大企業の法務への転職を考える前に|組織と仕事の実態を解説

更新日:2026年9月14日

大企業の法務への転職を考える前に|組織と仕事の実態を解説

大企業の法務と聞いて、大所帯の組織で担当が細かく分かれ、決められた範囲の契約審査を進めていく——そんな姿を思い浮かべる方もいるかもしれません。腰を据えて働ける一方で、任される範囲は狭いのではないか。専門が偏ってしまうのではないか。そうした懸念から、選択肢に入れきれずにいる方もいらっしゃるように思います。もちろん会社によって実情はさまざまですが、実際に働いている方の話をまとめて聞く機会は、そう多くありません。

アガルートキャリアジャーナルでは、これまで各社の法務部門を訪ね、直接お話を伺ってきました。日本たばこ産業(JT)、キリンホールディングス、JFEエンジニアリング、PHCホールディングス、ルネサス エレクトロニクス、YKK AP、日本ペイントホールディングス、アクセンチュア、日本IBM。9社15人。

法務部門のトップやジェネラルカウンセルから、入社数年目で実務の中心を担う方まで幅があります。弁護士やニューヨーク州弁護士の資格を持つ方から、新卒入社以来25年以上を法務一筋で歩んできた方まで、経歴もそれぞれです。

本記事では、15人のインタビューを「組織」「縦割り」「仕事の範囲」「事業部との距離」「入口」「これから」という切り口で編み直しました。法務部はどれくらいの規模で、どんな形をしているのか。担当の外には関われないのか。契約審査のほかに何をしているのか。どんな経歴の方が入っているのか。大企業の法務への転職を考えている方の参考になれば幸いです。

企業名 取材で語られた法務の特徴 登場者
日本たばこ産業株式会社 コーポレート部門の法務・コンプライアンス統括部と、たばこ事業内の法務チームによる二層構造。事業のオペレーション上の世界本社はジュネーブ 稲村 誠 様(日本マーケット 部長代理/法務担当)
キリンホールディングス株式会社 法務部33名。事業ごとの5チームに加え、DX・人材育成・グローバルを担う横断チームが並走 八嶋 章博 様(法務部・弁護士)
梶川 陽介 様(法務部・弁護士)
JFEエンジニアリング株式会社 案件ごとに契約スキームが異なるEPC事業の法務。国内法務室と海外法務室の兼務も 石塚 正樹 様(法務部長/ニューヨーク州弁護士)
吹屋 響子 様(法務部・弁護士)
PHCホールディングス株式会社 国内14名。コーポレート企画課・法務課・コンプライアンス課の3課を、兼務で運営 虎山 茂政 様(法務・コンプライアンス部 上席部長)
ルネサス エレクトロニクス株式会社 全世界で約120名。知財やトレードコンプライアンスを含み、地域と分野の縦割りを外す設計 本間 隆浩 様(法務統括部 ヴァイスプレジデント 兼 ジェネラルカウンセル)
田子 晃 様(法務統括部 グローバル・コマーシャル管掌 シニアダイレクター)
YKK AP株式会社 法務・知的財産部に法務グループとコンプライアンス推進室。合わせて10名強、社内弁護士は2名 石井 隼平 様(専門役員 リーガルカウンセル/弁護士)
日本ペイントホールディングス株式会社 海外売上比率9割弱のグループを総勢11名で支える。東京・大阪の2拠点体制 安藤 勝利 様(法務部長)
藤原 大輔 様(法務チームリーダー)
アクセンチュア株式会社 法務本部約150名。うち約100名が、契約締結後の履行管理を担うコントラクトマネジメント部 伊中 英輔 様(法務本部 コントラクトマネジメント部 シニア・マネージャー)
田上 愛華 様(同 シニア・マネージャー)
日本アイ・ビー・エム株式会社 明確なチーム制を置かず、1年ごとのローテーションで担当領域が入れ替わる 大内 麻子 様(弁護士)
田中 聡美 様(弁護士)

※所属・役職等は、それぞれの取材当時のものです。

「全世界に広がっており、約120名おります」──法務部の規模は、会社によってこれだけ違う

大企業の法務部というと、相応の人数を抱えた組織を思い浮かべる方が多いかもしれません。今回の9社にも、確かに100名を超える組織はありました。一方で、グローバルに展開する企業を10名前後で支えている法務部もありました。まずは、それぞれの組織の輪郭から見ていきます。

