弁護士を辞めたいと思ったら。現役弁護士が語る激務の実像と、辞める以外の選択肢
更新日:2026年9月15日
弁護士の働き方について語られるとき、話はしばしば「激務かどうか」の一点に集まります。もちろん事務所や分野によって実情はさまざまですが、外から見える情報が限られている分、イメージが先に固まってしまいやすい領域でもあります。「辞めたい」と感じたとき、その気持ちが何に向いているのかを自分で切り分けるのは、思いのほか難しいことです。
アガルートキャリアジャーナルでは、これまでにさまざまな立場の弁護士の方にお話を伺ってきました。四大法律事務所で現在も働いている方、大手事務所からインハウスへ移った方、法律事務所から事業会社の法務へ転じた方、刑事や交通事故といったいわゆる町弁業務を軸に事務所を広げた方、事務所とインハウスを往復した方、裁判官や検察官からキャリアを組み替えた方。今回はその中から9つの事務所・企業、10名の方の言葉を、テーマごとに並べ直しました。
この記事で扱うのは、次の問いです。弁護士が「辞めたい」と感じるとき、実際には何が起きているのか。「弁護士は激務」という言葉はどこまで実態を表しているのか。そして、辞める以外にどのような選択肢があり、それぞれで何が変わるのか。最後に、アガルートキャリアが公開している弁護士向け求人438件を、法律事務所の求人と企業の求人に分けて集計し、条件面から確認できることも整理しています。進路を考えるうえでの材料になれば幸いです。
| 所属(取材当時) | 登場者 | これまでの経歴 |
|---|---|---|
| 長島・大野・常松法律事務所 | 三浦 雅哉様 (アソシエイト弁護士) |
四大法律事務所の一つに在籍 |
| 法律事務所ZeLo | 桐谷 曜子様 | 長島・大野・常松法律事務所でキャリアを開始。大和証券への出向後に転籍し、農林中央金庫を経て現職 |
| ホウガイド法律事務所 | 福澤 寛人様 (代表弁護士) |
森・濱田松本法律事務所、第一三共への出向を経て2024年に独立 |
| アトム法律事務所 | 岡野 武志様 (代表弁護士) |
刑事事件専業として独立し、交通・離婚・相続まで取扱分野を拡大 |
| 東京スタートアップ法律事務所 | 中川 浩秀様 (代表社員弁護士) |
全国に拠点を広げ、個人の依頼者を中心に扱う事務所を経営 |
| テスラジャパン | 稲井 宏紀様 | アンダーソン・毛利・友常法律事務所、アクセンチュアを経てインハウスへ |
| QVCジャパン | 小嶋 潔様 新沼 奏之介様 |
いずれも法律事務所から事業会社の法務へ転じる |
| 三宅坂総合法律事務所 | 小菅 哲聖様 | 裁判官として約8年勤務したのち、BCGでの戦略コンサルタントを経て弁護士へ |
| アガルート法律会計事務所 | 江原 佐和様 | 12年の検事経験を経て弁護士・講師として活動 |
※所属・役職はいずれも取材当時のものです。
INDEX
「辞めたい」と感じるとき、何が起きているのか
転職のきっかけを伺うと、「仕事が嫌になった」という語られ方はほとんど出てきません。代わりに挙がるのは、労働時間の波、担当分野の偏り、そして家庭の状況の変化でした。いずれも、仕事そのものへの評価とは別の軸にあるものです。
QVCジャパンの小嶋様は、慶應義塾大学商学部を卒業後に旭硝子(現AGC)で約6年勤務し、その後法科大学院に進んで司法試験に合格したという経歴の持ち主です。法律事務所からインハウスへ移った理由を、次のように話しています。
小嶋 子どもが保育園に入り妻も働いているので、ワークライフバランスを考えるようになったことがきっかけです。法律事務所の弁護士の仕事は労働時間の波が大きく、バランスを取って働き続けるのは難しいと思いました。
「労働時間が長い」ではなく「労働時間の波が大きい」という表現が使われている点は、注目に値します。同じチームの新沼様も、ワークライフバランスを理由に挙げたうえで、もう一つの動機を語っています。
新沼 私も同様に、やはりワークライフバランスを考えたときに、インハウスの方がよいと感じました。
あとは交通事故を中心にやってきたことでキャリアが偏っていたので企業法務も含めて様々な分野に触れたいと思い、事務所と企業の両方で転職活動を進めていました。そんな中で、ご縁のあったQVCジャパンに入社したという形です。
担当分野が固定されることへの感覚は、扱う分野を問わず生じるようです。刑事事件を専業として独立し、現在は交通事故や離婚、相続まで扱うアトム法律事務所を率いる岡野様は、事務所として取扱分野を広げた背景を説明する中で、次のように話しています。
岡野 そういった事情にくわえ、刑事事件ばかりを取り扱っているので5年も経つと昔から働いている弁護士は「見たことあるような事件」が非常に多くなってきてしまいます。
