると、ある分野ではこう考えるけれど、この分野では違う考え方をしなくてはいけない、という自分の中での引き出しが増えていくと思います。
そういった経験を若いうちにいろいろしておくと、後々「こういう考え方をこの時にしたことがあるな」とつながることもあるのではないでしょうか。
北村様はいかがでしょうか。
北村 今聞いていて思い出したのですが、…
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※所属・役職等は取材当時のものです。

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