最も規模が大きかったのは、ルネサス エレクトロニクスです。日立、三菱、NECの半導体部門が統合して生まれた同社で、全世界の法務を統括する本間様は、次のように説明しています。

本間 法務統括部は全世界に広がっており、約120名おります。

一般的な企業法務(契約、紛争、コンプライアンス、会社法関連)に加えて、かなりの割合の人数とチームが知的財産(特許関係)を担当しています。また、業界特有の事情から、トレードコンプライアンスや輸出管理などのチームも合わせて120名という構成です。

内訳は、日本に約半分の約60名、アメリカに約25名、ヨーロッパ(特にドイツ)に10名強、中国に10名弱。そのほかインドやベトナム、シンガポールにもメンバーがいるといいます。

アクセンチュアの法務本部も、人数の上では同じ規模帯にあります。ただし、その内訳は他社とかなり違っていました。

田上 法務本部としては約150名ほどおります。法務本部内部は5つのファンクションに分かれており、私たちの「コントラクトマネジメント部」、それから「営業法務部」、「Geographic Compliance & Corporate」、労働法関係を担当する「労働法務」、そして「社内調査部」となっています。

そのうち約100名がコントラクトマネジメント部に所属しているといいます。法務本部の3分の2が、契約締結後の履行管理を担う部署に置かれている計算です。

ビール・飲料からヘルスサイエンスまでを手がけるキリンホールディングスでは、法務部がホールディングスに集約されています。ガバナンス・株式業務を担当する梶川様が、規模を教えてくれました。

梶川 全体で33名です。私のチームはリーダーを含めて4名で構成されています。チームごとに抱える事業会社の数が違うため、人数には多少の傾斜がありますね。

一方、世界有数の塗料メーカーである日本ペイントホールディングスは、海外売上比率9割弱というグループのホールディングス法務でありながら、体制はかなりコンパクトです。

藤原 具体的な人数や体制で言いますと、メンバーは東京と大阪の2拠点体制で、現在は総勢11名。うち4名が他部門と兼務しているところが特徴的です。

これだけ大きなグループの法務組織を支える部門としては、かなり少数精鋭な組織だと思っています。少数でありながらグローバル案件から国内の現場サポートまで幅広くカバーするのは大変なところもあるのですが、メンバー間で密に連携を取り、風通しよくできているところが、今の法務組織の特徴でありメリットだと感じています。

創業90年を超えるYKKグループのYKK APも、法務グループとコンプライアンス推進室を合わせて10名強、そのうち社内弁護士は石井様を含めて2名という体制です。窓やエクステリアにとどまらず、都市緑化、ヘルスケア、建材一体型太陽光発電と新規事業が続々と立ち上がるなかで、この人数が対応しています。

世界125以上の国と地域で事業を展開し、連結で約9,000名の従業員を擁するPHCホールディングスも、国内の法務・コンプライアンス部は14名。虎山様は、その人数で3つの課を運営していると説明します。

虎山 国内の部員は全員で14名おり、その中にコーポレート企画課、法務課、コンプライアンス課という3つの課があります。

部員は総勢14名と人数が少ないため、課を超えて兼務するなど限られたリソースを有効活用し、全体として最大限の成果を発揮できるよう協力して仕事を進めています。

今回の9社を並べると、120名の組織と10名強の組織が、同じ「大企業の法務」という言葉の中に並んでいました。法務部の人数や体制は求人票に書かれていないことも多く、実際に何人で何を見ているのかは、外からは分かりにくい部分です。

アドバイザーの視点|規模の違いは、優劣ではなく相性の問題

大企業の法務部といっても、置かれている状況はさまざまです。少人数で事業を支えていることもあれば、組織立って細分化されていることもあります。どちらが良いという話ではありません。

どういった組織に魅力を感じるか、どのようなスキルを身につけていきたいか、事業とどこまで携わりたいか。会社の選び方は、このあたりで変わってきます。

ただ、こうしたことは外からではなかなか分かりません。エージェントとの面談や、選考のなかですり合わせを行っていくことが大事だと考えています。

「全くありませんね」──縦割りかどうかは、人数では決まらない

規模が大きい組織ほど分業が進み、担当の外には関われない。大企業の法務に対して、そうした印象を持たれる方もいるかもしれません。今回の取材では、この点を正面から否定する話が、複数の会社から聞かれました。