企業法務で一つの分野を深めた弁護士と、一般民事で同種の事件を重ねた弁護士が、どちらも近い感覚に行き着いている。これは事務所の規模や扱う分野では説明のつかない部分です。
テスラジャパンの稲井様は、アンダーソン・毛利・友常法律事務所を1年半で離れています。ご本人は当時の自分について、こう振り返っています。
稲井 アンダーソン・毛利・友常時代のことですが、私は入所する際には「何でもできます、何時間でも働けます、頑張ります」みたいな体育会系の人間だと自負して入ったんです。
そのうえで、転機となった出来事を挙げています。
稲井 もう一つ大きなきっかけとして子供が生まれたことがありました。それでワークライフバランスを考えると一度インハウスに行くのもいいんじゃないかと。
働けるかどうかではなく、これから何十年と続く時間をどう配分するか。稲井様は判断の場面をこう表現しています。
稲井 そうすると早めに転職したほうがこの先何十年と続くキャリアを考えると、いい選択なのかなと思ったんです。かなり迷いましたが、最後は自分の直感に従いました。
「弁護士は激務」はどこまで本当か
この問いに入る前に、前提を一つ確認しておく必要があります。法律事務所に所属する弁護士は、事務所と雇用契約を結ぶのではなく、業務委託の形で働いていることが少なくありません。長島・大野・常松法律事務所でキャリアを始め、インハウスを経験したのち法律事務所ZeLoに所属する桐谷様は、弁護士という職業の性質をこう表現しています。
桐谷 やっぱりどこまで行っても「自営業者」です。大きい事務所にいてもそうでなくても、自分の作ったものでお客様からお金を頂戴できるかどうか、というすごくプリミティブな自営業だと思っています。工場を持って回していくことができる職種でもないので。
この前提に立つと、「残業が多いか少ないか」という問いの立て方自体が、事務所で働く弁護士の実感とは噛み合わないことがわかります。所定労働時間があって、それを超えた分が残業になる、という構造にそもそもなっていないからです。
では実際の時間はどう語られているのか。森・濱田松本法律事務所から独立し、ホウガイド法律事務所を立ち上げた福澤様は、具体的な数字を挙げています。
福澤 ビラブルアワー(請求可能な業務時間)は、多いときは月300時間に達する場合もあります。ただ、人による部分が大きいですね。私は少ないときは150時間くらいの月もありましたし、平均すると200~240時間くらいが多かったかなと思います。
ここで使われているのはビラブルアワー、つまりクライアントに請求できる業務時間です。労働時間ではなく成果として積み上がる時間で語られている点が、先ほどの「自営業者」という言葉と重なります。そして月ごとの振れ幅がそのまま働き方の振れ幅になります。
福澤様は、環境そのものが変わりつつあるとも指摘しています。
福澤 採用人数の増加やリモートワークが一般化したことで、柔軟な働き方がしやすくなりました。
その使い方も、在宅か出社かの二択ではありません。
福澤 完全リモートで1日中作業することは少ないですが、朝は自宅でメールを処理した後、事務所へ移動して業務を行い、夜はまた自宅でリモートというように、うまく組み合わせて使うケースが多かったです。
現在も四大法律事務所で働く立場からの証言もあります。長島・大野・常松法律事務所のアソシエイト弁護士である三浦様は、入所前に抱いていたイメージについてこう話しています。
三浦 四大法律事務所や企業法務系の事務所は非常にハードワークと聞いていましたが、内部的なストレスの小さい環境であれば、何とかやっていけるのではないかと感じたことが入所の大きな理由です。
実際に働き方を尋ねられた際の答えは、標準的な一日を示すものではありませんでした。
三浦 かなり個人差があると思います。朝型の人もいれば夜型の人もいますし、毎日事務所に来る人もいれば、あまり来ない人もいます。案件の忙しさも担当するプラクティスやグループによって異なるため、一概に標準化するのは難しいですね。私の場合は事務所に来て仕事をすることを基本としています。
そして、入所前の予想との差については次のように語っています。
三浦 また、働き方の面でも、もっと仕事一辺倒になるかと思っていましたが、意外にもプライベートをしっかりと楽しむ時間が確保できています。
月300時間に達する月がある一方で、同じ四大の現役アソシエイトが「意外にもプライベートを楽しむ時間が確保できている」と話す。今回伺った範囲でも、実態は事務所や担当グループ、そして個人によって大きく割れていました。「弁護士は激務」という一文で片づけられる状態ではない、というのがここから読み取れることです。
辞めたいのは事務所か、それとも弁護士という仕事か
ここまでの話を並べると、一つの分かれ目が見えてきます。「辞めたい」と感じている対象が、弁護士という職業そのものなのか、それともいま身を置いている事務所や担当分野なのか、という点です。