キリンホールディングスの梶川様に、大企業の法務は縦割りで横のコミュニケーションが少ないイメージがあるが実際はどうか、と尋ねたときの答えは、はっきりしたものでした。

梶川 全くありませんね。別のチームから「これってどうなっているんだっけ」といった質問が飛んでくることもよくありますので、お互いやり取りすることが日常的に発生しています。

梶川様は前職で自動車部品メーカーの法務を経験した方です。外から入った立場から見ると、ホールディングスに全事業の法務が集まっているため同じ部の中でも全然違う仕事をしている人がいる、それでいてチームに閉じこもることがないので刺激を受けやすい組織だ、と語っています。

それを支えているのが、事業別のチームとは別に置かれた、機能ごとの横断チームです。

八嶋 担当が事業ごとにチームが分かれているのとは別に、チーム横断で対応する業務を担当するチームもあるんです。

例えばDXを担当するチーム、人材育成を担当するチーム、グローバル業務を担当するチームなど、機能ごとに横で対応するチームがそれぞれあります。

私はDXを担当するチームに所属していて、梶川さんは人材育成チームに所属しています。横の繋がりや連携はすごく大事だなと感じますね。

120名という規模のルネサス エレクトロニクスでも、縦割りを避けることは意図的に設計されていました。本間様は、それを組織運営の方針として語っています。

本間 私自身の希望も含めてですが、できる限り一体で業務を行いたいと考えています。

日本のチームは日本だけ、アメリカのチームはアメリカだけ、あるいは特許チームは特許しかしない、といった縦割りをなくし、120名の中で気軽にチームを組んだり、やり取りができるような形にしています。

私が過去にいた法律事務所や会社と比較しても、距離が近いと感じています。

方針が実務でどう機能しているかは、契約審査や独占禁止法などを統括する田子様の話からうかがえます。

田子 部署ごとの距離が非常に近いことは、私の業務でも日々感じています。例えば、私の管轄である契約関連の紛争でも、契約だけで解決する案件ばかりではありません。

技術に関する深い理解や、特許的な知的財産の側面からの検討が必要な場合があり、現在、私のチームと特許チームが共同で訴訟案件を検討しています。

興味深いのは、規模がまったく違う組織からも、同じ趣旨の話が聞かれたことです。国内14名のPHCホールディングスでは、虎山様が部門の境界を越える動きをポリシーとして掲げていました。

虎山 部門に閉じた仕事をしないことをポリシーとしているため、事業部からの相談で経理的な問題があれば経理部門の人を呼んで一緒に話をする、といった形で、横の連携を図るために情報共有や投げかけを心がけています。

120名の組織でも、14名の組織でも、「担当の外に出ない」状態を避けるための工夫が語られていました。組織図の形や人数だけでは、そこが縦割りかどうかは読み取れないということかもしれません。

アドバイザーの視点|関わり方の違いは、入社後の成果に直結する

大企業=縦割りという理解は正しくない、ということがお分かりいただけると思います。

どういった関わり方をしているのかは、仕事の進め方に直結します。そして、転職後に成果が出しやすいかどうかにも大きく影響します。

ここは入社してから気づいても手を打ちにくい部分ですので、転職前にすり合わせておきましょう。

「契約を結んでからがむしろ主戦場です」──仕事は契約審査の外側にも広がっている

法務の仕事として真っ先に思い浮かぶのは、契約書の審査かもしれません。大企業であればその量も多く、日々それに追われるのではないか——という想像もあり得ます。今回の取材では、契約審査の前後にある仕事について、具体的な話が並びました。

最も分かりやすい例が、アクセンチュアのコントラクトマネジメント部です。伊中様は、一般的な法務部との違いをこう説明しています。

伊中 一般的な法務部ですと、契約を締結するところで仕事が一区切りすることが多いかと思いますが、コントラクトマネジメント部は、その契約を結んでからがむしろ主戦場です。

アクセンチュアは非常に大きな企業ですので、大規模なシステム開発やアウトソーシング、様々なサービスが絡み合った複雑な契約があります。

契約締結後、プロジェクトが立ち上がってからデリバリーが済むまでの間、契約関連のさまざまな交渉を調整したり、実際の状況との乖離があれば契約修正を行ったりといった管理を担っています。

日本ペイントホールディングスでは、M&Aにおける法務の関与が、助言にとどまりません。藤原様は、プロジェクト全体の進行管理まで担う実感を率直に語っています。

藤原 例えばM&Aでいきますと、守秘案件がタイミングによっては複数並走している場面もあります。法務がどのように入るかというと、PMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス。プロジェクト全体の進行管理を担う役割)として参画することも結構多いんですね。

複数のプロジェクトが並行して走っていて、それをPMOとして回していくというのは、正直「頭がちぎれそうなほど」悩みますし、本当にタフで、体力も精神力も鍛えられると感じます。

扱う論点の幅という点では、伝統的なメーカーならではの話も聞かれました。YKK APの石井様は、それを「日本の縮図」という言葉で表現しています。

石井 よくメーカーは「日本の縮図」だと言われるんですけれど、本当にそうだなと思います。

営業の最前線ではカスタマーハラスメントの問題があったり、工場では同僚間のトラブルや労務の問題があったり、建設現場では安全管理の問題があったりと、対応しなければならない幅が本当に広い。でもそれだけに、様々な経験が積めるという面白さもあります。

同じ「契約」でも、業界によって仕事の質が変わることもあります。半導体、鉄鋼、エンジニアリングと渡り歩いてきたJFEエンジニアリングの石塚様は、半導体や鉄鋼では契約スキームが型にはまりやすいのに対し、エンジニアリング業界は既製品を売る仕事ではないと前置きしたうえで、次のように説明しました。

石塚 個々のプロジェクトに応じて、どのような契約スキームが当社にとってもお客様にとっても適切なのかを個別に検討しますし、お客様や協力企業との責任分担・リスク分担をどうするかも、案件ごとに検討します。そこに面白さもあり、難しさもあると思っています。

担当領域そのものを意図的に動かしている会社もあります。日本IBMの大内様は、自身の担当分野を挙げたうえで、その決まり方を説明しています。

大内 私は主に人事、プライバシー、経済安全保障に関する案件を担当しています。前職が製薬会社だったことからヘルスケア関連の案件にも関わっていますし、最近では公共事業や量子コンピュータ関連の案件も手がけています。扱う分野は非常に幅が広いです。

明確なチーム制はなく、1年ごとにローテーションが行われます。今年は公共事業と量子コンピュータを担当していますが、昨年は量子のみでした。法務部長が意図的に担当領域を入れ替えており、幅広い経験を積むことができるよう設計されています。

契約締結後の履行管理、M&Aの進行管理、労務や安全管理、そして毎年入れ替わる担当領域。今回の取材では、契約審査だけでは説明しきれない仕事の広がりが語られました。もっとも、その広がり方は会社ごとに異なっており、共通の型があるわけではなさそうです。

アドバイザーの視点|幅を取るか、専門を取るか

業務の幅も、会社によってさまざまです。

幅広くやりたいのか、専門特化したいのか。どちらを志向するかで、重視すべきことは変わります。

また、同じ会社でもタイミングによって変わります。今どのフェーズにある組織なのかによって、任される範囲は違ってきます。

「相談してよかった」と思われる法務へ──事業部との距離のつくり方

法務が扱う範囲が広くても、事業部から相談が来なければ仕事は始まりません。今回の取材で複数の会社から聞かれたのが、この「相談される状態」をどうつくるかという話でした。裏を返せば、放っておくとそうはならない、ということでもあります。

JFEエンジニアリングで法務部長を務める石塚様は、それを自身の使命として語りました。

石塚 法務部のプレゼンスを上げていくことが私の使命だと思っています。そのためには、社内の依頼者から法務部に気軽に相談してもらえる雰囲気を作りたい。「法務部に相談してよかった」と思われる職場でなければいけないと考えています。