今回お話を伺った方々の多くは、弁護士であることをやめていません。稲井様は事務所からインハウスへ、小嶋様と新沼様は事務所から事業会社の法務へ、桐谷様は事務所とインハウスを往復しています。いずれも資格を手放すのではなく、資格を使う場所を変えています。
また、三浦様が「案件の忙しさも担当するプラクティスやグループによって異なる」と話していたように、同じ事務所の中でも状況は一様ではありません。いま感じている負荷が、事務所全体の性質によるものなのか、担当している案件やグループによるものなのか。ここを分けて考えられるかどうかで、取るべき選択肢は変わります。
選択肢1 インハウスに移る
法律事務所から事業会社の法務部門へ移る道は、近年もっとも選ばれている進路の一つです。両方を経験した稲井様は、インハウスのワークライフバランスについて次のように述べています。
稲井 たしかにそれは一つの大きな魅力ですよね。やはり一般的にインハウスの方がワークライフバランスを保ちやすいのは事実かなと。
具体的な勤務形態については、QVCジャパンの新沼様が詳しく話しています。
新沼 リモートワークの割合が高く、週2回は出社し残りの3日は在宅です。勤務時間もスーパーフレックスなので、プライベートの予定にも柔軟に対応できます。非常に自由度の高い働き方ができていると思います。
インハウスへ移ると、多くの場合は業務委託ではなく雇用の形になります。勤務時間やフレックス制度といった言葉が具体的な意味を持つようになるのは、そのためです。一方で、扱う法分野は変わります。新沼様が転職理由の一つに挙げていたように、通信販売という事業の中では特定商取引法や景品表示法、ベンダーとの関係では下請法や独占禁止法といった論点に日常的に向き合うことになる、という趣旨の説明がなされていました。事務所時代に一つの分野を深めてきた人にとっては、深さと引き換えに幅を得る選択とも言えます。
選択肢2 事務所を移る
弁護士でいることも、事務所に所属する形も変えずに、事務所だけを移るという選択肢があります。今回の取材で事務所ごとの性格がこれだけ違って語られていることを踏まえると、現実的な選択肢の一つです。
桐谷様は、ZeLoへの入所を検討した際のやりとりをこう振り返っています。
桐谷 ZeLoに来る時も、私はまためんどくさく、「使える時間が2,000時間あったとして、こういうことになるし、稼ぐのも最初はこうだし頑張らなきゃいけないと思うけど、あとは経費がどうとか……」と、いろいろな話をA4で2枚ぐらいのQAのような形でまとめました。すると代表の小笠原弁護士から、きちんと書面で回答をいただけたんです。「あ、もうこれですよ」と思いましたし、信頼も生まれましたね。
使える時間をどう配分し、それがどう収入につながるのかを、入る前に書面でやりとりしている。業務委託という働き方の性質を考えると、この確認の仕方は参考になります。
移ることを前提に置いている事務所もあります。全国に拠点を広げる東京スタートアップ法律事務所の中川様は、事務所の評価制度について説明する中でこう話しました。
中川 たとえば別の事務所に移籍するとか独立するとなっても、東京スタートアップ法律事務所での経験が絶対にプラスに働くはずです。
事務所を移ることで変わるのは、扱う分野、依頼者の層、報酬の設計、そして個人受任を認めるかどうかといった条件です。後半の求人データの章で見るとおり、これらは事務所によってかなり幅があります。
選択肢3 分野や立場を変える
事務所を辞めることが、法曹の世界から離れることを意味するわけではありません。三宅坂総合法律事務所の小菅様は、京都大学法学部およびロースクールを卒業後、裁判官として法曹キャリアを始めた方です。
小菅 約8年間裁判官として勤務したのちに退官し、その後、戦略コンサルティングファームのBCGへ転職。戦略コンサルタントとして企業の経営課題に携わった後、弁護士としてのキャリアを再スタートし、現在は三宅坂総合法律事務所で勤務しています。
立場が変わっても、前の立場で培ったものは持ち越されます。小菅様は裁判官時代に鍛えられたことを、こう説明しています。
小菅 裁判官は独立した立場でそれぞれが自らの信念に基づいて判断します。その結果、同じ案件でも見方や結論が異なることがしばしばあります。
そうした中で、自分の考えを論理的に積み上げ、他の裁判官に説明・説得していく力が非常に求められました。ロジックの構築と多様な視点の理解は、まさに裁判官として磨かれた部分だと感じています。
検察官からの転身もあります。アガルート法律会計事務所の江原様は、2010年12月に検事に任官し、12年のキャリアを経て弁護士になった方です。
江原 その後2022年の年末に検事を辞職し、翌年よりアガルート法律会計事務所で弁護士を、またアガルートアカデミーで企業様や個人を対象とした講師業もおこなっております。
現在は弁護士としての業務に加えて、企業や個人を対象とした講師業も担当されています。資格を軸に、業務の組み合わせ方を変えるという選択肢もあるということです。