よくありがちなのは、「法務に相談すると余計なチャチャを入れられるからやめておこう」と思われてしまう。

これではやはりダメで、心から「相談してよかった」と思ってもらえる、そういう法務部にしていかなければと思っています。

PHCホールディングスの虎山様が挙げたのは、もっと具体的な行動でした。

虎山 各事業部長と定期的に1on1を私の方から設定し、話を聞くようにしています。

これにより信頼関係が築け、相談してもらいやすくなりました。

こちらから近づいていくこと、そして私自身が常に笑顔でいることが大事だと考えています。法務がしかめっ面だと相談しづらいですからね(笑)。

キリンホールディングスでは、事業部との関係づくりが合言葉になっています。八嶋様は、それが案件の理解度にも効いてくると話します。

八嶋 法務部というとずっと机の上でパソコンと向き合っているイメージがあるかもしれませんが、弊社の場合は「Go to Gemba」を合言葉にしています。

現場に行って学ぼう、事業部との関係性も含めて築いていこう、ということで、私自身も実際に工場に行ってヘルメットを被って見学したりもします。そうすると圧倒的に案件や事業への解像度が上がるんですよね。契約書の読み方も全然変わってきます。

日本ペイントホールディングスは、物理的に事業会社の側へ出向く仕組みを設けていました。安藤様が法務部の特色の一つ目に挙げたのが「法務デスク制」です。

安藤 法務デスク制とは、事業会社のもとに定期的に赴いて執務をすることで、クライアントにサービスを届けることをかなり意識しています。

こうした積み重ねを、JFEエンジニアリングの吹屋様は「信頼の商売」という言葉で説明しています。弁護士登録以降、一貫してインハウスとしてキャリアを積んできた方の実感です。

吹屋 法務は「信頼の商売」だと思っていて、それはスモールサクセスの積み重ねだと考えています。

日々の業務でコミュニケーションを取りながら、相手の立場に応じたソリューションをできる限り提供していく。それを積み重ねていく中で、「今回相談できてよかった」「これからも担当してほしい」と声をかけていただけると、個人的にはとても嬉しく感じます。

その会社で法務が社内からどう見られているか、事業部から早い段階で相談が来る組織なのかどうかは、求人票の記載からは読み取りにくい部分です。大企業の法務ポジションを具体的に検討されている方は、選考に進む前に一度、実情を聞いてみるのも一つの方法かもしれません。アガルートキャリアでは、弁護士・法務・管理部門に特化したアドバイザーが無料でご相談を承っています。
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「元技術者や貿易実務の経験者など多様です」──大企業の法務に入る道は、ひとつではない

大企業の法務に移るには、弁護士資格が必要なのか。その業界の経験がないと難しいのか。ここは、検討の入口でつまずきやすいところだと思います。今回の15人の経歴を並べてみると、入口は一つではありませんでした。

PHCホールディングスの虎山様は、中途入社者の顔ぶれについて率直に話しています。

虎山 中途で入ってくる方はさまざまで、医療・ヘルスケア業界のバックグラウンドを持っていない人の方が多いです。入社してから学んでもらえれば十分やっていけると考えています。

もともとこの会社にいるメンバーのキャリアもさまざまで、元技術者や貿易実務の経験者など多様です。例えば貿易実務の経験者は関税問題に詳しく、さまざまな事業部から相談が来るほど活躍しています。

新卒で入社し、そのまま法務でキャリアを重ねてきた方もいます。JTの稲村様は、1999年の入社以来、一貫して法務を歩んできました。

稲村 1999年にJTに入社しまして、2000年からなので、もう25年以上、法務をある種一筋でやってまいりました。

大きく分けると、前半はコーポレート部門で、法務の目で経営陣の意思決定や会社に関わる案件、あとは訴訟なども担当していました。

ここ10年近くは、日本マーケットでのたばこ事業全般の法務案件を担当しています。大雑把に言うと、そういうキャリアです。

社内で職種が変わった例もありました。アクセンチュアの田上様は、コンサルタント職としての新卒入社から法務本部へ移った方です。

田上 私はコンサルタント職として新卒でアクセンチュアに入社しました。

4年ほど現場で働いた後に現在のコントラクトマネジメント部に移りました。

日本ペイントホールディングスの藤原様は、法科大学院を修了後、企業法務の道を志して2020年に日本ペイント・オートモーティブコーティングスへ入社した方です。同社を知ったきっかけは求人情報ではなく、その会社の法務部で活躍していた法科大学院の先輩とのご縁だったといいます。

一方、キャリアの最初から企業法務を志していた方もいます。JFEエンジニアリングの吹屋様が最初からインハウスを選んだのは、当時としては珍しい選択でした。

吹屋 企業法務にもいろいろな働き方がある中で、自分は事業や経営に近いところで仕事をしてみたい、その方が面白いんじゃないかと。

それに加えて、チームの中で共通のゴールを目指して働くのが好きだろうという自覚もあったので、インハウスの働き方に憧れを持ち、最初からインハウスで就職しました。今でも続けられているので、向いていたのかなと思います。

そして、入った後に分野を動かすことについても、経験者からの言葉がありました。森・濱田松本法律事務所のパートナーからインハウスに転じ、現在は全世界の法務を統括する本間様が、若手に向けて語ったものです。

本間 興味のある分野はさまざまあると思いますが、専門分野や最初に始めたことに囚われずに試してみるのが非常に大事だと思います。

私もインハウスローヤーに転向した当初は経験のないことばかりでしたが、楽しく仕事をさせていただいています。

新卒からのプロパー、他業界からの中途、社内での職種転換、そして最初からのインハウス。今回の取材では、これらが同じ法務部の中に並んでいるという話が複数聞かれました。なお、PHCホールディングスの虎山様によれば、同社のプロパー社員と中途採用の比率は半々ほどだといいます。

アドバイザーの視点|情報収集としての面談も、使い方の一つ

大企業の法務に在籍されている方々のキャリアは、本当にさまざまです。社内の異動、外部の弁護士事務所から、他社の法務部からの転職など、入口はいくつもあります。

法務人材は希少性が高く、専門性がある方の需要は強い状況です。

転職するかどうかは置いておいて、ご自身の希望に合う会社があるのか、どの程度のオファーがありうるのかを、専門エージェントと定期的に話しておくのはおすすめできます。

「一子相伝みたいにしない」──AIの時代に、大企業の法務で何が残るのか

法務のキャリアを考えるうえで、生成AIの話題は避けて通れなくなっています。今回の取材でも、ほぼすべての方がこのテーマに触れていました。興味深いのは、別々の会社の方が、それぞれの言葉で近い問題意識を語っていたことです。

まず、他社との交流を通じて共通の課題が見えているという話から。キリンホールディングスの梶川様は、他社の法務と話題になることをこう挙げました。

梶川 やはりDXの活用をどうしているか、というお話ですね。これは正直どの会社さんもそうだと思うのですが、特に法務は生成AIなどを使いやすい業務が多いと思われている分野でもありますので、それを今後どう使っていくか。

さらに、法務部はナレッジの蓄積というところがどうしても弱く、属人的になりがちな業務分野でもありますので、そこを今後どうしていくかという点については、各社問題意識を持っていらっしゃるという印象です。

その課題に、5、6年前から手をつけてきたのがJTです。たばこの規制に関する知識は市場に流通していないため、社内で受け継がなければ危ない——稲村様は、そうした前提のもとで取り組んできたことを説明しています。

稲村 そこはやはり非常に気をつけていまして。最近はテクノロジーやサービスもありますので、以前は人に依存してしまっていたところを、なるべくプラットフォーム上で管理する。「一子相伝」みたいにしない。

その人がいなくなったら分からない、みたいなことをなるべくなくして、そういう意味でのサステナビリティを維持するために、仕事の仕方やツールの使い方には気をつけているところがあります。

日本ペイントホールディングスは、同じ課題に法務チャットボットという形で取り組みました。社内サイトに研修資料や契約書の雛形を整理して置いてもなかなか閲覧されない一方、イントラを見れば分かる問い合わせが法務メンバーに寄せられる。藤原様が語る開発のきっかけは、かなり日常的なものです。

藤原 「契約書の雛形はどこにあるの」「社内の倫理ルールを教えてください」といった、社内イントラを確認すればすぐに分かるような問い合わせも、法務メンバーに結構来ていました。

問い合わせ対応をしていると、法務としてはコア業務の時間がなかなか取れなくなってしまいます。

この取り組みは、JILA(日本組織内弁護士協会)主催の「JILAインハウス・リーガル・アワード」でイノベーション賞を受賞しています。安藤様は、受賞の背景に日々の業務の進め方があったと振り返ります。