選択肢4 独立する
独立も選択肢の一つではありますが、事務所の経営という別の領域が加わるため、ここでは動機の部分にだけ触れておきます。福澤様が独立を意識し始めたのは、出向先での経験がきっかけでした。
福澤 2024年の3月ぐらい、出向して1年経つか経たないかぐらいの時期ですね。主体的にお客さんと向き合って仕事をしたいし、営業も経営も全部やってみたいという、「自分で動きたい」という思いが主な理由です。
ここで語られているのは、営業も経営も自分でやってみたいという方向の動機です。忙しさから離れることを目的とした選択とは、向きが異なります。
求人情報から確認できること
ここまでは個人の経験の話でしたが、求人の側から見える傾向もあります。2026年9月14日時点で、アガルートキャリアが公開している弁護士向け求人438件を集計しました。内訳は法律事務所・弁護士法人の求人が229件、それ以外の業種の求人が209件です。以下の数字はいずれも当社が公開している求人に限ったもので、市場全体の統計ではありません。
最初に確認しておきたいのは、この2つのグループでは条件の書かれ方そのものが違うということです。先ほど桐谷様が「どこまで行っても自営業者」と表現していたとおり、事務所に所属する弁護士は雇用ではなく業務委託の形をとることが多く、労働時間の管理を前提とした条件が馴染みません。
| 条件 | 法律事務所・弁護士法人 229件 |
それ以外の業種 209件 |
|---|---|---|
| フレックス制 | 23件 | 108件 |
| リモートワーク可 | 39件 | 106件 |
| フルリモートワーク | 5件 | 4件 |
| 時短勤務可 | 2件 | 13件 |
| 残業少なめ | 2件 | 5件 |
| 個人受任可 | 143件 | 6件 |
| 副業可 | 137件 | 47件 |
| 弁護士会費用負担有 | 73件 | 21件 |
労働時間や勤務形態の条件が並んでいないことは、その事務所が働き方に無頓着であることを意味しません。契約の形が違うため、そもそも記載する項目が異なっているということです。事務所求人に代わりに並ぶのが「個人受任可」143件、「副業可」137件で、事務所の案件とは別に自分で依頼を受けられるかどうかが条件として明示されています。自分の裁量で仕事の幅を広げたいのであれば、辞めずに動かせる部分がここにある、とも言えます。
想定年収については、次のような数字になりました。
| 区分 | 下限の中央値 | 上限の中央値 | レンジ幅の中央値 |
|---|---|---|---|
| 法律事務所・弁護士法人 229件 | 600万円 | 1,500万円 | 500万円 |
| それ以外の業種 209件 | 730万円 | 1,200万円 | 450万円 |
ただし、この数字はあくまで参考値としてご覧ください。当社がお預かりしている求人には非公開のものも多く、その中には高い年収帯の求人が相応に含まれます。公開している求人だけを集計したこの表が、年収の全体像を表しているわけではありません。
また、下限と上限の幅が中央値で450万円から500万円あることにも注意が必要です。求人票のレンジは、誰にいくら払うかが決まりきっていない段階で設定されていることが多く、上限は「この条件を満たす人であれば」という前提つきの数字です。レンジの上限を見て判断するのではなく、自分の経験がその幅のどこに位置づくのかを確かめる必要があります。
そもそも、今回お話を伺った方々が事務所から企業へ移った理由は、年収ではありませんでした。小嶋様、新沼様、稲井様がいずれも挙げていたのはワークライフバランスであり、年収を理由として語った方はいません。移るかどうかを年収の数字だけで判断する場面は、実際にはそれほど多くないのかもしれません。
「違ったなと感じたらシフトしていく」
福澤様は、これから進路を考える弁護士に向けて次のように話しています。
福澤 法曹業界の中で弁護士はキャリアを自分で組み立てやすい職種ですから、やりたいことをやってみて、違ったなとかうまくいかなかったなと感じたらシフトしていくとよいかと。
私も今後どうなるかわかりませんが、素直にやりたいことをどんどんやっていこうかなと思っています。
今回ご紹介したのは9つの事務所・企業、10名の方の実例です。ここで語られたことがすべての事務所や企業に当てはまるわけではありませんし、同じ選択が誰にとっても正解になるわけでもありません。ただ、共通していたのは、辞めるかどうかを決める前に、自分が何を変えたいのかを一度言葉にしていたことでした。
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この記事の監修者
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