安藤 今回のイノベーション賞では、例えば当社の生成AIを用いた活動も評価いただいたと理解していますが、その前提として、日々の業務を自律的に処理することで効率的に案件を推進し、そこで生まれる「余白」を意識的に作り出していたことも、背景として大きいのではないかと思います。

では、AIが入ってきたときに、法務の何が残るのか。JFEエンジニアリングの吹屋様は、AIの仕組みそのものから説明しています。

吹屋 今のAIは、学習した内容の中から最も確からしいことを返してくれる仕組みです。ですから、そのアウトプットは必ず法務部員がレビューしなければなりません。

その意味で、法務部員の法的な知識やスキルは依然として必要不可欠ですし、その部分をAIが代替することはないと思います。一方で、簡単なリサーチなどはAIが担ってくれるようになるでしょう。

日本IBMの田中様が挙げたのは、法的な知識とは別の要素でした。

田中 技術が進化しても代替できないのは「事業理解」と「産業への専門性」です。今後は、ビジネスの現場を深く理解し、その中で法務としてどのように価値を提供できるかが問われます。

つまり、法務パーソンである前にビジネスパーソンであること。その上で法務という専門領域を通じて事業を支える力が、今後ますます重要になると思います。

同じ趣旨を、JTの稲村様はキャリア形成の観点から語っています。若手が何をしておくとよいか、という問いへの答えです。

稲村 一番重要なのは汎用的な知識だけに依存しすぎないことです。

世の中に流通している、インターネット上にすでにデジタル化されている知識やデータに依存したキャリア形成をやると、危ない。

逆に言うと何かというと、企業で働いているなら、企業の内部的な事情や、歴史的にどういう経緯を経て今の会社のポジションまで来ているのかは、基本的には内部にしか情報がないわけです。暗黙知も含めて。

そういうものをなるべく早く吸収して、AIの一般的な知識と組み合わせて「自分たちの会社オリジナルだったらどういうことが適切なのか」という判断力を早くつける。少なくとも当面は、そういう価値は残るはずだし、早々に置き換わることはないと思います。

一方で、構えすぎないほうがいい、という声もありました。YKK APの石井様のスタンスです。

石井 ただ、スタンスとしてはどうやって面白がるかということに尽きるんじゃないかと思っています。この波は絶対に止まらないですから、不安がっていても仕方がない。

変化をリスクとしてだけ見るのではなく、チャンスとして捉えて、どうやって自分の仕事に組み込んでいくかを考える方が建設的だと思っています。

「事業理解」「暗黙知」「内部にしか情報がない」。別々の会社の方が、それぞれの言い方で同じ方向を指していたのが、今回の取材で目立った点でした。もしそうだとすれば、大企業の法務で積む経験には、その会社の中でしか得られない部分が含まれているということになります。

今回の9社を並べてみると、「大企業の法務=大所帯で縦割り」というイメージだけでは捉えきれない側面が見えてきます。法務部の人数も、担当の切り方も、契約審査の外側にある仕事も、会社ごとに違っていました。なお、ここで語られたのは9社15人の実例であり、大企業の法務がすべて同じ姿をしているわけではありません。関心を持たれた会社があれば、それぞれの記事で、より詳しいお話をご覧いただけます。

大企業の法務への転職を考えている方へ

アガルートキャリアは、弁護士・法務・管理部門に特化した転職エージェントです。大手企業の法務ポジションについても、公開されていない求人を含めてご紹介できる場合があります。法務部の人数や体制、担当の切り方、事業部との距離といった点は、求人票からは読み取りにくい部分です。

ご相談は、弁護士・法務のキャリアを専門に扱うアドバイザーが担当します。本記事のように、各社の法務トップや現場の担当者に直接お話を伺っていることが、ご提案の精度につながっていると考えています。組織の雰囲気や、実際にどのような経歴の方が活躍されているかといった、数字に表れない部分もお伝えできます。

すぐに転職をお考えでなくても構いません。まずは市場の状況を知りたい、自分の経歴が大企業の法務でどう評価されるのか確認しておきたい、という段階でのご相談も歓迎しています。ご相談は無料です。

大企業の法務という選択肢について、一度話を聞いてみたいという方は、お気軽にご連絡ください。

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この記事の監修者

アガルートキャリア

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